「天真爛漫」

 このところの新聞を改めて何日分かまとめて読み返してみて、やっぱり首をかしげている。福島第1原発の処理水放出を巡って、岸田文雄首相が「現時点で具体的な時期を申し上げることは控える」と話していたのは日曜日のことだ。バタバタと事が進んだこの数日間▲同じ記事に〈放出に反対の姿勢を示している全漁連(全国漁業協同組合連合会)側の歩み寄りを引き出せるかどうかが焦点だ〉とあるのだが、全漁連はいったい、いつ“歩み寄った”のだろうか▲無理に探すとしたら、全漁連の会長が「(自分たちの)安全性への理解は深まってきた」と述べたひと幕だが、あの発言は、むしろ〈風評被害は科学的な理解とは別物だ〉と念押しした続きの部分に力点が置かれているとみるべきだ▲漁業者側の理解が“ゼロ”ではなかったと聞こえる発言を、よし来た-と都合よく切り取って約束違反を否定する論拠にできるのだろうか…疑問は消えないまま、首相は処理水の放出開始に踏み切った▲首相の座右の銘が「天真爛漫(らんまん)」なのだ、と月曜日の長崎新聞政経懇話会で紹介されていた。個人がこうありたい、と願う気持ちは止めようがないけれど▲あまり年配者の形容には使わない言葉だし、国の指導者に求められる資質としての優先度は、おそらく相当低い。(智)

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