ガールポップの名曲!加藤いづみ「好きになって、よかった」武部聡志プロデュースで新録  ドラマ挿入歌にもなった “ガールポップ” ナンバー「好きになって、よかった」

ガールポップの代表選手、加藤いづみ

“加藤いづみ” の名前を最初に目にしたのは、1991年5月21日に発売になったファーストアルバム『テグジュペリ』がきっかけでした。ジャケットに写る長い黒髪の少女とタイトルの『テグジュペリ』。当然、童話『星の王子様』を連想しないわけにはいかず、メルヘンチックな世界観に強烈に魅かれていったのを憶えています。それまで、谷山浩子、遊佐未森、工藤順子あたりを好んで聴いていたのでどこか共通するものを感じていたのかもしれません。

当時、彼女のようなシンガーソングライターでもアイドルでもないアーティストをカテゴライズするジャンルが存在しておらず、その救世主として現れたのが翌年創刊された雑誌『GiRLPOP』でした。「WHAT's IN?」の増刊扱いとしてソニーマガジンズから1992年に発刊された『GiRLPOP』には、歌唱力だけでなくアイドル性も持ち合わせた女性アーティストが多く取り上げられ、やがて大きなムーブメントになっていきました。創刊号には、ガールポップの代表選手と言われている、森高千里、谷村有美、永井真理子、佐藤聖子など多くのアーティストが掲載されていますが、そこにはもちろん加藤いづみの名前もあります。

雑誌が創刊された1992年11月20日、新宿にあったライブハウス『日清パワーステーション』で「LIVE 'GiRLPOP'」の1回目が開催されています。この時の出演者は、加藤いづみ、篠原利佳、久宝留理子、桃姫バンド(尾崎亜美、今野登茂子、谷村有美、小原礼)で、加藤いづみはすでにガールポップ界を担う存在になっていました(このイベントは日清パワーステーションが閉鎖される1998年まで22回開催)。そんな経緯もあり、“ガールポップ” は、雑誌『GiRLPOP』がきっかけとなり派生したジャンルということになります。

ドラマ「悪魔のKISS」挿入歌、「好きになって、よかった」

そんな “ガールポップ” の流れに乗った加藤いづみに、大きなチャンスが訪れます。1993年7月から放送されたフジテレビのドラマ『悪魔のKISS』の挿入歌に加藤いづみの楽曲が起用されることになったのです(主題歌はサザンオールスターズ「エロティカ・セブン」)。このドラマの主演は奥山佳恵・深津絵里・常盤貴子の3人で、性地獄・宗教地獄・借金地獄に墜ちていく様を描いた強烈な内容で、ドラマは当時とても話題になりました。

ドラマ放送開始後の7月21日に発売になった挿入歌「好きになって、よかった」は、加藤いづみの持つキュートな声質に合ったアコギを基調としたスローバラードで、7枚目のシングルにしてオリコン最高位22位を記録するスマッシュヒットになりました。

王道のポップスアルバムとして丁寧に制作された「Sweet Love Songs」

このシングルが発売された翌月の8月4日には、サードアルバム『Sweet Love Songs』が発売されています。アコギ1本による約2分の短いバラード「パーティーに君は来るの?」から始まるこのアルバムは、ギターサウンドが印象的なポップナンバー「星空のジェットプレイン」と続きます。

このアルバムの核となるようなキャッチーなポップナンバー「おちょこの傘につかまって」や、シングルとしても発売されたラテンのリズムが印象的な「シャンプー」は、デビュー以来彼女のサウンドプロデュースを担ってきた高橋研のセンスがキラリと光るアレンジです。「好きになってよかった」はアルバムの6曲目に収録されていますが、あくまでもアルバムの中の1曲として自然に溶け込んでいる印象を受けます。9曲目の「みんなパレードのせい」は加藤いづみ自身が曲を手がけており、彼女の人柄が表れている素直なメロディーがとても心地よいポップナンバーです。

奇をてらうことなく王道のポップスアルバムとして丁寧に制作された『Sweet Love Songs』は多くの人たちの支持を受け、初のオリコンのTOP10入りを果たしました。この流れに乗り、翌年に発売されたアルバム『skinny』もTOP10入りさせるヒットになり、加藤いづみは90年代のガールポップの代表選手として大活躍しました。

「好きになって、よかった(2023)」が新録音で収録

そして、今年2023年、サードアルバム『Sweet Love Songs』が、30年の年月を経て、『Sweet Love Songs + 【Remastered】』として8月23日にリリースされます。このアルバムにはリマスターされた11曲の他に、「好きになって、よかった(2023)」が新録音で収録されています。このバージョンのプロデュースは、フジテレビ系『LOVE LOVEあいしてる』での共演をきっかけに加藤いづみと長く繋がりを持つ武部聡志が担当し、ピアノ主体のシンプルなアレンジが、30年前と変わらない彼女のキュートな歌声を際立たせています。10月12日には武部聡志をピアニストとして迎え、TOKYO FMホールでコンサートが開催されることも決定しています。

これまでに多くのアーティストのコーラスをつとめてきた加藤いづみですが、11月より開催される小泉今日子のツアー、小泉今日子 TOUR 2023「KYOKO KOIZUMI CLUB PARTY 90's」にコーラスとして参加することも発表されています。このツアーに参加される方は、是非彼女のコーラスにも注目してみて下さい。

「好きになってよかった」という曲はシンプルな分、スーッと心の中に入ってくる名曲です。あの頃リアルタイムでこの曲を聴いていた方は、最新バージョンと聴き比べながら、自身の30年の歴史をふと振り返るような時間にしてみてはいかがでしょうか。

カタリベ: 長井英治

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