“素”の良さを引き出すアップデートを実施。最新“GR”の徹底した走りへのこだわり/トヨタGRカローラ試乗

■モータースポーツを起点にしたクルマづくりは、より深く、細部に

 TOYOTA GAZOO RacingはGRカローラを一部改良し、「意のままの走り」をさらに進化させた。予定されている販売台数は550台で、抽選申込みにより販売する方式。抽選申し込み期間は2023年8月23日13時30分から9月11日8時59分までで、Webで受付け。9月下旬から順次商談を開始し、販売の開始は2023年秋頃を予定している。

「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり」を実践して開発したクルマがGRカローラだ。スーパー耐久シリーズを走るGRカローラ(水素エンジンを搭載するため、通称「水素カローラ」)や、SUPER GT GT500クラスを走るGRスープラにしてもそうだが、量産車と違い、レーシングカーはサーキットを走り出した時点でひと段落、ではない。そのときのベストな状態であることは間違いないが、走り出した時点がスタートである。

GRカローラはカローラスポーツのボディを基本骨格としている。2640mmのロングホイールベースによる高速安定性を活かしながら、トレッドをフロント1590mm、リヤ1620mmのワイド化することで、高い旋回性能を獲得している。
ダークカラーで統一されたGRカローラ“RZ”のコクピット。レーシングドライバーからのフィードバックを盛り込み、操作性を磨き上げ、クルマとの一体感を高めている。中央には10.5インチの高精細HDワイドディスプレイが鎮座する。
GRヤリスに搭載されたコンパクトな1.6リッター直列3気筒インタークーラーターボエンジンをさらに高出力化。最高出力304ps(224kW)/6500rpmを達成する。

 水素カローラにしても、GRスープラ・GT500にしても、テストを重ねるごとに、レースを経験するごとに信頼性は増し、性能は向上していく。量産車のGRカローラも同じ。

 モータースポーツと同じプロセスを踏んで開発が進められており、今回の一部改良は「さまざまなモータースポーツの現場での学びを生かした」アップデートの第1弾だ。最初のGRカローラのリリースは2022年12月だったから、1年足らずでのアップデートとなる。

 一部改良の狙いについて、GRカローラのチーフエンジニアを務める坂本尚之氏は次のように説明する。

「ポイントは、GRカローラで目指している走りの一体感です。クルマとしっかり対話できる部分をリファインさせる内容としました。操舵に対する応答性をしっかりさせるために、フロントのサスペンションメンバーとステアリングギヤボックスを下から締結するボルトを変更することで、締結力を上げました」

 走りに関するアップデートだが、ショックアブソーバー(ダンパー)やばね(コイルスプリング)、EPS(電動パワーステアリング、GRカローラはコラムアシスト式)の諸元や制御には手を加えていない。

 G16E-GTS型1.6L直列3気筒ターボエンジンや、GR-FOURと呼ぶ電子制御多板クラッチ式4WDのハード/ソフトに変更はない。2022年12月にリリースされた“素”のGRカローラのポテンシャルをより引き出す方向での改良である。完成度を高めた、と言い換えてもいい。走りのキャラクターを変えるような変更ではない。

 走りの完成度を高めるために変えたのは、フロントとリヤのボルトだ。フロントは坂本氏の説明にもあるとおり、サスペンションメンバーとステアリングギヤボックスを留める六角ボルトである。ボルト径はそのままに、頭部の底面についている円形のつば、すなわちフランジにリブ形状を追加した。

主な改良内容のひとつは、運転操作に対するダイレクト感の向上を狙ったもの。シャシー部品を締結するボルトの一部に、締結剛性向上ボルトを採用。ステアリング操作に対する応答性と直進安定性を向上し、クルマとの一体感を進化させている。
フロントサスペンションメンバーとステアリングギアボックスを締結するボルト。写真右が今回新しくなった改良後のもの。

