老後の資産運用に向いているリスク商品は? 取ってはいけない価格変動リスクの見極め方

前々回、高齢者もある程度のリスクを取らないと、資産価値が目減りするリスクがあることを説明しました。ただ、さまざまなリスク商品があるなかで、取っても良いリスクと悪いリスクがあります。それを見極めることが肝心です。

参考記事:「高齢者の資産運用は安定資産で」は本当なのか?


何もしないと資産価値は目減りする

だいぶ前の話になりますが、前々回のコラムで預貯金にお金を置きっぱなしにしておくと、資産価値が毀損するという話をしました。具体的な数字を挙げて見てみましょう。

2022年1月の消費者物価指数を見ると、「生鮮食品ならびにエネルギーを除いた総合」の前年同月比は、▲1.1%でした。つまり1年間で物価が1.1%も下がったのです。

一方、預金の利率はどうだったのかというと、2022年1月に満期を迎えた1年物定期預金の利率は、全国平均値で年0.003%でした。年0.003%がどのくらい低いのかというと、たとえば100万円を預けて1年間運用した場合の利息は、税引き前で30円です。100万円を1年運用して得られるリターンがたったの30円では、運用も何もあったものではありません。ところが、世の中からはほとんど文句が出てきませんでした。なぜなら物価が下がっていたからです。

この1年で預金の資産価値は4%も目減り

前述したように、2022年1月時点における消費者物価指数の前年同月比は、▲1.1%でした。そして、この時に満期を迎えた1年物定期預金の利率が年0.003%だとしたら、

0.003%-▲1.1%=1.003%

になります。そう、定期預金の表面上の利率は年0.003%でしかないのですが、物価が▲1.1%なので、1年物定期預金の実質的な利率は年1.003%にもなったのです。次に直近の状況を見てみましょう。

2023年6月時点の消費者物価指数は、「生鮮食品ならびにエネルギーを除いた総合」の前年同月比が4.2%でした。これに対して1年物定期預金の利率は、年0.005%ですから、前出の計算式に当てはめてみると、この1年間の実質的な利率は、年▲4.195%です。

つまり2022年6月から2023年6月までの1年間で、定期預金に預けてあるお金の資産価値は、4.195%も目減りしたことになります。このように資産価値が毀損するのを少しでもカバーするために、リスク資産をポートフォリオに組み入れる必要があるのです。

取っても良い価格変動リスク、取ってはいけない価格変動リスク

リスクにはさまざまな種類がありますが、ここではひとまず価格変動リスクに限定しましょう。その価格変動リスクでさえ、取っても良い価格変動リスクと、取らない方が良い価格変動リスクがあることに注意して下さい。

何が分かれ目になるのかというと、その価格変動リスクが投機によるものなのかどうかということです。

投資と投機の違いは、何に資金を投じるのかによって分かれます。

投資は、対象物が持つ付加価値の成長期待に資金を投じます。たとえば株式であれば、企業活動によって生み出される配当という付加価値の成長期待に対して、不動産であれば、土地の上に建てられている建物から生じる家賃収入という付加価値の増加期待に対して、資金を投じます。

これに対して投機は、価格変動そのものに資金を投じます。たとえばFX(外国為替証拠金取引)であれば、為替レートの値動きを捉えて資金を投じることにより、買値と売値の価格差を収益にします。そして、その基本構造は、貴金属やエネルギーなどのコモティティや、暗号資産も同じです。たとえば金(GOLD)などの貴金属は、価格こそ上下するものの、そこから利息や配当が生まれるものではありません。暗号資産も同じです。

ちなみに、土地だけを売買するのは、地価の値動きに対して資金を投じる「投機」ですが、その土地の上に建物を建て、その建物に入っているテナントや貸主から家賃を得るとするならば、それは純然たる投資と考えられます。

高齢者の運用に投機は不向き

投資と投機の違いを理解したうえで投機をするのであれば、それは別に非難されるようなことではありません。が、ここで年齢の問題が浮上してきます。

基本的に、投機性が強いものは、値動きのブレも大きくなりがちです。加えて、レバレッジをかけられるものが多いため、価格変動リスクはさらに増幅されます。結果、資産の大半を失うケースもあります。これだけリスクの高いものを、定年後の資産運用の中核に据えるのは、お勧めできません。20年、30年という時間が残されたなかで、保有している資産が半減、あるいは3分の1にまで目減りしたら、気が気でいられなくなります。

したがって、高齢者がポートフォリオにリスク商品を組み入れる場合は、あくまでも投資商品を対象にするのが無難です。具体的には株式、投資信託、不動産関連商品、あたりが妥当です。

もちろん、これらの中にも、さらに高齢者の資産運用に向いているもの、向いていないものがありますが、株式や投資信託、不動産関連商品は、配当利回りなどの利回り面を重視して選び、それをバブルピークのような高値で買わなければ、老後の資産運用には案外、適した特性を有しているのです。

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