埼玉でも「熊出没注意!」 目撃増で熊よけ鈴と笛を緊急配布 秩父市、全小中学校に 家の前で見た児童も

配布された鈴をランドセルに装着し、笛を吹く練習をする児童=25日午前、埼玉県秩父市立久那小学校

 埼玉県秩父市内でクマの目撃情報が増えていることから、秩父市は新学期に合わせて市内全小中学校に、熊よけの鈴と笛(ホイッスル)のセット計約4100人分を緊急配布した。市立久那小学校(児童数53人)では25日の始業式後、教員が児童一人一人に手渡し、「クマに遭遇したら、音を出して存在を知らせることが大切。笛は防犯グッズとしても活用してほしい」などと呼びかけた。児童は鈴と笛をランドセルにしっかりと装着し、集団下校した。

 同市によると、今年1月から8月25日午前までに市民らから寄せられたクマの目撃情報は、前年8月末時点より14件多い39件。過去5年の年間目撃件数は25~34件で、今年はすでに各1年分の数字を上回っている。市担当者は「目撃情報は毎年、人里でも寄せられるが、特に山間部に多い。今年もその傾向は変わっていない」と説明する。

 児童生徒の通学時の安全を確保するため、同市は本年度予算の予備費約550万円を活用し、アウトドア総合メーカー「モンベル」の鈴(1個税抜き715円)とホイッスル(同522円)を購入して、市内小学13校、中学8校に配布した。

 久那小学校がある同市久那では、今月23日に目撃された。25日の午前も、同校1キロ圏内の柳大橋付近で目撃情報が2件入った。同校ではこの日、教員や地元ボランティアらが、児童の登下校時に見回り活動を行った。

 鈴と笛を受け取った同校6年生は「2年ほど前に、家の前でクマを見つけ、怖い思いをした。鈴と笛があれば、安心して登校できる」「クマに遭遇したら、目をそらさず、ゆっくり後ずさりして逃げることを教わった」などと話していた。

 同市街地内の観光スポット「秩父ミューズパーク」や「羊山公園」などでも、毎年クマの目撃情報が寄せられている。秩父ミューズパーク周辺では、今年すでに計4件目撃されていることから、市生活衛生課は今月、「熊出没注意」の看板を園内4カ所に新たに設置した。

 同市でクマによる人的被害はここ数年発生していないが、同課は「市内の山林はクマの生息地で、春から秋にかけて活発に行動している。ハイキングや渓流釣りなどで入山する人は、鈴を身に付けるなど、十分注意してほしい」と呼びかけている。クマの目撃情報は同市のホームページで確認できる。

 秩父地域の自然を守る活動に取り組む、県生態系保護協会事務局長の前田博之さん(47)は「近年は全国的にシカの生息数が増加しているので、クマの餌となる奥山の植物などがシカに食べられてしまっている可能性がある。クマは手っ取り早く餌を取るために、人里へ行動範囲を広げているのではないか」と推測する。

 前田さんによると、秩父地域の山間に暮らす住民は「ここ数年、特にクマの個体数が増えているわけではない」という意見が多いという。前田さんは「雄のクマは1日に20キロ近く歩くので、目撃情報が多く寄せられたとしても、実際に頭数が増えているとは断定できない」と話していた。

今月新たに設置された「熊出没注意」の看板=25日、秩父ミューズパーク内

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