関東大震災の「猛火と屍」、撮影カメラが神戸に現存 記録映画を特定、ケースの刻印「H.M.」がきっかけ

関東大震災の撮影に使われたとみられるカメラを手にする安井喜雄館長=神戸映画資料館

 9月1日で発生から100年になる関東大震災。当時、被災地を撮影したとされるムービーカメラが、神戸映画資料館(神戸市長田区)に保存されている。今月から公開されるドキュメンタリー映画「キャメラを持った男たち-関東大震災を撮る-」の製作過程で、このカメラを使ったとみられる震災記録映画が特定された。同館の安井喜雄館長(75)は「震災を振り返るきっかけになれば」と期待する。(田中真治)

 カメラは1910~20年代の米ユニバーサル製で、35ミリの手回しクランク式。ケースと三脚もセットの状態で、安井館長は40年ほど前に京都の男性コレクターから入手した。

 カメラには便箋1枚が付属。「関東大震災の時関西より列車の屋根の上に乗り災害の模様を写し米国等へ輸出」と来歴が記されているが、作品の題名や真偽は分かっていなかった。

 今回「キャメラを-」を製作した一般社団法人記録映画保存センター(東京)は、震災撮影の再現シーンのため、このカメラ一式を借り受け、ケースに残る「H.M.」の刻印に注目。現存する震災記録映画の中に、イニシャルの一致するカメラマン「見ノ木秀吉」がいることに気づいた。

 見ノ木の撮影した作品は「大正拾弐年九月一日 猛火と屍の東京を踏みて」。大阪・天王寺にあった「ハヤカワ藝術映画製作所」の製作で、震災の記録映画や劇映画を手がけて発展した関西の中小業者の一つとして知られる。資料調査の結果、同社の機材リストに同型のカメラが確認できたことから、来歴のメモが裏付けられたと判断した。

 カメラは神戸映画資料館のロビーで常設展示。10月に開催予定の「神戸発掘映画祭」では、同館が所蔵する「関東大震災実況」や北但大震災、北丹後地震などの記録映画を特集する。同館TEL078.754.8039(水・木曜休館)

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 国立映画アーカイブ(NFAJ)と国立情報学研究所は特設サイト「関東大震災映像デジタルアーカイブ」を制作し、「大正拾弐年-」など関東大震災の関連映画を公開している。

 NFAJは震災発生時や復興の様子を記録した作品約20本を収集。丹波篠山市視聴覚ライブラリー提供の「東京関東地方 大震災惨害実况 大正十二年九月一日二日三日」(兵阪新聞社製作)も含まれる。

 9月1日には新たに7作品を追加予定で、全編が視聴可。撮影場所や火災・避難といったシーンから利用することもできる。専門家のコラムや文献資料もまとめており、震災の多角的な理解に役立つ。

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