 ステアリングを切り込む際、ステアリングギヤボックスはタイロッドを動かしてナックル(レーシングカー風に記すとアップライト)に力を伝えるが、同時に、ナックル側からロワアームを通じて反力が返ってきて六角ボルトをたわませようとする。フランジにリブを追加して剛性を高めたことで、広い面でしっかり力を受け止めるようになり、操舵に対する応答性が向上した。

 リヤの六角ボルトも変更している。サスペンションメンバーをボディに固定するボルト(フロント側)だ。狙いはフロントと同じだが手法は異なり、六角形のボルト頭部の幅を約22mmから約24mmに拡大した。やはり座面がしっかりし、フランジの外側までしっかり力が伝わって、たわみをより効果的に抑えることにつながる。フランジの有効半径が広がるイメージだ。

リヤサスペンションメンバーとボディを締結するボルト。写真右が今回新しくなった改良後のもの。

「ステアリングギヤボックスにしろ、リヤのサブフレームにしろ、GRカローラはブッシュを介さずに留めているので、本来なら動くはずはないのです」と、凄腕技能養成部の匠(評価ドライバーであり、運転の、そして走りの味つけのプロ)である大阪晃弘氏は説明する。

「でも細かく見ると、フランジは倒れこみます。普通に軸力だけでボルトを締めると内側ばかり強く締結される。全体的に面でしっかり締結することにより、違いが生まれます。他にもいろいろな締結部で試してみたのですが、厳選して最後に残ったのが今回の2ヵ所でした。ステアリングの直結感やインフォメーションが良くなっています」

 モータースポーツでは、走行前にボルトの締め付け状態を精密に管理できるが、量産車はそうはいかない。基本的には、ユーザーの手元に渡ったらそれっきりだ。軸力を上げて締結力を高めてもいいが、量産車ではその後のリスクが管理できない。

 そこで、締め付けトルクは変えずにフランジ部の剛性を上げて締結力を高めた。手段は異なるが、思想はモータースポーツで行っている取り組みと同じである。

 今回の一部改良では、空力にも手が加えられている。フロントバンパーのコーナー部にはダクトが設けられており、ここから取り込んだ空気をタイヤ&ホイールの側面に流すことで、回転するタイヤが発生させる乱流を抑え、側方を流れる空気とスムーズに合流させてドラッグ(空気抵抗)を低減させる。

 一部改良ではホイールハウス側のダクト形状を変えた。従来は外に流すことでタイヤとの干渉を防いでいたが、一部改良ではタイヤに一部当たるようなダクト形状に変えた。大阪氏が説明する。

「少しタイヤに当てるようにして側面に沿わせたほうが、動きが良くなったのです。ターンインでステアリングの切り始めたときに、スッと動いて遅れずに追従してくれるようになりました」

今回の改良では空力にも手が加えられた。ホイールハウス側のダクト形状を変更されている。(写真右が変更後のダクト形状)
変更前のダクト形状
変更後のダクト形状

 ボルトにしても、空力にしても、数値に表れるかどうか微妙なレベルだという。「数値に表れないのだとしたら、我々の計測能力やデータ解析の仕方に問題がある」と坂本氏は言う。そこを突き詰めていくことで、「もっとクルマづくり」につながっていく。大阪氏のような匠の評価に技術で追い付くことも、「クルマづくりの急先鋒」を自認するGRの役割だ。

 従来は減衰力特性や前後のロール剛性、重心高、ロールセンターなどの諸元をもとにクルマづくりを行っていたが、GRは経験とトライアンドエラーも重視したクルマづくりを行っている。だから、数値で証明できなくても(数値化しようと取り組んではいる)、感じて良ければ開発にゴーサインが出る。

■厳選した細部の改良で、走りの一体感を向上

 プレスリリースに記述はないが、最新のGRカローラにはプラスアルファの改良が施されている。ひとつはアルミテープ。前後バンパーのサイド部に裏側から貼っている。樹脂部品であるバンパーの帯電を解消することで、空気がきれいに流れるようになる。

