茨城の布川事件で再審無罪 桜井さん死去 司法改革訴え、最後まで 「無実の罪許さない」

講演で冤罪を生まない司法改革の必要性を訴える桜井昌司さん=2021年4月25日、東京都内

茨城県の「布川事件」で再審無罪となった桜井昌司さんが23日、76歳で亡くなった。獄中から無実を訴え続け、無罪を勝ち取った後も「仲間を救いたい」と全国各地で冤罪(えんざい)事件を支援。晩年も「命ある限り、法改正に全力を尽くしたい」と語り、司法改革の実現を求めて精力的な活動を続けていた。

桜井さんは2019年に直腸がんが見つかり、20年2月には余命1年と宣告された。それでも、「治ったら面白い。びっくりさせてやることがいっぱいで、わくわくする」と気丈に振る舞っていた。

がんが見つかった後も全国各地へ足を運び、他の冤罪事件を支援したり、講演をこなしたりする日々を送った。近年は服役生活を振り返る自伝出版やCD発売、自身を追ったドキュメンタリー映画の上映会に登壇するなど精力的な活動を続けていた。「病気で痩せて着る服がなくなった」と愛用していた作務衣(さむえ)は、晩年のトレードマークだった。

21年に勝訴した国賠訴訟の東京高裁判決は、取り調べで警察官と検察官が虚偽の発言を基に自白を引き出したと認定。桜井さんの「虚偽自白」なしに逮捕、起訴、有罪判決を受けることはなかったと結論付けた。

自身の冤罪事件に区切りが付いても、「日本は警察と検察の力が強すぎる。無実の罪を許さないよう、これからも声を上げ続ける」と気力は衰えなかった。

違法捜査で引き出された「うその自白」をきっかけに、約29年間の刑務所生活を強いられた。それでも「冤罪体験を幸せと思える珍しいタイプ」と語っていた桜井さん。心には「何が幸せで、何が喜びかは他人が決めるものではない」との思いがあった。

茨城県大洗町で6月下旬に開かれた自身の「東京弁護士会人権賞受賞を祝う会」にも出席。支援者を前に「冤罪被害のおかげで今の自分がいる。警察にはまともな組織になってほしいが、恨んではいない」と語っていた。

病状が悪化した今月21日からは、水戸済生会病院(茨城県水戸市)の緩和ケア病棟に入院していた。

再審弁護団の一員だった谷萩陽一弁護士は同日に面会し、遺言作成を頼まれたという。「類いまれな人だった。困難に前向きに立ち向かう強さや明るさがあり、みんなを励ましていた。それだけの体験をしたからこそだろう」としのんだ。

妻の恵子さんは「心の整理が付かない」としながらも、「特異な経験をして獲得した生き方を貫き通した。自分の思いを大事に生き抜いた」と語った。

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