遂に完成! 山田康雄を多田野曜平が、大平透を楠大典が、大塚周夫を大塚明夫が引き継いだ『戦略大作戦』インタビュー! 26年目の〈吹替完全版〉

『戦略大作戦【吹替完全版】ムービープラスオリジナル』

『戦略大作戦』【吹替完全版】ムービープラスオリジナル

CS映画専門チャンネル ムービープラスは、クリント・イーストウッド、テリー・サヴァラス、ドナルド・サザーランド出演の戦争アクション大作『戦略大作戦【吹替完全版】ムービープラスオリジナル』を、2023年9月にテレビ初放送。

これは、多田野曜平、楠大典、大塚明夫、咲野俊介、茶風林を迎え、地上波TV放送時にはカットされた約39分のシーンに音声を新たに収録した、ムービープラスオリジナルの完全版だ。

戦争映画の金字塔、『戦略大作戦』の素晴らしさについては以前BANGER!!!に寄稿したことがあったが、ここで改めて本作の紹介をさせて頂きたい。

70年代に突如現れた怪作にして傑作

本作は1970年制作の戦争映画。『ナバロンの要塞』(1961年)、『史上最大の作戦』(1962年)、『大脱走』(1963年)、『バルジ大作戦』(1965年)、『パリは燃えているか』(1966年)、『特攻大作戦』(1967年)といったオールスターの名作・大作が大量生産された60年代を経て、大作戦争映画が下火になった70年代に突如現れた怪作にして傑作だ。

既存の戦争映画の流れを完全に無視した奇想天外なストーリー展開、同年制作の『M★A★S★Hマッシュ』(1970年)にも通ずる厭戦感、そして大量の火器・兵器をつぎ込んだ燃える大戦闘シーンが大きな見所。ドイツ軍占領地に眠る金塊の情報を入手したケリー二等兵が、所属する小隊と共に敵地深くに潜入する……というストーリーだが、とにかくアチャラカな展開が続くので肩肘張らずに楽しめる。

山田康雄、大平透、大塚周夫、宍戸錠、永井一郎…豪華すぎるオリジナル吹替俳優陣

そんな『戦略大作戦』は、1977年にフジテレビのゴールデン洋画劇場で地上波放送された際に吹替版が作成された。当然クリント・イーストウッドは山田康雄、テリー・サヴァラスは大平透、ドナルド・サザーランドは宍戸錠(!)、リトルジョー役のスチュアート・マーゴリンは大塚周夫、他に永井一郎、富田耕生といった豪華キャストが吹替を担当。

しかし、前述の通り、テレビ放送の尺の関係で本編144分のうち約39分がカットされたバージョンで制作されていたため、メディア化の際に残念な形となってしまっていた。

そこで! 鬼籍に入られた山田康雄、大平透、大塚周夫、宍戸錠、永井一郎の各人の追録として、多田野曜平、楠大典、大塚明夫、咲野俊介、茶風林が参加する追録を実現。ついに全編吹替の『戦略大作戦』が本邦初公開となる。

さらに、山田康雄の誕生日である9月10日(日)には「特集:レジェンド声優 山田康雄」と題して『ルパン三世 バビロンの黄金伝説』ほか吹替作品を4作放送。ということで今回、多田野、楠、大塚の三氏に追録を終えての心境を伺った。

大塚「“二人でひとつ”という形。父と一緒に演じているかのよう」

本作の吹替追録に臨むにあたり、改めて本作を観た三氏は共に子供の頃から何度も観ている映画としながらも、多田野は「改めて観る前にイーストウッドの自伝を読んだ上で観たんですが、反戦映画として観てみたらまたひとつ面白さが違いました。なるほど、そういうことなんだ! と思いましたね」と吐露。そして、それぞれ前任からバトンを渡されて本作に臨む三氏は、以下のように語っている。

多田野
私はアゴが長いので喉が圧迫されないように、なるべく顔を上げて演技をしてみたんですが、この方が(山田さんの声に)似ているような気がして、下から見上げるようにして収録してみました。

