北朝鮮「軍事偵察衛星打ち上げ失敗」 内外のミサイル専門家の見方

By Kosuke Takahashi

北朝鮮の朝鮮中央通信が2022年12月19日に公開した偵察衛星発射の様子とされる写真

北朝鮮の朝鮮中央通信は24日、同日未明に西部・東倉里(トンチャンリ)にある西海(ソヘ)衛星発射場から軍事偵察衛星を搭載したロケットを打ち上げたものの、打ち上げに失敗したと発表した。ロケット1段目と2段目はいずれも正常飛行したが、3段目の飛行中にシステムに不具合が発生したと説明した。

しかし、日本の防衛省は、ロケットの1段目も2段目も3段目もすべての落下物が北朝鮮が事前に通告していた予告落下海域の外に落ちたと分析した。これは北朝鮮の発表を否定し、ロケットシステム自体の失敗を意味するのではないのか。内外の専門家に聞いた。

●ドイツのミュンヘン在住のミサイル専門家、マーカス・シラー博士の見方

――北朝鮮は声明で、「ロケットの1段目と2段目の飛行は正常だったが、3段目の飛行中に緊急発破システムのエラーが発生したために失敗した」と発表した。この部分をどう解釈したらよいのか。これは、第3段目飛行中に「自爆システムの偶発的な作動」があったことを意味するのか。

シラー氏:「緊急発破システム」という言葉は、私の耳には少し奇妙に聞こえる。しかし、元のKCNA(朝鮮中央通信)の声明では、障害の原因として「비상폭발체계」と言及されており、Google翻訳はこれを「緊急爆発システム」と訳しているが、私にはその方が意味が通じる。彼らが実際に自爆システムについて言及していると考えるのが合理的だと思われる。したがって、現在入手可能な情報によれば、第3段目で実際に「自爆システムの誤作動」があったのはもっともらしいと思われることに私は同意する。

――北朝鮮はロケットの1段目と2段目の飛行は正常だったと発表したが、日本の防衛省の分析では、ロケットの3つの落下物がすべて予告落下区域の外に落ちた。これは食い違っているように思える。なぜなら、ロケットの1段目と2段目の飛行が正常であれば、なぜ指定された落下ゾーン内に落ちなかったのか。この点についてはどう思うか。

シラー氏:日本の防衛省が発表したイメージ図によると、1段目とシュラウド(熱しゃへい板)は落下ゾーンをわずかにオーバーシュート(行き過ぎ)しており、2段目は予告された落下ゾーンの西側で100キロ以上手前に落下した。これは横風のせいにするのはあまりにも大きすぎると思われ、軌道が少しずれていたか、エンジンが正常に機能していなかった可能性がある。

北朝鮮が打ち上げに失敗した軍事偵察衛星の飛行ルートのイメージ図(防衛省資料)

私の現在の推測では、1段目は意図したよりもわずかに低い角度で飛行したのではないかと考えている。これにより、シュラウドと1段目が海洋に落下する際の範囲が拡大する。つまり、1段目の分離はわずかに低くなり、非常に急な角度で発生し、衝撃点は予告落下ゾーンの外に移動する。

2段目はその低い軌道を進み続け、適切なタイミングでわずかに左に曲がるが、低い軌道のために西に移動する。言い換えれば、(くの字に曲がる)ドッグレッグ機動が開始された時点では、ロケットはさらに西に位置していただろう。これは、2段目の落下が西に移動することを意味する。2段目分離時の軌道角度ははるかに低いため、速度は同じ程度であっても、分離された2段目はより早く大気圏に突入し、大量の抗力損失が発生し、そのため意図した落下ゾーンに届かなくなる。これらすべては、意図した軌道からのわずかな逸脱によって発生した可能性があるが、それが致命的であることが判明した可能性がある。そして、確かに、これはある時点で3段目の自己破壊を引き起こす可能性がある。

とはいえ、これは現時点での単なる作業仮説にすぎない。

●名著『兵器の科学 弾道弾』の著者である高エネルギー加速器研究機構の多田将・准教授の見方

多田氏:防衛省のホームページにある図を拝見したが、あの大雑把な図はどれくらい正確に描かれているのか、私には判らない。

一方、切り離したロケット(空のタンク)の落下予想地点だが、これは別に誘導しているわけではなく、単に不要なものを切り離して捨てているだけなので、予想地点より多少は違っていても問題はないと思う。

ただ、それは「多少は」によるので、先程の防衛省の図がどれくらい正確か、実際に何キロ違っていたのか、による。

イージス・アショア問題でも、ブースターの落下地点がそれほど正確に確定出来ないのと同じだ。もちろん、程度の問題なので、本当にうまく行かなかった可能性もある。

北朝鮮の発表通りだとすると、前回の打ち上げで2段目に不具合が出たのに、今回は3段目に不具合が出たわけであるので確実に進歩しているとは思う。

(関連のYahoo!ニュースへのコメント)

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© 高橋浩祐