いま私たちにできることは何か――ハワイ・マウイ島の山火事被害に世界の支援広がる

避難者に声をかける米国赤十字社ボランティア

世界を代表する観光地ハワイ・マウイ島を突如襲った未曾有の自然災害。現地時間の8日未明に起きた山火事は、西部の古都ラハイナのほとんどを焼き尽くし、これまでに110人が死亡(ハワイ政府、17日午前発表)、米国赤十字社によると1万1000人が避難を余儀なくされているという。犠牲者はさらに増えると予想され、家族を失い、家を失った人々を力付けようと、現時点で米国はもとより、世界中で多くの企業や団体が支援に乗り出している。ここでは、米国と日本の動きを中心にレポートし、被災地に対して、いま、一人ひとりができることは何かを考えたい。(米・SB.com +編集・廣末智子)

山火事発生の影響で西部ラハイナが大きな被害を受けてからほぼ1週間後の先週、米サステナブル・ブランドは現地を支援する先進的な動きをニュースサイトのSB.comでまとめた。同サイトに掲載された事例の中から、積極的な動きを見せる米国の主な企業の活動から記してみよう。

Bコープ認証を受けた世界最大の旅行会社、Intrepid Travel(イントレビッド トラベル)は、非営利団体のイントレピッド財団を通じて、『ハワイ山火事緊急アピール』を開始。最大5万米ドルを米赤十字社に寄付することを約束した。フットウェアブランド、OluKaiは、誰でも、どこでも、"アロハを生きる"ことができるという理念のもとに設立され、10年にわたって靴が一足売れるごとに収益の一部をAma OluKai 財団を通じて寄付する形でハワイのコミュニティを支援してきた。同財団は、マウイ火災緊急基金を設立し、最初の20万ドルの寄付金に同額を上乗せすることを表明している。

Airbnb 1000人に無料で一時滞在場所を提供

世界最大級の旅行プラットフォームAirbnb (エアビーアンドビー).orgは、 マウイ島の山火事で避難した少なくとも1000人に無料で一時滞在場所を提供する予定だ。具体的には、ハワイ州に家や空き部屋がある人は誰でも、Airbnb.orgに登録することで、無料または割引価格で、自宅を失い、避難している人たちに居場所を提供できる。また、誰でも、どこでも、Airbnb.org に寄付することで、現在および将来の危機に備えて緊急滞在の資金を援助できる。

ホテル関連では、Highgate Hotels(ハイゲート ホテル)が、山火事の影響を受けたマウイの家族を支援するために誰でも寄付できる『ラブ マウイ基金』を立ち上げた。マウイ島のために100万ドルを集めることを目標に、今後の予約1件につき10ドルをハイゲート慈善財団に寄付する。

地元海運会社が緊急機材や物資輸送も

経済誌の『Forbes誌』や『ハワイ・ビジネス誌』によると、地元の海運会社、Matson(マトソン)も、FEMA(連邦緊急事態管理庁)やハワイ食品産業協会のために、緊急対応機材やその他の物資をマウイ島に輸送している。金融機関では、ファースト・ハワイアン・バンクが、『アロハ・フォー・マウイ』キャンペーンに25万ドルを寄付し、マウイ島の全銀行のATM手数料を無料にした。

さらに、ドール・フード社とオアフ島を拠点とする子会社ドール・フルーツ・ハワイは、救援・復興活動を支援するため、ハワイの赤十字と、マウイ・フード・バンクにそれぞれ5万ドルを寄付した。

航空各社 往路便増便、運賃引き下げ

空の便はどうだろうか。CNBCによれば、アラスカ航空、アメリカン航空、サウスウェスト航空が往路便を増便し、運賃を引き下げた。地元ニュースによると、ハワイアン航空は、島からの脱出を支援するために夜間便を増便し、マウイ島から19ドルのメインキャビン運賃を提供しているほか、ハワイ・フードバンク、マウイ・フードバンク、ハワイ・コミュニティ財団のマウイ・ストロング基金にそれぞれ5万ドルを寄付。さらに、同社は、フライトや貨物、ボランティア支援を求める多くの団体や個人に効率的に対応するため「マラマ・マウイ・デスク」を設立するなど、さまざまな

避難住民に食事を提供するための寄付を募るマウイ・フード・バンクのトップページ

面で救済活動に貢献している。

IT関連でマイクロソフトは、AI for Good Research Labとの提携によって、高度なAIモデルと衛星画像を使用して被害の程度を分析しており、赤十字によれば、その効果で、予備的な被害評価のプロセスが、通常のスケジュールよりも数日早く進んでいるという。

避難民にレストラン品質の食事を

避難住民らに現地で食事を提供している団体も多くある。マウイ・フード・バンクマーシー・シェフズのほか、シェフ・フイは、ワールド・セントラル・キッチンコモン・グラウンド・コレクティブと提携し、「この必要な時期に私たちのlāhui (ラフイ、ハワイ語で祖国のような意味)を支えるレストラン品質の食事を作る」ため、マウイ島に食の拠点を設立しようとしている。

