社説:ハワイ山火事 教訓の共有と備えこそ

 「南国の楽園」を包んだ火炎の脅威を改めて思い知らされた。

 米ハワイ・マウイ島で起きた山火事は、いまだ被害の全容がつかめないほどの惨状が覆っている。

 発生から2週間で確認された死者は115人に上り、少なくとも850人の消息がなお分かっていない。

 米国での山火事の犠牲者数としては過去100年余りで最悪という。

 懸命な捜索活動が続いており、被災者たちの保護、救援とともに手を尽くしてもらいたい。

 これほど大きな被害となったのはなぜか、究明が求められる。

 著しい高温、乾燥と強風、島の植生などの複合的な要因が重なったとの指摘が出ている。

 壊滅的な被害を受けた島西部にある古都ラハイナの一帯は、山越えの乾いた風が吹きやすく、8月の高温で急速に地表や植物から水分が失われる異常な乾燥状態にあったという。

 そこにハワイ南方を通過したハリケーンの強風にあおられ、火は毎分約1.6キロという速さで一気に燃え広がった。避難中に火の手にのまれ、黒く焦げた車の列が猛威を物語っていよう。

 加えて、ハワイでは伝統的なサトウキビ畑などが減り、家畜飼料用に持ち込まれたアフリカ原産の植物が土地全体の4分1近くを覆うようになっている。乾燥地でも繁茂し、燃えやすいため火勢拡大の一因とみられている。

 詳しい出火原因は不明だが、住民の目撃証言などから送電線が切れて乾いた草地に触れ、引火したとの見方が強い。行政当局は危険を知らせる警報サイレンを鳴らさず、住民の避難が遅れたとも批判されている。これら人為的な要因も徹底して検証する必要がある。

 世界各地で大規模な山火事が多発している。

 カナダでは、今年の山火事が5800件を超え、焼失面積は過去最悪の14万平方キロ余りと、日本全土の4割近くに相当する。延焼が続くギリシャやトルコで被害が拡大しているほか、近年は南米やオーストラリアも大火に見舞われた。

 気候変動による熱波や干ばつの影響を考えざるをえない。

 国連環境計画(UNEP)は昨年2月の報告書で、地球温暖化と耕地転換などの変化に伴い、大規模な森林火災が発生する危険性が2050年までに30%増えると警鐘を鳴らしている。

 日本でも取り巻く火災リスクを再点検し、被害を防ぐ教訓と技術を共有して備えねばならない。

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