全国各地で40度に迫る気温が記録されており、「災害級」とも報じられている連日の猛暑。熱中症で救急搬送される件数も、総務省の調べによると、7月だけで3万4000件を超す勢いだ。
軽度の熱中症も含めると、熱中症患者はそれ以上の数にのぼるはず。
そんな“特別な夏”に、熱中症にかかわる、大規模な研究データがまとめられている。金沢医科大学眼科学講座の佐々木洋主任教授が語る。
「’16年1月から’23年2月まで、255万8000人分の診察データを分析したところ、熱中症にかかった人は、そうでない人に比べ、5年後に白内障を発症するリスクが高まるという結果が出ました」
白内障とは、目のレンズの役割をする水晶体が白く濁ってしまう病気。そのため、レンズの役割が十分に果たせずに、初期には近くのものにピントが合わせづらくなる老眼の症状がでてくる。進行すれば視界がぼやけたり、かすんだり、まぶしく感じたりするのだ。
60代から発症する人が大きく増え始め、70代で9割、80代のほぼ全員が罹患するといわれているため、加齢が原因という印象が強いが……。
「’96年から紫外線と白内障の関係を研究してきましたが、紫外線ばかりでなく、熱も関係していることがわかってきました」(佐々木教授・以下同)
■水晶体のタンパク質が熱で変性する可能性
そこで今回、体温が40度にもなり、目の中の温度も上昇させてしまう熱中症に注目したのだ。
「その結果、熱中症にかかったことがない60代の白内障の発症率は5%ほどでしたが、5年以内に熱中症にかかったことがある患者の発症率は20%を超え、発症リスクが4倍以上に高まりました。30代、40代、50代という若い世代においても、熱中症が白内障リスクを高めるという、同様の結果が得られました」
なぜ、熱が白内障に影響を与えるのだろうか。
「眼内の温度が上昇すると、水晶体を作っているクリスタリンというタンパク質が変性してしまうのです。わかりやすく言うと、生卵の白身に熱が加わると、白く変色するのと同じ。また、一度、濁ってしまうと元に戻ることはありません」
白内障はQOLを低下させ、治療には手術するしか方法がないため、発症リスクはぜひ、下げたいところだ。
「熱中症になったり、猛暑日に帰宅して平熱よりも体温が上がっているようなら、首、脇だけでなく、目を冷やすことも、白内障リスクを減らすのに有効である可能性があります」
8月以降も予想される猛暑。熱中症と白内障対策を忘れずに。