「完璧でなくてもいい 生きているだけで全然勝ち」髭男爵・山田ルイ53世さん 優等生からひきこもりに

コロナの5類移行を受け、再び人の動きが活発になっています。リモートワークなどで「人付き合い」が少ない時期を長く過ごしたため、コロナ前の生活に馴染めず、戸惑いを感じている方も少なくないのではないでしょうか。日々の生活に馴染めなくて、悩んでいたり、孤独を感じている方もいらっしゃるかと思います。同じような経験をしたり、そうした子どもたちに接してきた著名人に当時の話、それから、いまになって思うことを4回シリーズで聞いていきます。

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初回は、ひきこもり経験があるというお笑いコンビ「髭男爵」の山田ルイ53世さんに、SBSラジオ『IPPO』パーソナリティの牧野克彦アナウンサーが聞きました。

まさか自分がひきこもりになるなんて…僕は「優秀な山田くん」でいなければならない

牧野:テレビなどでは明るいキャラクターの山田さんですが、ひきこもりの経験があるそうですね。

山田:まさかそんなことがあったなんてとよく思われるんですけども、中学2年生14歳の夏ぐらいから20歳手前まで約6年間ですね。いわゆる、不登校からの引きこもりという経験をしました。

牧野:どんな子ども時代だったんですか?

山田:自分でいうのも恥ずかしいんですけれど、小学校時代は児童会長をやらしてもらったりとか、部活のサッカー部でもずっとレギュラーで、中学入ってからも成績はよかったんですよ。学年で調子がいい時は3番以内とか成績もよくて、自分でもまさかひきこもりになるとは思ってもいなかった子ども時代でした。

牧野:そんな山田さんがどうして?

山田:たまたま成績がよかったもんやから、勉強がハードな、いわゆる進学校みたいなところに中学受験で入ったんですけど、これをキープせなあかんっていうなんか使命感みたいなものがあって、通学も片道2時間近くかかって大変だったんだけど、「優秀な山田くん」みたいに周りから見られてると感じていて、何とかこれをキープせなあかんっていう中で、いつも疲れていて、頑張り疲れといいますか、そういう感じですかね。

きっかけはいじめではなく「しょうもないこと」、だから「誰にでもあり得ること」

牧野:この日のこの出来事といった直接的なきっかけはあったんですか?

山田:直接のトリガー(引き金)となったのは、登校途中で大きい方を粗相してしまうということがあって、現象だけ見るとしょうもないことやなといわれると思うんですけども、「優秀な山田くん」からすると、何か糸がプツンと切れて、そこからひきこもりになってしまったー、簡単にいうとそういうことですね。

牧野:山田さんの場合は、学校でいじめられてという外部からの影響ではなく、違うパターンで引きこもりになったということですか?

山田:いじめとかじゃなかったです。小6の夏ぐらいから中学の受験勉強を始めたんですけど、小さな塾で親も受かると思ってなかったのに、それで受かったもんやから、塾の先生が街中にビラを撒いたんですよ。「きみも山田くんになれる!」っていうビラを。

牧野:それはプレッシャーになりましたよね?

山田:そう、それで一目置かれていると思っていたし、勝手に何か自分を追い詰めていたというか、「こうでないとだめだ」みたいな気持ちがすごくあって。結構真面目だったんでね。ところが、一生懸命に勉強や部活をやっているとやっぱり疲れてしまうということだと思っています。

牧野:そうなると、周りの人から見ると、かなり意外だったんじゃないですか?

山田:周りからは、「あの山田がひきこもり?」みたいな感じじゃないんですか。あの山田さんとこの順三くん、何か学校行ってないらしいみたいな。近所の噂話で親も多分疲れてしまって、結構苦労をかけたなといまさらながら反省しているんですけど。

成人式のニュースが転機「うわっ、取り残される」抜け出すのも些細なきっかけだった

牧野:その期間中は、お父さんとの戦いがあって、大変だったみたいですね。

山田:そうですね、親もやっぱり今までそんなことになると思ってなかったんで、対処の引き出しがなかったというか、ちょっとパニックになってしまって、取っ組み合いなったりとか罵詈雑言を浴びせ合うみたいな形だったんすけど、しばらくするとちょっと見守ろうっていうモードに変わりましたね。やっぱりそれが正しいというか。

牧野:本人からすると、当時、どういう対応をしてもらいたかったんですか?

