歌手活動15周年の三山ひろしが新曲『北海港節』をリリース「歌の道の一里塚を踏みしめて歩み出す決意と覚悟がこの歌にはあふれています」

充実の歌手活動15周年イヤーを駆け抜けている三山ひろしが、新曲『北海港節』(作詞：いではく、作曲：弦哲也、編曲：矢野立美)をリリース。デビュー以来、人々を魅了してきた温もりのある朗らかな歌声のイメージから一転、海に生きる男の覚悟をハードかつ勇壮に歌い上げ、さらなる飛躍へと門出する。今年は大阪・新歌舞伎座での座長公演やＮＨＫ朝の連続テレビ小説「らんまん」での演技、梅沢富美男劇団への特別出演も話題に。また“三山家とさ春”の高座名で落語にも取り組んでいる。歌手としては15周年記念コンサートの大規模全国ツアーの真っ只中だ。八面六臂の活躍を見せながら、その軸にある歌い手としての矜恃や15周年の感慨をたっぷり語ってもらった。

亡き師への思いに満ちた涙のレコーディング

──新曲『北海港節』はダイナミックに歌い上げる男唄。15周年第２弾シングルとして歌手・三山ひろしの新たな魅力を開く１曲になったのではないでしょうか。

確かにこれまでの僕の歌は、どちらかというとおおらかな感じのものが多かったですから、出だしからガツンと来るのは新鮮でしたね。歌い出しから高音のロングトーンと難易度が高く、僕もかなり練習をしてレコーディングに臨みました。ところが当日、途中で歌えなくなってしまって。15年やってきて初めてのことなのですが、『ちょっと時間をください』とレコーディングを中断させていただいた一幕がありました。

──どうなさったんですか？

師匠である中村典正先生（2019年８月16日逝去）の面影が浮かび、どうにも涙が止まらなくなってしまったんです。この歌は漁師になることを決意した男が師匠に弟子入りし、いよいよ海の男として生きる覚悟を持って船出するまでが描かれています。この歌詞がまさに歌手・三山ひろしの歩みとぴったり重なるんです。

──25歳で単身上京されてからの歩みということですね。

はい。僕は芸能一家に育ったわけでもないし、東京に出てきたところで誰も頼る人がいなかった。そんな寄る辺ない身の僕を、本当の息子のように愛情を注いで育ててくれたのが中村先生と松前ひろ子先生でした。師匠にはなんとしても恩返しをしなければならないと思っていた矢先に、中村先生はお亡くなりになってしまった。今は中村先生に見せられなかった風景を、松前先生に見ていただこうという気持ちで頑張っていますが、母子家庭だった僕にとって、やはり中村先生の存在はとてつもなく大きかったんです。

──歌詞には頑固で不器用だけど、心根は温かい師匠の姿も描かれていますね。

無口だけど、ポツリという一言一言にズッシリ重みがあるという、そんな中村先生は僕にとって理想の父親像でした。誰からも慕われて、それでいて威厳があって。いつか自分が子どもを持ったらこんな父親になりたいとずっと背中を追い続けてきたんです。もちろん歌い手としても、今に至るすべてを指南していただきました。作詞のいではく先生は、この歌に託して『初心を忘れるなよ』と僕に伝えてくれているのだと思います。歌の道の一里塚をしっかり踏みしめて、この先の20年、25年を見据えて歩み出す、そんな決意と覚悟がこの歌にはあふれています。

──そんな思いの詰まった『北海港節』ですが、カラオケではどんなふうに歌うと映えそうですか？

最初のロングトーンが決まれば、この歌の９割は成功というくらい、歌い出しが重要です。こぶしが得意な方は、ここでぜひガンガン回してください。イントロもアウトロも短いので、気づいたらあっという間に歌い終わっていると思います。その分、スポーツの後のような爽快感があって、ストレス発散にはうってつけ。難易度は高いですが、歌いこなせたらこれ以上、気持ちいい歌も滅多にないと思います。

──カップリングの『三面川暮色』（作詞：いではく、作曲：弦哲也、編曲：矢野立美）は一転して、ゆったりしたワルツのリズムの叙情歌です。

こちらも作詞はいではく先生で、新潟を流れる三面川の描写がなんとも見事。歌っていて本当に自分がその風景の中にいるような気持ちになります。『北海港節』でヘトヘトになったあとにクールダウンするようなイメージですね(笑)

