「火葬待ち」続出で注目集める『献体』世の中の役に立てる新たな終活スタイルに

■高齢化により死者数が増え、火葬場が混んでいて、保管料が跳ね上がっている

近年、火葬場の混雑により葬儀を行うまでに時間がかかるのということが社会問題となっている。都心部に至っては10日以上待たされる場合もあるのが現状。

葬儀までの期間が伸びてしまうと、必然的に遺体の安置期間が長くなり、安置施設やドライアイスの利用料が発生。また、必要に応じてエンバーミング処置をしなければいけない。その結果、葬儀費用が跳ね上がってしまう。

今や日本は少子高齢社会、4人に1人が高齢者。年間死亡者数は、約138万人と増加していることが、火葬場の混雑に直結している。コロナ感染症で死亡した場合は感染症拡大を防止するため、24時間以内の火葬が推奨されており、専用ルートが設けられていることもあるようだ。その結果、コロナ感染症以外で死亡した人の火葬を行うことが難しくなってきている。

■新しい終活のスタイルとして注目を集める「献体」

家族が亡くなった場合、通常、通夜や告別式を行い、その後火葬場に出棺し最後のお別れをするが……自分の死後、自身の遺体を医学の発展のために提供する「献体」を希望する人が年々増加している。

献体とは、医学・歯学の大学における学生および医師の教育・訓練のため、一般人が自身の遺体を無報酬で提供する制度。

今回、献体に関する現在の状況を順天堂大学保健医療学部・医学部特任教授(解剖学、医史学)坂井建雄氏に詳しく聞いた。

「献体を希望される方は年々増えています。2022年には、20年前に比べると献体登録者数が1.6倍に、献体実行者数は2.4倍に増え、解剖体の99%以上が献体によりまかなわれています(※データ参照)。大学によっては献体登録に制限をかけて、登録開始日を設定して先着順にしたり、ウエイティングリストを設けたりしているところもあります。おおむね大都市圏では充足する傾向にありますが、地方やまた歯学部ではまだ多くの協力を必要としています」

――なぜ、登録者数が増えたのでしょうか?

「医療の進化により、病気の早期発見など、ご自身が医療のお世話になったから恩返ししたいという声を多く聞きます。また、家族の規模が小さくなったことも理由のひとつにあります。残ったお子さんに負担をかけたくない、またはお子さんがおらず、親戚に迷惑をかけたくないという思いを持つ方もあるようです」

――献体をすることで、どのようなメリットが生じますか

「献体を行う意義は、自らの遺体の提供によって、医学や歯学の教育・発展に参加し、次世代のために貢献できる点でしょう。献体をする場合、遺体を大学に搬送する費用や火葬費用などは、基本的に大学が負担します。献体をするための登録費用や、手数料なども不要です。自身の死後、家族の費用負担を少しでも軽くしたいという考えをもつ方もいるかも知れません」

――デメリットはあるのでしょうか

「通常ですと、提供後の遺体は人体解剖実習などに役立てられ、火葬→遺骨として1~2年、長い場合は3年以上掛かって遺族の元へ戻ってきます。そのため葬儀の日程が決めにくいとういのはあります。ですが、その間に気持ちの整理もつく、死後は色々と手続きが大変なので、いったんリセットができるという声もあります。また、葬儀はしない人も増えています」

――注意点を教えてください

「献体登録をするにあたり、下記は絶対要項となります。

■肉親の同意を得ておくこと

亡くなった時に連絡していただくためと、その後、遺骨を受け取るために必要。独り身である場合は友人、知人でも可。(※大学による)

■アイバンクへの登録もされる場合は申込先に問い合わせを

同時登録は可能ですが、並行しての献体は不可。死亡時にどちらかを遺族が選択することになるなど事前説明をしておくこと。

■申し込む大学・団体はご遺体の引き渡しを考えて、できるだけ居住地から近い場所を選ぶ

移送に時間を要する場合は対応不可。

また、登録しているご本人の亡くなられた状況や場所によってはお引き取りできないこともありうるので、大学での説明はきちんと理解していただくようお願いいたします。そして今後、献体は増え続け、登録できない可能性も生じてきます。ご意思を持たれている場合、早めに登録をお願いできればと思います」

「また、各大学では、医学の進歩発展のために献体された多くの尊い御霊に感謝を捧げるべく、公式行事として毎年慰霊祭が行われています」

世の中の役にも立つ、献体。新しい終活のスタイルとして、ぜひ家族で話し合ってみてはどうだろうか。

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