(主人公らしからぬ欲深いキャラクターを演じているイーストウッドについて)演じ方はまったく変えていないんです。僕は山田さんの追加収録ということで呼んでもらっているので、今回のイーストウッドがどうこうよりも、<山田さんが吹替えてニュアンスを付けたことによって、僕らの脳内に認識されているイーストウッドというキャラクター>を演じるんだ、ということだけを考えるようにしています。


やはり先代の方々が素晴らしい演技をされているので、それを改めて観て勉強しなおしたりして、どうなぞれるのか? といった部分を“ハズさない”ように意識しましたね。昔の映画ってセリフの尺がゆったりしているのかな? と予想して取り組んだんですが、大平さんのセリフがものすごくタイトにびっしりと詰まっていて、これは読みながらではできないなと思い、セリフをすべて覚えるレベルで臨みました。

(今の収録条件とは)時代が大きく違っていて、この吹替が収録された当時は吹替陣が全員一度集まって、映像を観て、その日にテストをやって本番を撮って……という感じだったので、それはもう相当な技術ですよね。いま僕がやろうとしてもできないんじゃないかな? というくらいの職人技なんです。こんなに難しいことをしていたんだと、当時の方々はすごいなと思いますし、本当に尊敬しています。

大塚
(亡父の後を受けることについて)以前もこういった形で一緒に仕事をしていて……父の最後の仕事となったのはナレーションだったんですよ。そこで足りない部分を後で補完したのが最初でした。その後もゲーム作品などで吹替の引継ぎをやったりしているので、つまり“二人でひとつ”という形ですよね。それは……うん、楽しいです。なんだか一緒にやっているような気がしてね。

(今回は)あくまでも追録ですので、“周夫さんのテイスト”を損なわないように(笑)、あたかも目の前に蘇ったかのようにできたらいいなと思い演じました。部分的にではなく、父ならどう演じただろうな? と想像しながら補完していくんですが、そんなに“ハズれていない”んじゃないかなと。皆さんの記憶も徐々に薄れてらっしゃると思いますので(笑)、条件は一緒ですから。

多田野「“山田さんが吹替えたイーストウッド”が脳内に認識されている」楠「僕のパートは大目に見てほしい(笑)」

そして今回の吹替追録版『戦略大作戦』の見所について、三氏は以下のように語っている。

多田野
僕らは(テレビ放送用に)カットされている『戦略大作戦』しか観たことがなかったんですよね。山田さんの吹替が入っていないソフトは買う気にならなかったし。だから僕は今回、初めてノーカット版を観たんです。でも僕と同じようにノーカット版を楽しみにしている人が相当いるんじゃないかなあ。もちろん、本作を知らなかった方たちにもぜひ観てもらいたいですよね。


大塚さんも多田野さんも、周夫さんの引き継ぎや山田さん演じるイーストウッドの追録をやられています。当然ながら今回も素晴らしいんです。

たとえば、明夫さんの普段のお芝居の中でも貴重な部分が聴けるということもあって、そこは僕も追録をしていて楽しかったですね。多田野さんも、長らく(山田さんの)イーストウッドの吹替を担当されているので、もう“まんまじゃないの!?”って思ってしまうくらい、本当に素晴らしいと思います。それに比べての僕ですよ(笑)。血がつながっているわけでも、長くやっているわけでもないので……僕のパートは大目に見てほしいかな(笑)。

大塚
映画そのものの面白さに加えて、懐かしい吹替の大先達たちのお芝居、そして後を追いかける我々がどこまで追随しているのか? そんなことを楽しみにしながら観ていただければ、お腹一杯になれるのではないでしょうか。

――ついに全貌を見せる「『戦略大作戦』【吹替完全版】ムービープラスオリジナル」。初めて観る人にとっても、何度も観ている人にとっても必見の放送だ。そして2023年8月21日(月)には、ワタクシも出演している同ムービープラスの番組『副音声でムービー・トーク!』でも本作を取り上げて副音声で詳細解説をしているので、こちらもよろしくお願いします。

文:高橋ターヤン

『戦略大作戦【吹替完全版】ムービープラスオリジナル』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2023年9月10日(日)放送(※9月18日[月・祝]再放送あり)

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