【今週のサンモニ】「汚染水放出」と風評加害を拡散する『サンデーモーニング』|藤原かずえ 『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。今週は原発処理水放出を巡って、イチャモンをつけまくっております。

安全性ではなくデマを繰り返し拡散

今週の『サンデーモーニング』のトップニュースは、福島第一原発のALPS処理水の海洋放出に関する話題でした。

番組は、自分たちが過去に「汚染水放出」なる風評をテレビで拡散した風評加害者であることなどこれっぽっちも感じることなく、政府と東電に対するイチャモンを並べることに徹しました。

アナウンサー:長い道のりとなる廃炉作業に向けて多くの人々の理解を得られることになるのでしょうか。東京電力福島第一原発からの処理水の放出が始まりました。

これまでに『サンデーモーニング』は、公共の電波を独占利用しているにも拘らず、政府や東電が何度も発信してきた処理水の安全性を殆ど報じることなく、逆にデマを繰り返し拡散することで国民の不安を煽ってきたのです。

過去の放送を振り返ってみましょう。

インスタグラムでもおどろおどろしく風評加害を。

10年前から不安を煽りまくり

<2013年9月15日>

岸井成格氏:汚染水が外洋に出ていない。健康被害が出ていないということでコントロールされていると言っている。漏れていることは事実でコントロールされているとは言えない。

金子勝氏:タンクから排水溝を伝わって出てしまう可能性とか。港湾のシルトフェンスがあるが、トリチウムに関しては薄まって出ている。

環境の安全性の判定基準は、世界共通して有害物質の濃度です。

2013年、原発の港湾出口でまったく放射線が検出されていないにもかかわらず、番組は安倍総理の「アンダーコントロール」発言を無理やり否定する検証不可能なデマを流し、国民の不安を煽りました。まさにこの頃から、番組は科学的根拠によらない可能性を振りかざし、豊洲市場やコロナにおけるゼロリスク追求の不合理な文化を社会に形成していったのです。

<2021年4月18日>

アナウンサー:懸案だった福島第一原発で発生する処理水をめぐって政府は海に放出する方針を正式に決めました。内外に波紋が広がっています。地元の漁業関係者が最も恐れるのが風評被害です。さらに周辺国(中韓)からは反発の声が上がりました。

目加田説子氏:トリチウムの半減期は短いので健康には大きな被害がないと言われているが、わからないこともたくさんある。実際にそうではないと指摘する研究者もたくさんいる。放出するのは30年・40年ずっと放出し続ける。どういう影響を人体に及ぼしていくのかわからないわけだ。
だとするなら、海洋放出以外にオプションはなかったのか。どんなことを検討してどれだけのコストがかかるのか、そして最終的に海洋放出に至ったのか、経緯の説明もほとんどない。納得も理解も得られないままに「決めました」というのはあまりにも乱暴だ。行政処分を受ける東電が管理できるのか、国民の不信感がある。

青木理氏:トリチウム以外も混ざるという疑いもある。

目加田説子氏:海洋放出をスルーしてしまえば膨大な放射性廃棄物の処理も今後「いいんじゃないか」「捨てちゃえ」という話になりかねない。怖い。

番組は、地元が風評被害を最も恐れていることを認識しているにもかかわらず、立証されていないハザードをあたかも事実であるかのように語り、確信的に国民の不安を煽りました。

政府が海洋放出の決定にあたり他のオプションを何も検討しなかったかのような目加田氏の言説は完全なデマです。政府は様々なオプションに対して精緻なコスト検証を行った結果として海洋放出を決定したのであり、その詳細な検討資料についてはインターネット上でも開示されていました。

また、処理水の海洋放出が他の膨大な放射性廃棄物を捨てる理由になるなど、常軌を逸した言語道断の悪質なデマです。

IAEAを疑う陰謀論まで

<2021年5月2日>
青木理氏:原発事故をこの国は起こし、10年たっても皆さんご存じの通り、汚染水を放出するという話をしている。「アンダーコントロール」とか「復興五輪」とか嘘だ。

