半世紀ぶりに水車復活 江戸末期建造で和歌山県内最大級、歴史的価値も

水の力を受けて回る水車を眺める井澗洸介さん(右)と水車大工の野瀬翔平さん=和歌山県すさみ町周参見で

 和歌山県すさみ町周参見で1970年代まで製粉に使われていた水車が、約半世紀ぶりに水の力で回った。江戸末期に建てられた水車の修復にコロナ禍前から取り組んできた所有者の井澗和良さん(68)=上富田町岩田=や家族たちは「大きな一歩になる」と喜んだ。

 通水試験が26、27日にあり、水車小屋の脇を通る水路からポンプを使って水を流すと、水車が回った。

 今後、きねや臼など水車の付帯設備や水車小屋の修復に取り組むほか、多くが土や石で埋まっている全長約300メートルの水路も、できる限り直すという。

 井澗さんの長男・洸介さん(34)が代表を務める会社が7月、小屋のそばにある古民家を取得しており、カフェにする計画を立てている。

 水車は直径約5メートルで県内最大級。太間川沿いにあり、1864(元治元)年に建てられた。

 全国で水車の修復を手がける「野瀬建設」(福岡県久留米市)が元々の水車から設計し、一般参加も募って7月に組み立てた。

 井澗さんの長女で県職員の山下桃子さん(39)は「水の力で動くことは目標の一つだったが、スタートでもある。気持ちを新たにして次のゴールを目指したい」と話していた。

 井澗さんは「(一連の取り組みで)費用はかなりかかっているが、それ以上の価値が生まれている」と意義を強調した。付き合いが復活した親戚もいるという。

 水車は、井澗さんの曽祖父・和三郎さんが1910(明治43)年に買い受けた。かつてはスギの葉と、のりの性質を持つタブノキの葉を水車の動力で粉にし、線香を作っていた。井澗さんの祖父である良太郎さんの代まで製粉に使った。

 井澗さん家族が水車復活へ動き出したのは、良太郎さんの次男で井澗さんの父・潔さんが生前に「水の流れがこいしい」などと書き残したメモが2019年に見つかったことも大きかった。洸介さんは「水車に水が通ったことで(潔さんらの)墓前で良い報告ができる」と喜んでいた。

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