古きよき日本…形に残したい 屋根、壁や畳こだわりの一軒に 兵庫・丹波の男性「古民家」模型に夢中

古民家の模型を長年、一から手作りしている荻野恭三さん=丹波市春日町

 重なりが美しいかやぶき屋根や、木の引き戸、イ草が香る4畳半。兵庫県丹波市春日町の荻野恭三さん(74)が長年、日本の伝統が詰まった「古民家」の模型を制作している。1点に約3年を費やし、本物そっくりの完成度に作り上げてきた。「9軒目」に取り組む現場を訪ね、そのこだわりに迫った。(秋山亮太)

 本職は電気設備の保安、管理業。「小さい頃から理科や工作が好きで、特に物の『つくり』にはすごく関心があってね」。25歳の頃、丹波篠山市の料理店で「自在鉤(かぎ)」に出合い、自作したのをきっかけに、古民家へ興味が広がった。

 30歳の頃に初めて「灰小屋」の模型を完成させた。以来、旅行先などで好きな古民家を見つけるとモデルにして、休日や仕事終わりに制作してきた。

     ◇

 荻野さんの「家づくり」は資料集めから始まる。観光施設ならパンフレットや見学ガイド、図面が載る本を探す。一般の民家は住人に古民家や作品の写真を見せて直談判し、間取りなどを尋ねる。

 各所を撮影した写真も再現のために欠かせない。外観だけでなく屋根の裏面や木材のつなぎ目部分など、通常は見ないような場所も撮影。「旅行中でも時間をかけるから、待ってくれる妻には頭が上がらへんわ」。データがそろうと、縦10センチ、横5センチと決めている模型用の建具を基準に、床や壁、家全体のサイズを縮小して設計図に落とし込む。

 並行して「かやぶき」に使うススキの準備も進める。真冬の1月ごろに川や池の周辺で刈り取り、皮などを取り除いてから乾燥・防虫。材料として使えるまでに1年はかかる。

 ススキの品質を整える労力も半端ない。「曲がりや太さのばらつきがあったらあかん。刈り取った半分は使えん」。1軒分の屋根に用意する量を聞くと、荻野さんはにやりと笑う。「最低軽トラ1台分。合掌造りみたいに屋根が大きい家なら2台じゃ収まらんで」

 屋根以外の場所にもこだわりが光る。壁は実際の家に塗るしっくいや土を使用。くっつきをよくするため、木工用接着剤を混ぜるのがみそだが、「ご飯時に重なって作業を止め、材料が固まって、何回も後悔した」。畳は目が細かいござを切って手作り。瓦屋根は紙粘土を板状に固め、彫刻刀で1枚分ずつ削って造形する。掛け軸は書をしたためるところから全て手製だ。

 技術と工夫を詰め込んだ家は、半畳ほどの広さになることがしばしばで、高さが50センチを超え、大人一人で持てない大作になることも少なくない。ただ、完成品には荻野さんの興味は向かない。「制作のプロセスが好きやから、出来上がったら価値ないねん。完成後も眺めるより、手直しのほうが楽しいかもな」

 福島県の古民家を題材にした9軒目は、年内にも完成を迎えそうだ。「次は山陰にある漁師町の家なんかええなあ」。作業のかたわら、10軒目を見据え、県内外を駆け巡りモデル探しも進める。「古民家が減ってきた今、古きよき日本を形に残したい思いもある」という荻野さん。「まだまだ熱は冷めへん。あと二つぐらいは作りたいね」と白い歯を見せた。

© 株式会社神戸新聞社