埼玉の「いじめ件数」3万874件…重大事態は40件、2度「該当」の児童も 初動遅れ、調査長期化で支援後手に

「ぼくはいじめにあいました」。いじめの被害に遭った児童の作文

 2021年度に埼玉県内小中高校などで認知された、いじめの件数は3万874件に上った。このうち、いじめ防止対策推進法が定める「いじめの重大事態」は40件(全国705件)で、小中学校で目立つ。重大事態は第三者委員会が調査するが、初動対応の遅れなどで長期化し、いじめを受け不登校になった児童生徒のケアが後手に回るケースも。文科省は調査とともに、保護者や学校による支援を進めるよう求めている。

 宮代町内の小学校に通う児童は2度「重大事態」に該当すると認められた。町は第三者委による1度目の報告書を今年3月に公表。委員は弁護士2人、臨床心理士、大学教授。調査対象者は20人超で、委員会は21年11月から昨年12月まで24回にわたって開催した。

 報告書は、被害に遭った児童が19年、図工の時間に「同じ絵を描かないとパンチするぞ」と強要されたなど、複数のいじめを認定した。担任独自の調査や校長による「謝罪の会」、町教委の対応を「極めて不適切」と断じた。県教委による支援や指導も不十分だったと指摘。「市町村が小・中規模である場合、対応能力に限界がある。県全体として、法の規定に従うことができていないという可能性も孕(はら)む」と警鐘を鳴らした。

 町教委は昨年9月、当該児童が別のいじめを受けたとして2度目の「重大事態」調査を開始。一方、児童の対応を巡り、本年度は学校と保護者双方が弁護士を立て協議を続けている。児童の保護者は「(学校の)対応は変わらない」と憤る。

 今年は県内各地で「重大事態」の調査報告書が公表されたが、事態の発生から複数年経過することが多い。長期化の要因について、いじめ問題に取り組む「NPO法人ジェントルハートプロジェクト」(神奈川県)の小森美登里さんは「教員や学校による初動調査、対応がずさんな場合、事実認定を巡り保護者との間で対立が深まり、結論が出ない」と指摘する。

 文科省児童生徒課は「重大事態調査は責任の追及を目的としていない。事実関係を明らかにし、再発防止を考えることが目的。加害側への強制的な調査権限もない」とし、「調査の目的、趣旨を丁寧に説明することが大事」と強調する。

 委員のスケジュール調整も難しい。相場は2万円前後で、ある弁護士は「聞き取りや報告書の作成にかかる時間を考えると割に合わず、なり手がいない」と打ち明ける。

 保護者は、第三者委の調査がいじめの解決に結び付くと期待を持つ。一方、学校は保護者との関係改善を求めるものの、既にこじれて修復が難しくなっている。結果として調査は長期化し、児童生徒の支援は後手に回る。

 文科省の担当者は加害児童を別室で指導したり、被害児童との導線を分けるなど事例を上げ「被害を受けた子のニーズに合わせ、学校がどう対応するかが課題。調査を進めつつ、保護者、学校、教委が、子どもの支援に意識を向けてほしい」としている。

■いじめの「重大事態」

 いじめ防止対策推進法に基づき、いじめにより児童生徒に重大な被害が生じたり、相当期間の学校欠席を余儀なくされている疑いがある事態。文科省のガイドラインでは調査組織は公平・中立を確保して客観的な事実認定を行うため、メンバーには専門家や第三者の参加を求める。被害児童生徒や保護者から申し立てがあった時は「重大事態」が発生したものとして対応するよう定めている。

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