今回の改良では、前後バンパーのサイド部に裏側にアルミテープが貼られた。樹脂部品であるバンパーの帯電を解消することで、空気がきれいに流れるようになる。(フロント部分)
リヤ部分

 もうひとつは、バッテリーアース性能の向上だ。GRカローラはGRヤリスと同様、12Vバッテリーをトランクルームに搭載している。アース端子を留める車体の塗膜を剥ぎ取り、金属面をしっかり出してメタルタッチするようにした。クルマにはいろいろな電装品が載っており、電装品を操作することで電圧が変動してドライバビリティに影響を与えることがある。それを防ぐためにアースをしっかりとるのはモータースポーツでは基本であり、その考えをGRカローラに持ち込んだ。

トヨタGRカローラ“RZ”
トヨタGRカローラ“RZ”

「アクセルも電制スロットルですから、アースをしっかりとることで発進のときにエンジンのつきが良くなり、スッと応答してくれる。そういう良さが出ます」と大阪氏。

「EPSもモーターですので、アースをしっかりとることが効いてきます。切り始めの情報量がすごく感じやすくなり、我々が狙っているクルマとの一体感や意のままの走り近づけることができます」

 これらこだわりの改良が施された一部改良版のGRカローラは、極端なことを言えば、パーキングスピードでクルマとの対話が楽しめるクルマになっている。一部改良前の最初のGRカローラが対話のできないクルマというわけではなく、もっと良くなっているという意味だ。

 実際には、駐車場で移動するような速度域よりも、公道を走らせたほうが断然気持ちいい。「対話を楽しむ」という意味では、サーキットを走らせるよりも、むしろ一般道のほうが向いているかもしれない。今回の改良の効果が現れやすいのは「過渡」だからだ。

 ステアリングを切り込んだ際に手応えに引っかかりがなくスムーズで、しかも、しっかりしたクルマを操作している実感がともなう。ステアリングホイールを握る手のひらを通じて、路面の状態やクルマの重さ、動きといった情報がしっかり伝わってくるからだろう。

 そのステアリングの動きに、クルマが素直に追従する。一連の動きを表現するのにぴったりな形容詞は「スッキリ」だ。クルマを操る行為が爽快である。力ずくで曲げている感じではなく、きっかけを与えるイメージ。クルマが思いどおりに狙ったラインをトレースしてくれるので余計な気を使わないし、だから楽しい。

 発見だったのは、道路の継ぎ目が連続する首都高速を走っていても快適だったこと。しっかりしたボディと運動性能の高さはサーキットで確認しているが、背反しがちな乗り心地に異を唱えたくなるようなシーンはまったくなかった。乗り心地に関しては、助手席の乗員も同意見だった。付け加えておくと、アクセルペダルの動きに対する応答は相変わらず素晴らしく、鞭をくれたときに快感といったらない。

 すでにお気づきかもしれないが、今回の一部改良は、最初の500台を手に入れた既存のユーザーもアップデート可能な内容になっている(具体的な提供方法は検討中とのこと)。「1回目のアップデートは既存のユーザーの方を置いていかない形でやりたいと考え、なるべく少ないパーツでアップデートできて、効果的な内容としました」と坂本氏。

 新規ユーザーは完成度の高くなった最新のGRカローラを手に入れることができ、既存ユーザーは手に入れた状態と比較することで、進化の度合いを確認することができる。実に気の利いたアップデートだ。

新色のシアンメタリックは限定50台。インテリアも専用の内装色のブラック×ブルーを設定する。
ホールド性を追求したスポーツシートを採用。サイドサポートの形状、硬度を最適化することで、コーナリングでの強い横Gにも対応する。
4WDモードセレクトスイッチ。電子制御多板クラッチを用いたアクティブトルクスプリット4WDシステムにより、前後輪のトルク配分を3つの制御モードから選択できる。
トヨタGRカローラ“RZ”

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