WUBS2023が大学バスケにもたらした5つの革新的意義

8月10日から13日までの4日間、国立代々木競技場第二体育館を舞台に開催されたWUBS(Sun Chlorella presents World University Basketball Series=ワールド・ユニバーシティー・バスケットボール・シリーズ)は、日本を代表して出場した白鷗大と東海大を含め、世界の7つの国と地域から8チームがそれぞれの誇りを胸に情熱をぶつけ合う白熱した試合の連続となった。優勝したのはチャイニーズ・タイペイのチャンピオンとして来日した国立政治大(以下NCCU)。王座獲得に至る3試合は日本のインカレ王者東海大、本場アメリカのNCAAディビジョン1で2023-24シーズンに躍進が期待されるラドフォード大、そして一昨年日本一となった白鷗大といずれも強敵相手だったが、堅固なチームディフェンスと爆発的なパワーを持つビッグマン、モハメド・ラミン・バイェらの活躍で勝ち続けた。

各チームが披露してくれたバスケットボールはコンテンツとして非常に面白かったのはいうまでもない。しかし今年2回目を迎えたWUBSの開催期間中には、それとは別に、様々な場面で革新的な開催意義を感じることがあった。ここではあらためて、その点にフォーカスを向けて大会を振り返る。

大会の意義を体現した国立政治大の優勝

ある意味、NCCUの優勝自体も、今大会の革新的意義を体現するような側面がある。NCCUは昨年、4チームの参加で初めて開催されたWUBSで、アテネオ・デ・マニラ大と東海大に敗れ3位という成績だった。その位置から、規模を拡大して競争も激化した今大会で頂点を極めるに至ったわけだが、チームの完成度は他チームと比べると段違いに高かった。

チャイニーズ・タイペイからやってきた応援団の前でWUBS初優勝を喜ぶNCCU(写真/©月刊バスケットボール)

チャイニーズ・タイペイの大学リーグUBAはオフの期間にあたっている。しかし彼らはNCAAディビジョン2のチームを含む海外チームとの対戦を重ね、昨年の悔しさを晴らすため照準をWUBSに合わせて日本に乗り込み、みごと結果を出したのだ。チャイニーズ・タイペイから飛んできた応援団が日本在住の応援団と一体となって「加油!加油!(頑張れ!頑張れ!)」と大声援を送る中、みごとな快進撃でその期待に応えてみせた姿はあっぱれというべきものだった。

彼らにとってWUBSが一つの大きな目標となったのは間違いない。そしてWUBSは、彼らが必要とする世界標準の競技レベルを提供していた。NCCUの王座獲得とともに、この事実も高く評価されるべきだろう。

大きな刺激を受けた日本勢の健闘が意味するもの
日本勢は、白鷗大がペルバナス・インスティテュートに大勝した後、前回王者のアテネオ・デ・マニラ大とのフィジカルな戦いに勝利して決勝に進出。最後は激闘一歩及ばず準優勝という結果となったが、NCCUに最後まで食らいついた戦いぶりに会場は大いに沸いた。また東海大は、初戦でこちらもNCCUとの緊迫した戦いに敗れたが、順位決定戦ではペルバナス・インスティテュートと、日本にとって東アジアのライバルである韓国の強豪として知られる高麗大に対し、持ち前のディフェンス力をいかんなく発揮して勝利。最終的に5位に食い込んだ。

決勝戦でゴールを狙う白鷗大の佐藤涼成。NCCUの鉄壁のディフェンスを攻略して後半の追い上げた白鷗大の戦いぶりは大いに会場を盛り上げた(写真/©月刊バスケットボール)

両チームとも2勝1敗で、喫した黒星は優勝チームに対する接戦。戦いぶり自体も熱量十分で、日本を代表している気概を感じさせた。彼らの奮闘は、日本の大学バスケファンが誇りに思えるものだったに違いない。

両チームの監督や選手は、今大会で海外のチーム相手にどれだけ通用するのか、旺盛な意欲を持って臨んでいた。結果として貴重な国際経験を得ただけでなく、準優勝と5位で大会を終えたことで、世界を視野に入れた意欲を膨らませたのではないだろうか。

