社説:医療的ケア児支援 「社会で支える」まだ道半ば

 たんの吸引や人工呼吸器などが日常的に必要な子ども「医療的ケア児」と、その家族らを支える法律の施行から来月で2年を迎える。

 全国で地域拠点となる「支援センター」の設置が進んだ一方、法律で基本理念に掲げた「社会全体で支える」取り組みは、緒に就いたばかりだ。

 ケア児と家族がどこに住んでいても支援を受けられ、安心して過ごせるような周囲の理解と体制の広がりが急がれる。

 2021年に施行された医療的ケア児支援法で設置が定められた「支援センター」は、ワンストップの相談窓口として位置づけられている。

 京都府が昨年、京都市上京区の府庁内に、滋賀県は今年4月にびわこ学園医療福祉センター草津内に開設するなど、本年度中に全都道府県で出そろう見通しである。

 専門知識のある看護師らが家族らの相談に乗り、保育や教育、訪問看護など支援サービスの提供について、市町村や関係機関との調整役を担う。

 大半の家族によると、ケア児は病院から自宅に戻った後、「5分以上、目を離せない」状態が続くという。これまで相談先が分からず、自治体の窓口をたらい回しにされるケースもあった。孤立しがちな親子を支えるセンターの役割は大きい。

 今のところ都道府県ごとに1カ所の設置が多いが、愛知県では既に7カ所に広がる。身近な地域で相談できるよう配置の充実と、調整を担うコーディネーターの育成を進めたい。ケア児と家族、住民が交流するなど、地域や職場の理解を広げる場にすることも考えてはどうか。

 ケア児は全国に約2万人いると推計されている。医療技術の発達で新生児の救命率が向上し、約10年間で2倍に増えた。

 支援法は保育所や学校に医療行為を担う看護師を配置することも明記した。だが、看護師の慢性的な不足もあり、ケア児の受け入れ体制はなお不十分だ。

 学校への看護師配置には国などの補助金が利用できるが、「児童1人のために使えない」と断られる例もあったという。文部科学省の調査では、通園・通学するケア児のサポート体制が組めないとして、保護者の2割超が付き添わざるを得ない実態が判明している。

 看護師の確保や医療関係者の巡回など、支援体制の強化は欠かせない。研修を受ければ医療行為が可能となるヘルパーや保育士らも含めて、支える側の裾野を広げてほしい。

 自治体間でデイサービスやショートステイの設置数など、提供サービスの格差も大きい。

 是正に向けて岐阜県や岡山県など有志の市区町村長による全国組織が11月にも設立される。先進的な取り組みを共有し、支える家族の休息にもつながるサービスの充実を図るべきだ。

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