<社説>殺傷武器の輸出 「平和国家」の理念に逆行

 日本国憲法の理念を基礎とした「平和国家」の在りように逆行するのではないか。 防衛装備品の輸出を巡り、政府は殺傷能力のある武器を搭載していても一部は輸出可能との見解を示した。輸出対象が殺傷能力のある武器に広がり、他国の戦争に間接的に参加することになる。防衛政策の根幹であり、国民不在のまま、なし崩し的に決定されることは断じて許されない。

 防衛装備品の輸出ルール見直しを巡る自民、公明両党の実務者協議に政府が示した見解は、安全保障上の協力関係にある国への輸出が認められている「救難」「輸送」「警戒」「監視」「掃海」の非戦闘の5分野に使用目的が該当すれば、任務などに必要な武器を搭載していても輸出可能とした。

 しかし、輸出された装備品が使用目的を逸脱し、紛争に使われる懸念は拭えない。

 1967年に当時の佐藤栄作首相が共産圏や紛争当事国に武器輸出を認めない「武器輸出三原則」を表明。76年には三木内閣で全面的な禁輸へと拡大し、歴代内閣が踏襲してきた。

 その後は官房長官談話などで例外を設けてきたが、2014年に安倍内閣が「防衛装備移転三原則」を閣議決定。国際共同開発や輸出拡大に向け、武器輸出三原則に基づく禁輸政策を撤廃した。ただ、非戦闘の5分野に該当しても、殺傷能力のある武器は輸出できないと解釈していた。

 従来の解釈を政府が変更したのは、「防衛装備移転三原則」や運用指針に禁止規定がなく、可能と判断したためだ。

 英国、イタリアと共同開発する次期戦闘機の第三国への輸出を巡って、政権内には日本だけが第三国に輸出できないと交渉で不利になる、との声があるという。防衛装備品輸出ルールの見直しは、国内防衛産業の活性化につなげたいとの狙いがうかがえる。

 共同通信社が7月に実施した全国電話世論調査では、殺傷能力のある武器の輸出は「認めるべきではない」との回答が60.7%、「認めるべきだ」との回答は33.3%だった。国民の十分な理解が得られているとは言い難い状況だ。

 政府は14年に集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈変更を閣議決定、22年には敵基地攻撃能力(反撃能力)保有を明記した安保関連3文書を閣議決定した。

 殺傷能力のある武器輸出が解禁されれば、「戦争ができる国」にまた近づいていく。日本の在り方を変えていく重大な事柄に関し、国会などで十分な議論もないまま決定されることはあってならない。その背景の一つに防衛産業の活性化があるとすれば、国民の理解はなお得られないだろう。

 ロシアのウクライナ侵攻や覇権主義的行動を強める中国など、日本を取り巻く安全保障環境は不安定さを増している。武力に武力で対抗するのではなく、「平和国家」としての日本の役割こそ追求すべきだ。

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