人間以外の生き物に対する支援としては、マウイ動物愛護協会が、山火事で避難している保護動物のための寄付や物資を受け付けている。

日本も支援の動き 義援金拠出や募金受け付けを企業発表

一方、日本からの支援も活発になりつつある。日本政府は16日、総額200万ドル(約2億9000万円)規模の支援を行うことを決定。米赤十字に対し、無償資金協力予算から150万ドル(約2億2000万円)を提供し、被災地での安全な避難場所や食料、被災者への精神的なサポートなどを行うほか、現地のニーズを踏まえた支援を行うため、NPO法人「ジャパン・プラットフォーム」を通じ、50万ドル(約7000万円)を支援する。

サステナブル・ブランド ジャパンの調べでは、現時点で支援を表明している日本企業も少なくない。

サントリーホールディングスは17日、義援金として7万米ドル(約1020万円)をハワイ・コミュニティ財団のマウイ・ストロング基金に拠出することを、また、三井住友フィナンシャルグループも18日に義援金1000万円を寄付することを発表している。

JALは、JALチャリティ・マイルによる寄付をウェブサイト上で1口500マイル(500円相当)単位で募集しているほか(日本時間で9月30日まで)、8月26日〜来年3月31日に出発するJALパックツアーの収益の一部から1人あたり500円を支援金としてマウイ・ストロング基金に寄付する。

セブンイレブンはSEVEN-ELEVEN HAWAII.INCを通じて、グラノーラバーなど約2900個の食料支援物資をマウイ島の避難所へ届け済み。今後も継続して届けるほか、日本国内では28日まで全国の店舗で募金を受け付ける。支援募金はローソンも全国の店舗で8月31日まで受け付け中だ。

またNTTドコモも被災地支援活動の一環で、ジャパン・プラットフォームを通じ、『dポイント・ドコモビジネスメンバー』では1ポイント=1円から、『d払い』では1円から、25日まで募金を受け付けている。

旅行会社として、復興支援プロジェクトを開始したのは令和トラベル(東京・渋谷)で、1口1000円から寄付を募る専用窓口のほか、マウイ島を除く全ハワイツアーの成約1件につき500円をマウイストロング基金に寄付する。同社はリリースで、現在も、「カウアイ島、オアフ島、ラナイ島、ハワイ島など、マウイ島を除くハワイ諸島へは問題なく渡航可能である」ことを強調、「今後も海外旅行予約アプリを通じて現地の正しい情報を届けるという海外旅行会社の責務を果たすとともに、海外旅行の促進に尽力する」としている。

広島の国際NPOが現地入り「一面焼けた街に人影なく鼻を刺す異臭」

17日に現地入りした日本の国際NGOが撮影したラハイナの街。規制線付近で見た家の門は熱によりぐにゃりと溶けて曲がっていたという(認定NPO法人ピースウィンズ・ジャパン提供)

「認定NPO法人ピースウィンズ・ジャパン」(広島・神石高原町)は、17日までに先発隊として看護師を含むスタッフ3人を現地に派遣。リリースによると、HPや寄付サイトを通じて集まった1000万円以上の寄付金を活用しながら今後の被災状況に応じた支援活動を行う、としている。17日未明に現地に到着した同法人のカメラマン、近藤史門氏のレポートは、最初に立ち寄ったラハイナで見た光景をそのままに伝える。海岸線まで一面焼けた街に人影はほとんどなく、現場にはわずかにプラスチックの焼けたような、鼻を刺す異臭が立ち込めていた。辺りは白い灰に覆われ、地震などと違って家屋や家財道具など「片付けるものが何もない」状況のように見えたという。

支援チームは現在、衛生用品、食料や飲料、サプリメント、子ども用のお菓子や離乳食・粉ミルク、犬や猫用のフードなどの物資を、現地の人々と連携しながら支援して回っているところで、近藤氏は、「マウイ島では街全体が被害を受け、コミュニティが崩壊してしまっている状態。復興には数年単位の時間がかかるとみられるが、日本の皆さんには、被災した人びとのことを忘れず、継続的に支援してほしい」と呼びかけている。

『コミュニティの一員として連隊と支援を誓う』 国立天文台ハワイ観測所がメッセージ

一方、今回の山火事を受け、隣接するハワイ島で「すばる望遠鏡」を運用する国立天文台ハワイ観測所は17日、日本語と英語でマウイ島の被災者に心を寄せるメッセージを発表。『私たちも、言葉では言い尽くせない深い悲しみを感じています。しかし、この美しいハワイ州のコミュニティの一員として、私たちは揺るぎない連帯と支援を誓います』とスタッフ一同の連名で呼びかけた。同観測所では職員92人のうち7割ほどが現地雇用で、今後はハワイ島やマウイ島で天文台を運用している各国の研究機関とともに寄付活動や、被災地でのボランティアを行う方針だ。

日本赤十字社も18日から、正式に「2023年アメリカ・ハワイ火災救援金」の受け付けを開始した。大きな悲しみと困難の中にあるハワイのコミュニティと心を共に、いま、一人ひとりができることを行動に移すことが求められている。

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