<2022年2月13日>
青木理氏:貯まり続けている処理するという汚染水も海洋放出しようじゃないかという動きがあった。

<2023年7月9日>
目加田説子氏:汚染水の放出も、最低30年くらいはこれから続く。

番組は「処理水」ではなく「汚染水」を放出するというデマを繰り返し拡散しました。処理水の放出が多くの人々の理解を得られないとすれば、その責任は公共の電波を使ってデマを確信的に流してきた『サンデーモーニング』にもあります。

<2023年7月9日>」
松原耕二氏:IAEAのトップがわざわざ来てお墨付きを与えて、翌日には米国政府が歓迎すると言わせてみたり、日本政府がかなり根回しをして段取りを組んだ感がものすごくあって、本当に中立なのかという声が確かに出ている。

挙句の果てに、番組ではIAEAの中立性を根拠なく疑う陰謀論まで飛び出しました。これでは、福島の水産物を買いたくないと思う人が増えても無理はありません。

『サンデーモーニング』は明確な風評加害者であり、漁業従事者を苦しめ、国民に800億円にものぼる風評被害対策を支払わせ、中共に理不尽な水産物禁輸を正当化させた「汚染水放出デマ」の発信源だったのです。

そして、番組のミスリードは現在に至っても続きます。

「貯水」を「処理水」と混同させるミスリード

アナウンサー:福島第一原発では、原子炉建屋に地下水が流れ込むなどし、今も汚染水が1日に90トン出ています。この汚染水はALPSによって浄化され、処理水として既に134万トンがタンクに貯められています。
しかしその134万トンのうち、実はおよそ7割はトリチウム以外の放射性物質を取り切れておらず、規制基準を満たしていません。再びALPSなどで処理する必要があるのです。すべての放出作業が完了するには最短でも30年はかかる見通しです。
長崎大学の鈴木達治郎教授は、放出される処理水は通常の原発から排出されているものとは異なる。信頼できる第三者機関を設置して放出プロセスを監視すべきだとしています。

タンクの貯水のうち7割が規制基準を満たしていないことを問題視する番組ですが、これらの貯水は再度ALPSで処理して環境基準を満たしたことを確認した上で放出することになっています。

番組は、これらの「貯水」を「処理水」と混同させるミスリードを行っています。

放出に30年かかるというのは、可能な限り海洋へ負担をかけないためです。国が定めた通常の安全基準で放出すれば、理論的に1年で放出は完了します。番組がミスリードするような「余儀なく放出に30年もかかってしまう」のではなく「意図的に30年かけて放出する」のです。

また、処理水の放出にあたっては、世界で最も信頼できるIAEAが、第三者機関として、最後の一滴まで処理水の放出に関わることを宣言しています。IAEAの立ち合いでは不十分と考えるなど、常軌を逸した要求です。

公共の電波を使ってこんな突拍子もない要求や確信的なデマを流しているテレビ番組にこそ、社会にとっての大きな不利益であり、信頼できる第三者機関の監視が必要です。

関口宏氏:廃炉ができない限りは出続けるわけだから、30年という目途はあるけど、本当にそれで終わるか疑問だ。

廃炉作業を進めるための処理水問題の解決を番組が妨害していることを関口氏は認識していないようです。

科学的常識が欠如した日本のマスメディア

薮中三十二氏:中国はやり過ぎだと思う。ただ、国際的に見てNYTとかを見ると、なんて書いてあるかというと「"radioactive water" 放射線の入った水を日本が出した」というのが表題だ。日本では「処理水」だが、世界的に見ると「放射線の入ったやつだ」と。報道では、中国のやり方を批判していないし、日本の中でもいろいろな反対意見があるという紹介だ。

NYTの記事のタイトルは「Japan Begins Releasing Treated Radioactive Water at Fukushima」です。つまり「日本は、放射性の水を処理したものを放出し始めた」です。

記事を読むと「IAEAは恐れるに当たらないと発表した」と紹介しているように、ことさら不安を煽るものではありません。薮中氏は、この記事の表題を基に日本国民をミスリードして不安を煽ると同時に、中国共産党の行為が【模型の虚偽】によって正当化されているかのような印象を植え付けています。

元村有希子氏:この計画に関してはリスクをゼロにはできない。トリチウムという放射性物質を少しでも含まれている水を海に流すわけですから。本当はどこまでのリスクが許容できるかを皆で模索する作業になるはずだが、結果として政府の説明も東電の説明が足りずに不信の中でのスタートとなった。中国の反応も外交力の欠如の結果だ。

