大型化する空力パーツ。戦闘力の高いドゥカティからホンダに移籍するザルコ/MotoGPの御意見番に聞くオーストリアGP

 8月18~20日、2023年MotoGP第10戦オーストリアGPが行われました。レッドブル・リンクの特性か、後半戦のトレンドか、ワークスチームも新空力パーツを投入していました。

 そんな2023年のMotoGPについて、1970年代からグランプリマシンや8耐マシンの開発に従事し、MotoGPの創世紀には技術規則の策定にも関わるなど多彩な経歴を持つ、“元MotoGP関係者”が語り尽くすコラム第15回目です。

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–夏休み明けの2戦目ということで、今回はドゥカティのフランセスコ・バニャイア選手がスプリントと決勝レースの双方で圧勝という結果に終わりましたね。

 前回のイギリスGPでは初日からピリッとしない感じのバニャイア選手が、今回はスプリントもレースもポール・トゥ・フィニッシュという事で、まさにチャンピオンに相応しい貫禄の勝利という感じだったね。チャンピオンシップポイントもかなり差がついてきたので、この調子で最後まで突っ走るのかとも思うけれど、ちょっとしたことで歯車が狂ってしまうので楽観はできないかな。

 それより、今回はKTMのブラッド・ビンダー選手の走りが印象的だった。ホームレースという事でブーストが掛かったというのもありそうだけれど、スプリントと決勝レースの両方で2位になったのにはマシンと人の強さを感じたね。

 KTMの首脳も、バニャイア選手さえいなければビンダー選手が優勝なのに、と思ったに違いないよ(笑)

–ビンダー選手が活躍する一方でジャック・ミラー選手は元気が無かったようですね。

 いや、予選はビンダー選手に次いで4位だし、スプリントも5位だから決して調子が悪い感じではなかったけれど、レースでは最初の数ラップ踏ん張ったけれど後はずるずる後退していたから、何かあったんだろうね。タイヤの選択とマネジメントに失敗したとか、突然の体調不良とか想像の域を出ないけどね。

–フロントフォークに付いていないとするとなんであの場所なんでしょう?

 的を射ているかどうかしらんけど、あのウイングはこのサーキットだけの特別なパーツで、基本的な空力パッケージには手を付けたくなかった、という事なのではないかな。カウリングには既に取り付ける場所が無いし、あの場所は既存の空力パーツの影響を受けないので、少しだけダウンフォースを追加するには都合が良いのかも。

 もちろん、このサーキットの高低差が大きい事から、上りでフロントが浮き上がるのを防ぐ目的でダウンフォースを追加したと思われるね。ま、この推論が正しいかどうかは、この先もこのウイングが使われるかどうかで明らかになるという事だな。

 これも個人的な意見だけれど、ウイングは高い位置に付けるより、低い位置に付けた方がアンチウイリー効果は高いんだよ。もしそういう着眼で開発したパーツであれば、今後も継続して使用する可能性は高いといえるね。

ヨハン・ザルコ(プリマ・プラマック・レーシング)/2023MotoGP第10戦オーストリアGP

–ところでザルコ選手が来季LCRホンダに移籍しますが、なぜここでホンダという選択なのでしょう?

 サテライトとはいえ一番戦闘力の高いドゥカティから、混乱しているホンダを選択するのは、常識的にはおかしいけど、ザルコ選手としても現状の処遇に満足しているわけではなくて、ホンダの巻き返しに期待して賭けに出たという事じゃないのかな。

 僕としてはザルコ選手の男気みたいなものも感じたね。もちろんドゥカティの情報が欲しいホンダから、かなり魅力的なオファーが有ったとも思われるけどね。

 この件で一番ホッとしているのは、来シーズンの居場所が確保できそうなヤマハのフランコ・モルビデリ選手という事で、師匠のバレンティーノ・ロッシも喜んでいるんじゃないかな。VRアカデミー出身のライダーのバニャイア、べゼッチ、マリーニ選手が活躍している中で、モルビデリ選手のみが苦労しているのを見て、直接ライディングのアドバイスとかするのは無理としても、一番気に掛けてはいたようだからね。

 僕としてはヤマハでもっと活躍して欲しいけれど、ドゥカティに乗ってどうなるのか、ザルコ選手のホンダ移籍同様に来シーズンの楽しみが増えたともいえるね。

2023MotoGP第10戦オーストリアGP
2023MotoGP第10戦オーストリアGP スプリント
マルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)/2023MotoGP第10戦オーストリアGP

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