山田:僕は当時、偉そうなんすけど「もうちょっとほっといて見とってくれたら、オレちゃんとできるのに」みたいに思っていたんですけど、ただ、いま振り返ると、ほっとかれたからといって事態が好転したのかっていうと、そういう言い切る自信もないというか、これ本当に人それぞれ、家庭それぞれというか、その子ども、その親に合った対処法みたいなんかあるんやと思うんです。

牧野:山田さんがひきこもりから解放されたきっかけは何だったんですか?

山田:ひきこもりを脱したのは、20歳手前ぐらいのときに、たまたま成人式のニュースを聞いたんですよ。同世代の子たちが社会人になる、大人になるっていうこのキーワードが強くて「うわ、このままだと完全に置いていかれる」っていう焦りがすごかったんです。

牧野:そうなんですね、その焦りを利用して一歩ずつ?

山田:それこそ一歩ずつ、玄関まで行ってみようかとか、玄関に行ったら靴に足先だけ入れてみようか、とかっていう本当に1ミリ単位で脱していったっていう感じですね。

牧野:引きこもりになったきっかけも、脱するきっかけもかなり些細だったんですね。

山田:そう思いますね。他の子にとっては、なんてことない、ちょっとしたことがその子にとっては、そういう引き金になりうるということなんでしょう。

牧野:成人式のニュースを見て、あれ、これ取り残されるんじゃないかと思われたということですけども、その感覚は引きこもりの間も、ずっと取り残されるかもしれないという恐怖心はあったのか、そのとき急にこれはまずいと思われたのか、どっちだったんですか。

山田:常にその焦りみたいなものはあったんですけど、「優秀な山田くん」って、ちやほやされてたときのおごりがずっとあったでしょうね。「オレやったらいつでも追いつけるわ!」みたいに、そうやって余裕かましていたんですけど、「成人」っていうワードで同世代が完全に手の届かない存在になってしまうっていうのがやっぱり大きかったです。

過度なルーティン・完璧主義に生活縛られる毎日「そこに生きてるだけで全然勝ちやから」

牧野:その優秀な山田くんをどこかに置いておくことができた?

山田:もうひとつ、僕の場合は、ちょっと完璧主義みたいなところがあって、部屋を全部きれいにしてからじゃないと勉強できへんとか、何かそういう壁というかハードルを常に自分に課してた部分があって、そういうのも取っ払うっていうことが僕の場合は大事だったかなと思いますね。

牧野:よくイチロー選手が、ルーティンをこなしてから打って素晴らしい結果を残したっていわれますけども、山田さんの場合はそのルーティンが過度に重なりすぎていたっていう部分があったんですか?

山田:例えば勉強してるときにシャーペンの芯がポキッと折れてじゅうたんに迷い込んだら、それを見つけるまでは再開できないとか、部屋全部きれいにし、全身を粘着テープでコロコロして、いまから手術できるんちゃうかいうぐらいきれいにしてからじゃないと勉強できないし、その状態で勉強しないとやっても意味がないみたいな気持ちにとらわれてた時期があって。

牧野:山田さんが経験されたことって、私もちょっとわかる気がして、青年時代って、なんであんなに些細なことを深く考えていたんだろうって思ったりもするんですけど、ただそのときの若い自分にその言葉を掛けたとしたら、どうなんだろうって思うところもあるんです。山田さんはその当時の自分にもどんな言葉を掛けますか?。

山田:「とりあえず」っていう言葉を伝えたいですね。玄関から一歩だけ足を出すとか、そういう小さい「とりあえず」を積み重ねていって、引きこもりを脱することができたというのが僕の感想なので、もう完璧でなくてもええわ!という、ただそこに生きているだけで全然勝ちやからということですね。いまはスターが成功した秘訣みたいな情報が毎日入ってくるから、どんどん自分でハードルを無駄に上げてしまってると思うんですけど、それは一種のエンターテインメントなんだって割り切る部分も必要なんじゃないのかなと思います。

牧野:腑に落ちますね。世の中のいいとこばかり見せているSNSに惑わされる必要はないですもんね?

山田:受け流していくというのが大切です。自分自身の世界を大事にしながら、生きてもらいたいと思います。そういうのも全部置いといて、「とりあえず」やってみようという。

【厚生労働省がHPで紹介している主な悩み相談窓口】
◇いのちの電話
0120-783-556(午後4時~午後9時、毎月10日は午前8時~翌日午前9時)
0570-783-556(午前10時~午後10時)

◇#いのちSOS
0120-061-338(日~火、金は24時間対応、水、木、土は午前6時~深夜0時)

◇こころの健康相談統一ダイヤル
0570-064-556(相談対応の曜日・時間は都道府県によって異なります)

◇よりそいホットライン
0120-279-338(24時間対応)
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