朝ドラスタッフの皆さんのさりげない気遣いに感謝

──本シングルリリースの７月５日には、『新歌舞伎座三山ひろし15周年記念～飛翔！歌の道遥かに！～』のＤＶＤ＆Blu-rayも発売されました。

こちらは歌もたっぷりですが、芝居パートの第１部『裲襠（うちかけ）松次郎〜拙者の生き様〜』もぜひご覧いただきたいです。毎回、座長公演では劇作家の池田政之先生に新作を書いていただくのですが、今回、僕がお願いしたのは、人生でスポットライトを浴びないような人物。いわゆるヒーローではないけれど、一生懸命生きている人を演じたかったんです。そこで池田先生が僕に当てて書いてくれたのが、お城で奥方様たちの着物を管理する役職。武士ではあるけれど、いわば閑職の松次郎が陰謀に巻き込まれ、自らの信念と友情を貫いて戦う物語です。切ないながらも最後はハッピーエンド。役者陣みんな涙する素晴らしい作品になりました。

──“演じる三山ひろし”といえば、今年は朝ドラ「らんまん」への出演がTwitterのトレンド入りするなど、話題を呼びました。

故郷・高知の言葉そのままでいいですよ、ということだったので、自然体でいけるかなと思ったんですが、蓋を開けてみたら大女優・松坂慶子さんとの芝居。めちゃくちゃ緊張しました。

──呉服屋の若旦那という役どころもハマり役との声が多かったですが、今後もドラマ出演はいかがですか？

スケジュールが合えばぜひというところですけど、なかなか難しいんですよね。特に今年は15周年の全国ツアーがあったり、梅沢富美男さん、研ナオコさんの特別公演にも参加させていただいたりと“本業”がかなり充実しているので。ただ小道具さんが（着物の）根付にけん玉をご用意くださって、そんな風に役を歌手・三山ひろしに寄せていただいたのは本当にうれしかったです。

異分野への挑戦は信念を持って極めなければ失礼

──三山さんといえば、今やすっかり紅白名物となったけん玉はもとより、カブトムシ飼育、包丁研ぎ、着付け、裁縫、ドローンなどなど多趣味でも有名。一昨年からは三山家とさ春の高座名を得られて、落語の披露も活発にされています。

１部は落語、２部は歌謡ショーという特別公演もシリーズ化しました。ありがたいですよね。趣味だったことが、こんなふうに仕事に活きてくるのは。

──趣味とおっしゃりながらも、どれも深くまで追求されているのが驚きです。

つまみ食いみたいなのは嫌なんです。一度、手をつけたものは極めたい。まぁ、性格ですよね。ただ最近、プラモデルみたいな遊びの趣味はぜんぜんできてないんです。今はどうしてもコンサート、リサイタル、劇場と目白押しで、家に帰っても10分だけドラムの練習をしようと叩いているうちに、あっという間に３時間。気づけば汗だくになっているという日々です。あとはギターの弾き語りも、もっと極めたいなと取り組んでいるところです。

──歌一筋と考えたことはないですか？

それについては、デビュー前から考えてきたところがあります。確かに昭和の時代は歌だけをお届けして成立したかもしれない。だけどこれだけエンタメがあふれている今、果たして歌っているだけでみなさんを楽しませられることができるだろうか。やはりプラスアルファの要素が求められるんじゃないかと。ただ、それも中途半端ではいけない。きちんと信念を持って極めなければ、“本業”で取り組んでいる方に失礼だという思いもありました。

三山ひろしのど真ん中に歌があることは変わらない

──三山さんにとっては、どこまでいっても本業は歌手ということですね。

もちろんです。根幹である歌がしっかりしていなければ、趣味＝枝葉を伸ばしたときにポキッと折れてしまう。それではダメと思いますし、一方で幹と根っこが太いからこそ枝葉も充実して伸ばすことができます。また多彩な枝葉で楽しんでいただいた方が、根幹である歌に注目してくださるということもある。あくまで三山ひろしのド真ん中にあるのは歌であるというのは、これからも変わらないところです。

──その歌を堪能できるコンサートが全国各地で開催されます。最後にファンのみなさんにメッセージをいただけますか。

過去に一度でもコンサートに足を運んでいただいた方には『ここまで来たか』と新鮮な驚きを体感していただける、そして『来年はどうなっているだろう？』と期待していただけるようなステージを常に目指し、日夜さまざまな稽古を積んでいます。テレビもラジオも、そしてＣＤもいいけれど、やはり生のコンサートで伝わるものはひとしお。音楽を全身で浴びる感動を、ぜひ共に分かち合いましょう。会場でお待ちしております。