こちらは5位決定戦で、ペルバナス・インスティテュートのグレーンズ・タンクランに対し厳しいディフェンスで対抗する東海大のハーパージャン ローレンスジュニア(写真/©月刊バスケットボール)

しかし、次回大会に出たいと思っても、この舞台に戻ってくるためにはまず、今年のインカレで2位以内に勝ち上がって出場権を得なければならない。他大学もWUBSを見て、「次は俺たちが」という意欲を燃やしてくる中、この競争は非常に熾烈なものとなる。インカレはこれまでも毎年、熱戦の歴史を重ねてきたが、WUBSへの出場権をかけた戦いがさらにその緊迫感を高め、競技力向上を強力に後押しする起爆剤になることも期待できそうだ。

\--{学生アスリートのマインドセット、参加チームのダイバーシティ、プロフェッショナルな運営}--

前回王者アテネオ・デ・マニラ大の姿勢
ラドフォード大vs.アテネオ・デ・マニラ大の対戦となった3位決定戦は、第3Qに一時ラドフォード大が22点差のリードを奪う展開となった。アテネオ・デ・マニラ大のタブ・ボールドウィンHCは20点差になった時点でタイムアウトを取り、プレーヤーたちをジロリと睨みつけ、静かだが強い口調で「こんな姿は見たくないぞ」と声をかけた。そしてここから、アテネオ・デ・マニラ大は、第4Qの起こり1分を切って6点差に詰め寄る怒涛の反撃を見せるのだ(最終的にはラドフォード大が77-68で勝利)。

まだ18歳の1年生にもかかわらずプロのような意識を感じさせたメイソン・アモス。フィリピン代表歴もあるストレッチ・ビッグマンだ(写真/©月刊バスケットボール)

試合後の囲み取材で、ボールドウィンHCは第3Qのタイムアウトを振り返り、「あのような話をするためにタイムアウトを取りたくはなかった」と語った。「言われてやるようなことではないからです。(闘志は)自らの内面から湧き出てくるべきものなんですよ」。ボールドウィンHCは、プレーヤーたちの奮闘を評価しながらも、強敵相手に少しの時間下を向いてしまったプレーヤーに対する厳しさを言葉にしていた。

アテネオ・デ・マニラ大のカムバックを中心となってけん引したのは、後半だけで16得点を挙げたまだ1年生のメイソン・アモスというストレッチタイプのビッグマンだった(試合を通じては22得点)。ボールドウィンHCに弱冠18歳の健闘をどう思うか尋ねると「まだ若手だが、彼は役割を担っています。確かによくやりましたね。でも、当然のことだと思いますよ」と冷静な評価が帰ってきた。アモス自身も、「僕は長身シューターとしてコートに入っています。もっとしっかりプレーできるように頑張らなければ」という反応。両者には上級生も下級生もなく、役割に徹するという認識しかないことが伝わる。意識としてはもはやプロ。それがフィリピンの学生アスリートの姿だとすれば、各チームが学ぶべき点がありそうだ。

大学バスケの可能性を広げるダイバーシティ
これまであまり日本で話題になることがなかったオーストラリアとインドネシアの大学バスケ事情を垣間見ることができたのも、WUBS2023の収穫だ。シドニー大はFIBA世界ランキング3位のバスケットボール先進国オーストラリアから王者として来日したのであり、ペルバナス・インスティテュートは近年の発展が著しいインドネシアの王者。どちらも上位進出はならなかったが、今後交流を発展させることができれば、面白い可能性を帯びてくる。

Day2の順位決定戦でシドニー大を破り、笑顔をはじけさせるペルバナス・インスティテュートのズルファリザルAコーチとタンクルン。もしかしたたこの勝利は、インドネシアのバスケットボールの発展に弾みをつける勝利だったかもしれない(写真/©WUBS)