この言説は、環境リスクに対処する環境基準の考え方を全く理解していないゼロリスク追求に他なりません。

そもそも海洋放出する前の段階でWHO飲料水基準の7分の1未満に薄めた安全な水をさらに無尽蔵に存在する海水で薄めるというプロジェクトに対して、現在の世界が許容しているリスク以上のリスクは存在しません。

まさに日本のマスメディアの科学的常識の欠如が風評を生んだ事案であると言えます。

加えて、政府と東電は丁寧かつ完璧に処理水の安全性を説明しましたが、それを十分に説明しなかったのは、公共の電波を独占的に使用しているテレビ、および軽減税率で社会的に優遇されている新聞です。

「説明が足りずに不信のスタート」というのは、公共財としてのマスメディアの責任を完全に放棄した逆ギレ発言です。

中国の反応は、中国共産党のイチャモンであって、事案の政治利用に過ぎません。この非科学的な嫌がらせ行為を日本政府の「外交力の欠如」などと表現するのは、理不尽に中国共産党を擁護する主張と言えます。ちなみに元村氏が所属する毎日新聞は、中国共産党から巨額の広告費を受け取っていることが指摘されています。

マスメディアが説明を報じないから伝わっていない

安田菜津紀氏:これで根本的に国や企業による合意形成や信頼構築の在り方そのものが問われている。東電は度重なる不祥事で不振の蓄積がある上に、岸田政権としては、あんなに自慢げに掲げていた「聞く力」はどこにいったのか。
被災者も決めてから理解を求めるというのも順番が違うと語っていた。関係者の理解という約束も覆したのが、30年後あるいはそれ以降の未来に透明性を持って責任を負えるのか。説明責任さえ果たさない側が全責任を持つと言っても空虚だ。最低でも海外メディアも参加できる形でしっかり時間を取って首相会見を開いて、パフォーマンスや一過性でない形で煽りを受け続けなければいけない方々の言葉を直接聞くことが最低限でも求められる。

政府も東電も丁寧な説明責任を理路整然と果たしています。この社会的に重要な説明をマスメディアが積極的に報じないだけです。

そもそも弱者である漁業従事者が煽りを受けているのは、『サンデーモーニング』などが拡散している「汚染水放出」デマによるものです。まさに風評加害者が、風評被害者に対して自分たちが立証責任を果たさずに創作した風評を否定する説明責任を政府に課しているのです。こんな理不尽な話はありません。

青木理氏:30年で終わらない。燃料デブリがあるから、それを冷やすための水がどんどん出てきている。880トンのデブリを取り出さないとダメだ。事故から12年経って1gも取れていない。今年の後半に1g取ると言っているが、果たして取れるか技術も方法も確立していない。そうなると本当に廃炉できるのか。
福島原発の事故の傷の甚大さと深さ。足がすくむくらいの事故だった。なのに政府は完全に原発回帰路線に舵を切った。原発政策を見た時に今回の処理水の放出はほんの一部なのかもしれない。じゃあ原発とどう向き合うのか、福島の人とどう向き合うのか、エネルギー政策をどうするのか。この放出を見て「透明性だけお願いします」だけでは済まない。

まず、間違えてはならないのは、燃料デブリを12年で1gも取れていないことが、30年で廃炉作業が終わらないという結論を導く前提にはならないということです。また、原発事故の教訓を得て、現在の原発の安全性は12年前とは比較にならないほど高まっています。

この12年の間、原発を理不尽に再稼働しないことで、日本は数10兆円にわたる巨額の富を失い、温室効果ガスを不必要に排出し、国民は深刻な停電危機に晒されながら高額の電気料金を支払い続けてきました。すべては、思考停止による原発停止の産物です。

処理水放出が遅れたのも、これを理不尽に政治問題化した反原発派による非科学的なデマ拡散が元凶です。青木氏は『サンデーモーニング』で「汚染水放出」というデマを拡散しました。漁業従事者は理不尽な風評被害で苦しみ、国民は800億円の風評被害対策費を理不尽に支払わされることになりました。

本来、風評被害を賠償する責任があるのはデマを流した風評加害者です。こんな反社会的行為を有耶無耶に済ませてはいけません。

藤原かずえ | Hanadaプラス

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