ツェッペリン号が鍵 SF作家 高野さん 茨城・土浦が舞台の小説

土浦市を舞台にした長編SF小説を刊行した高野史緒さん=東京都千代田区

茨城県土浦市出身のSF作家、高野史緒(ふみお)さん(56)が、同市を舞台とする長編小説「グラーフ・ツェッペリン あの夏の飛行船」(ハヤカワ文庫)を刊行した。1929年8月に同市に飛来したドイツの飛行船ツェッペリン号が二つの世界を結び付ける鍵となる設定で、高野さんは「いつか書こうと20年前から資料を集めていた」と話す。

ツェッペリン号はドイツの巨大飛行船。飛行船として人類初の世界一周を達成し、道中に現在の陸上自衛隊霞ケ浦駐屯地(同市)に着船した。この際、飛行船乗組員たちを同市産ジャガイモが入ったカレーでもてなした逸話が残っている。

主人公は、ツェッペリン号の存在によって二つに分かれた世界で、それぞれの2021年夏を生きる登志夫と夏紀の男女2人。

物語は、宇宙開発が進みながらもインターネットは実用化されたばかりの夏紀が生きる世界と、宇宙開発は途上だが、量子コンピューターの運用が実現した登志夫が暮らす世界が舞台。2人には幼少時、市内にある亀城公園の二の丸跡でツェッペリン号を一緒に見たという記憶があった-という不思議な展開を見せる。

高野さんは同市で生まれ育ち、県立土浦二高を卒業。幼少時に「土浦七夕まつり(現土浦キララまつり)」で街を彩るツェッペリン号の飾りに親しみ、自然に「ツェッペリンといえば土浦」と考えるようになった。

執筆に当たっては、当時の新聞記事や搭乗者が書いた書籍などを参考に想像を膨らませ、「世界が二つに分かれたら…」と小説の舞台や世界観について構想を練ったという。

作品には同公園のほか、同市役所や料亭「霞月楼」、百貨店「小網屋」(閉店)、ハンバーガー店「チャンプ」(同)などが登場。リアリティーを感じてもらうため、同市に長年暮らす人々なら誰でも知る施設をそのまま使った。

結末を知った上でドラマなどを見る「ネタバレ視聴」の風潮に合わせて物語の大筋も明かしており、高野さんは「読書慣れしていない若い人たちにも読んでほしい」と話した。

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