高校生の少女を自殺に追い込んだ労働環境とは? 衝撃の実話に基づく『あしたの少女』が韓国社会の歪みを告発する

『あしたの少女』©2023 TWINPLUS PARTNERS INC. & CRANKUP FILM ALL RIGHTS RESERVED.

2017年に韓国で起こった実際の事件をベースに、ごく普通の高校生が過酷な労働環境によって自死へと追い込まれていく姿を描いた『あしたの少女』。

巨匠イ・チャンドンがプロデューサーを務めた『私の少女』(2014年)で鮮烈な長編デビューを飾ったチョン・ジュリ監督の約8年ぶりとなる最新作であり、主演ペ・ドゥナが再び刑事に扮することでも話題を呼んでいる社会派ドラマだ。

ある高校生の死をめぐる衝撃的な実話を映画化

2017年、韓国の全州(チョンジュ)市で衝撃的な事件が起こった。現場実習生として大手通信会社のコールセンターで働き始めた現役高校生が、わずか3ヵ月後に自ら命を絶ったのだ。この悲劇的な実話に基づく作品を撮るべく、8年ぶりにメガホンをとったチョン・ジュリ監督。ダンス好きの明るい少女が想像を絶する過酷な労働環境に疲弊し、ついには自死へと追いやられていく様を、迫真のリアリティをこめて描ききった。

無垢な青少年を消耗品のようにこき使う企業の実態をあぶり出した本作は、日本よりもはるかに競争が厳しいと言われる韓国の社会システムの歪みをも告発する。社会の未来を担う存在であり、本来は守られるべき子供や若者が大人たちに搾取されるという理不尽な問題は、私たち日本人にとっても決して他人事ではない。

韓国を代表するスター女優ペ・ドゥナ×新星キム・シウン

『あしたの少女』は2部構成となっており、ソヒが実習生としてコールセンターで働く前半のパートは、物語のベースになった実際の事件を忠実に再現。もう1人の主人公、刑事ユジンが登場する後半はチョン監督の創作で、韓国の労働問題を追及してきたジャーナリストらに触発され、ユジンのキャラクターを構築したという。

1つの事件を2つの視点で描くというユニークな着想と、ユジンがソヒの足取りを追体験していく捜査のプロセスは、2つの異なる時間軸が共鳴するような感覚を観る者にもたらす。そして、それを象徴する、あるシーンの“光”をモチーフにした演出は、観客それぞれの想像力を刺激せずにはいられない。

2022年、韓国映画として初めて「カンヌ国際映画祭」の批評家週間の閉幕作品として選ばれ、「第23回東京フィルメックス」での審査員特別賞受賞の他、多数の国際映画祭での受賞を果たすなど、映画ファンから日本公開が待ち望まれていた本作。社会の未来を担う存在であり、本来は守られるべき子供や若者が大人たちに搾取されるという理不尽な問題は、私たち日本人にとっても決して他人事ではない。

『あしたの少女』は2023年8月25日(金)よりシネマート新宿ほか全国公開中

「今月の韓国映画」CS映画専門チャンネル ムービープラスで毎月放送中

© ディスカバリー・ジャパン株式会社