新NISAに向けコスト引き下げ合戦続く【オルカン】、投資家のメリットは?

最近の投資界隈で注目されるトピックといえば、新NISAの登場を背景にしたオールカントリーの投資信託による、コスト引き下げ合戦です。

オールカントリーとはどのような投資信託で、コスト引き下げにはどんな狙いがあり、投資家にとってどんなメリットがあるのか、考えてみましょう。


オルカンとは?

まず知らない方のために、オールカントリーの投資信託についてお伝えします。

その名の通りオールカントリー投資信託は、世界中の多様な国や地域の株式市場に投資するものです。これにより、投資家は一つの投資信託を通じて、全世界の経済活動に参加することができます。インド株など新興国の成長性に注目する投資家も増加しており、積み立て対象としてもオルカンの人気が高まってきているといえます。

また複数の国や地域に分散投資することで、特定の市場や産業の下落リスクを低減できます。一つの国や地域が経済的な困難に直面しても、他の地域がそれを補ってくれる可能性が高まります。加えて新興国や成熟した経済圏、どちらの成長も逃さなず、特定の地域の経済成長や産業の変動に左右されることなく、世界全体の成長を享受することが可能です。

全世界の株式市場に投資するための、独自のリサーチや分析は必要ありません。オールカントリー投資信託は、プロの運用チームによって管理されているため、初心者でも安心して投資することができます。

そして多くのオールカントリー投資信託は、インデックスファンドの形態を取っているため、アクティブ運用に比べて運用コストが低くなります。この結果、長期的な投資収益においても優位性が高まることが期待されます。

新NISAの登場とともに、多くの人々がこの投資信託に注目し、それに伴い業界内での競争が激化しています。この競争を勝ち抜くため、多くの金融機関が手数料や運用コストの引き下げを進めているのです。

オールカントリーの投資信託のコスト引き下げ相次ぐ

世界全体の株式の動向を表す指数であるMSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス(ACWI)に連動する投資成果を目指す低コストファンドは数多くあり、日興アセットマネジメントのほか、野村アセットマネジメント、三菱UFJ国際投信、アセットマネジメントOne、りそなアセットマネジメントなど、各社が激しく低コスト競争を繰り広げています。

その始まりは4月26日(水)、日興アセットマネジメントが「Tracers MSCIオール・カントリー・インデックス(全世界株式)」の信託報酬が0.1%を切る、年率0.05775%(税込)という低コストを実現したことが、戦いの火蓋を切ったように思います。

Tracers MSCIオール・カントリー・インデックスは、業界最低水準の運用コストのオルカン投資信託で、純資産額1位の「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」と同じベンチマークですが、そちらの信託報酬0.1133%(税込)と比べ、約半分の低コストとなっており、大きな話題となりました。

ただ実質的な運用コストは信託報酬だけでなく、その他の手数料(隠れコストと呼ばれることも)も重要で、Tracers MSCIオール・カントリー・インデックスの運用が開始されて運用報告書に総経費率が掲載されるまでは、実際のコストを比較できるようにならないことは覚えておいてください。とはいえ、インパクトのある信託報酬だったといえるのではないでしょうか。

対抗するかのように、7月10日(月)には野村アセットマネジメントが「はじめてのNISA・全世界株式インデックス(オール・カントリー)」という、信託報酬を年率0.05775%(税込)とする新ファンドを設定。

そして8月18日(金)、とうとう三菱UFJ国際投信が動きます。eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)の信託報酬率を、9月8日(金)より年率0.05775%(税込)以内に引き下げると発表したのです。

人気のオルカン投資信託は?

それでは、どのオルカン投資信託が人気なのでしょうか?

一番人気のオルカン投資信託というと、純資産額1位で、「投信ブロガーが選ぶ! Fund of the Year 2022」で1位を獲得しているeMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)だといえそうです。

eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)は、MSCI オール・カントリー・ワールド・インデックス(配当込み、円換算ベース)に連動する投資成果を目指すインデックスファンドです。MSCI オール・カントリー・ワールド・インデックスは、MSCI社が開発した株価指数で、日本を含む先進国および新興国の大型株・中型株の約3,000銘柄で構成され、世界各国市場の時価総額約85%をカバーしています。全世界の株式に分散投資できて、つみたてNISAやiDeCoの対象商品となっています。

コスト引き下げの狙いと投資家のメリット

運用会社が信託報酬率を引き下げる狙いとしては、以下が考えられます。

(1)新規顧客の獲得
より低いコストで提供することで、新たな投資家を引きつける狙いがあります。特に新NISAは投資家の関心が高いだけでなく、これから投資を始める層も取り込め、加えてオルカンは投資初心者から上級者まで検討する投資商品といえるため、力が入っていると推測されます。

(2)既存顧客のロイヤリティ確保
コストを下げることで、既存顧客が他の商品へ移るのを防ぐことができます。今回はオルカン投資信託についてお伝えしましたが、オルカン以外にも人気の投資信託のコスト引き下げを発表している運用会社も多くあります。

(3)ブランドの信頼性向上
コストを引き下げることで、投資先として検討しやすくなり、投資する人が増えることで純資産も増え、認知度も上がってブランド力が増すことになります。そうして顧客からの信頼を勝ち取ることで、長期的なビジネスの成長を支える狙いがあります。

一方、投資家目線でのメリットも、以下に挙げます。

(1)コスト削減
運用コストが下がることで、投資家の収益性、将来の運用成績への寄与が期待できます。運用コストの開示方法が、運用会社や投資信託によって異なることは注意しておきましょう。

(2)多様な選択肢
金融機関や運用会社間の競争が激化することで、より多くの投資商品やサービスが提供されるようになります。比較検討する上でも、選択肢が多いことは投資家にとってプラス。目論見書もしっかり読みましょう。目論見書について詳しくは、以前の連載「投資信託の【目論見書】で初心者が見るべきポイントとは?金融アナリストが教える活用法」を参照ください。


新NISA(少額投資非課税制度)は、投資家が特定の金融商品に投資した場合に、その収益が非課税となる制度で、これにより投資を促進し、資産形成をサポートすることが目的とされています。

新NISAを見据え、オールカントリー投資信託のコスト競争が加速しています。金融機関にとっては新しい顧客の獲得やブランドの強化のチャンスであり、投資家にとってはより良い条件での投資が可能となるメリットがあります。

この動きをしっかりとキャッチアップし、最適な投資戦略を組み立てていくことが重要です。

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