シドニー大のオーストラリアに関しては、代表チームとプロリーグのレベルの高さは周知のとおり。過去に日本のトッププレーヤーがオーストラリアに渡って活躍した例も、逆にオーストラリアから日本に来て活躍している例もある。大学バスケというカテゴリーはまだ歴史が浅いが、今後日豪の学生界で交流が活性化していけば、様々な情報交換や体験の積み重ねにより、お互いの競技レベルの向上を促すこともできるだろう。

インドネシアはフィリピンとともに、世界の人口の半分以上が住むとされるバレリーピエリス・サークル(Valeriepieris Circle)の中にある「バスケットボール新興国」という観点から面白い存在だ。プロリーグにも代表にも強化のテコ入れを図っており、ご存じのとおりFIBAバスケットボールワールドカップ2023の開催地の一つでもある。今大会でペルバナス・インスティテュートが日本の2チームに大敗を喫したからといって、その差がいつまでもそのままだとは思わない方が良いのではないだろうか。別の視点からは、日本のバスケットボール界にとって、ソフトや人材を展開するマーケットにもなりうる。

ペルバナス・インスティテュートは、コーチ陣もプレーヤーもこの日本遠征を心底楽しんでいることをうかがわせた。また、試合後の会見で話を聞くと、日本の2チームから喫した2敗を貴重な学びの体験とし、シドニー大から挙げたWUBSでのインドネシア勢初勝利を誇りに感じていることを語っていた。今大会で彼らが母国に持ち帰る強烈なインスピレーションは、人口が日本の倍以上の2.7億人というインドネシアでバスケットボール熱をさらに高めるだろう。それは将来的に、かけがえのない価値を生み出すに違いない。

ファンのすそ野を広げるエンタテインメント

華やかなアトラクションやプロフェッショナルな運営もWUBS2023では非常に好評だった(写真/©WUBS)

もう一つ、WUBSではこれまでの大学バスケになかった彩り豊かなエンタテインメントが展開されていたことにも注目したい。さながら夏のバスケ祭りのような趣向を凝らした会場には、本格的な大学バスケファンに連れられてきた、バスケに詳しくない家族や友だち、恋人たちの姿も少なくなかった。カブトムシ・クワガタの展示からハーフタイムショーまで、子どもから大人まで幅広く楽しめる雰囲気の中で、チームと国・地域の誇りをかけた電光石火のバスケットボールが始まると、来場者のエナジーが一気に爆発し、エキサイティングな空気に変わる。

ごく単純な話、これまでに子どもたちの「夏の友だち」であるカブトムシはクワガタの展示があって、NCAAのバスケットボールを堪能できる会場はなかった。非常にユニークな演出はタイムリーで、大会の個性を強く感じさせた。

何より、各チームのコーチやプレーヤーからも、この雰囲気作りが非常に好評だったことが、様々な演出やセッティングの価値を物語る。シドニー大のトム・ガーレップHCは、「素晴らしい会場だし、運営が非常にプロフェッショナル。メディア対応もしっかりしていて、皆さんよくバスケットボールを知っていることに驚いています」と今大会の感想を語る。ラドフォード大のダリス・ニコルズHCも「大会運営はファーストクラス。こうした歓迎の体験は学生たちにとってかけがえのないものです」と笑顔を見せた。そんなポジティブな感覚があればこそ、最終日の3位決定戦の前に、故障離脱中の山﨑一渉のユニフォーム姿をせめて日本のファンに見せたいという気持ちにもなったのではないだろうか。

コート上のバスケットボールが見ごたえのある緊迫感とハイレベルなパフォーマンスを提供したことに加え、国際性に富みプロフェッショナルな運営と、参加チームの顔ぶれが提供するダイバーシティが、WUBSをこれまでの大学バスケットボール界になかった非常にユニークかつエキサイティングな大会にしていた。それらの多くは、大学バスケにかつてない価値をもたらすものだ。

来年、WUBSがどのような形で開催されるかはまだ明らかになってない。しかし、2024年がオリンピックイヤーであるとともに、関東学生バスケットボール連盟生誕100周年の節目であることから、今大会と同じく、あるいはそれ以上に大学バスケットボールの盛り上がりを推進していく様々な企画や運営を期待したくなる。今後の関係団体からの情報発信を楽しみに追いかけていきたい。

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