川上・金剛寺で野村万作・萬斎さん父子が秘仏拝観 狂言ゆかりの地訪問

金剛寺に参拝した野村万作さん(手前右)と萬斎さん(手前左から2人目)=23日、川上村神之谷の同寺

 22日に奈良県川上村の川上総合センターで村ゆかりの狂言「川上」を上演した野村万作さん(92)と野村萬斎さん(57)父子が翌23日、同村神之谷の金剛寺を訪れ、同狂言に登場する秘仏・地蔵菩薩立像(平安時代)に初めてまみえた。同像は24日まで特別開帳されている。

 同寺は標高440メートルの境内から西方に標高1700メートル級の大峰を臨む。大峯で修行した修験道の開祖・役行者が彫り、気に入らずに投げ捨てた地蔵菩薩を村人が大切にまつったと伝わる。野村父子とグループの能楽師らは檀家とともに地蔵盆のお勤めに参列。厨子が開かれると静かに手を合わせた。

 今は山道を車で上がることができるが、境内には急な石段も。万作さんは「山深さも鰐口(わにぐち)の鳴らしかたも狂言に描かれた通りでした」と微笑んだ。

 狂言「川上」は江戸時代初期にすでに成立していたとされ、川上地蔵の信仰が近畿一円に広まっていたことがわかる。万作さんが演じる盲目の善男が地蔵参りをし、視力を取り戻すか離縁かの選択を迫られる。10年の介抱の果てに地蔵から「悪縁」と言われた女は怒り、泣き、再び盲目となった愛しい男の手を取って舞台を去る。

 物語の内容に、滑稽さの中の深い夫婦愛を感じる人もいれば、逆に悲劇的と感じる人もいる。「人間の幸せとは何ぞや、と問いかける。そこに演劇性がある」と萬斎さんは指摘。公演前には「川上村の皆さんがどう反応するかはとても楽しみです」と話していた。

 萬斎さんは「降臨した地蔵菩薩の力が放射され、水源地の村から下々に分け与えられているようだ」と語り、伝統のつながりも感じていた。

川上地蔵にお参りを果たし「狂言に描かれた通りでした」と語る野村万作さん(左)と萬斎さん(右)=23日、川上村神之谷の金剛寺

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