ネット・ゲーム依存対策の学習シート 専門家団体が香川県教委に公開質問状「医学的・科学的に誤り」

児童・生徒がインターネットやゲームの依存状態に陥らないよう香川県教育委員会が作成、配布している「学習シート」。この学習シートに医学的、科学的な誤りや問題点があるとして専門家で作る団体が県教委に「公開質問状」を提出しました。

公開質問状を出したのはギャンブルやゲーム、買い物など依存的な行動を指す「行動嗜癖」についての調査研究と理解促進に取り組む専門家たちで作る「日本行動嗜癖学会」です。

学会が問題視したのは香川県で施行された、いわゆる「ゲーム条例」に基づき県教委が2020年度から小中学生に配布している「ネット・ゲーム依存予防対策学習シート」です。

ネットやゲームの1日の使用時間帯を記入したり、質問に答えて自分の依存度を診断したりします。

夏休みの宿題として保護者と一緒に「家庭でのルール」を作り、どれだけ守れたのかを記入させている学校も多いようです。この内容を巡り、KSBでは学習シートができた当初から専門家の間で疑問の声が上がっていることを伝えてきました。

今回の質問状では具体的に5つの項目を挙げ、「医学的・科学的に誤り」「研究者として非常に大きな危惧を覚える」などと強い表現も使いながら、県教委としての見解を求めています。

その一つが「スマホ等の利用時間と正答率の関係」を示した折れ線グラフです。一見すると、スマホを使い過ぎると成績が悪くなる、という「因果関係」があるととらえてしまいますが……。

逆の因果関係、例えば、学業がうまくいかず、気晴らしのため没頭しているケースや、スマホやゲームを長く使うことと成績不振という2つの現象、両方に影響を及ぼす「別の要因」があるケースも考えられます。

このグラフの元になった県の学習状況調査では「朝食を毎日食べていますか」など、スマホの利用時間と同じような形のグラフになる質問項目が多くあります。

(日本行動嗜癖学会理事・多摩大学情報社会学研究所/井出草平 客員准教授)
「勉強がよくできる子は朝食を食べてるし、困った人がいたら進んで助けているし近所の人にはあいさつをしてる。インターネット利用と成績というものが直で結びついているというよりは『家庭の教育力』みたいなものが第3の要因として想定されたほうが合理的な考え方かなと思いますね」

同じような問題は、「脳への影響」に関する参考資料でも……。

「ゲームに依存してる人の脳では感情や思考を司る青色の部分が変化してしまっている」と説明していますが、行動嗜癖学会の理事で、ギャンブルやゲーム行動症に詳しい脳科学者の篠原菊紀さんは異を唱えます。

(日本行動嗜癖学会理事・公立諏訪東京理科大学(脳科学)/篠原菊紀 教授)
「あくまで相関関係であって、因果関係であるかどうかは分からない。つまり、ゲームをやればこうなったのか、元々こういう人がコントロールしにくくなってゲーム障害化していくんだっていうことの因果関係が分からないのに出して、これで気づけっていうのは科学教育としていかがなものか」

(記者リポート)
「脳への影響について説明するこちらの参考資料、実は2020年に作成された当初のものと、2023年度に配られたものでは内容が少し変わっています」

2020年度版には引用元の論文には書かれていなかった「過剰なゲームにより萎縮したと考えられる」という文言がありましたが、2023年度版は、これを削除。さらに、元の論文の図では「青色」だった部分を「赤色」で表示していましたが、「より危険性を印象付ける狙いではないか」という指摘を受け、2023年度からは青に変更しています。

とはいえ……。

記者「この図と表だけぽんと見せられると、やっぱり使い過ぎちゃうとこうなるっていうふうに捉えますよね?」
(日本行動嗜癖学会理事 公立諏訪東京理科大学(脳科学)/篠原菊紀 教授)
「まぁそうですよね。これはもう病気だから治療しなきゃいけないとか、どこかの施設に行って『断ゲーム』とか何とかしなきゃいけないっていう発想につながりやすくなったりすると、それはある意味、普通にゲームと付き合ってる人に対する偏見を生むっていうことにもなると思う」

28日に開かれた定例記者会見で淀谷教育長に聞きました。

記者「ネットやゲームとの付き合い方を考えようと銘打ちながらも、根底にどこかネットやゲームが悪いものであるというような思想が流れているんじゃないかと思うが、どうですか?」
(香川県教育委員会/淀谷圭三郎 教育長)
「そこは……そういうつもりは全然ない、ですけどね」

淀谷教育長は行動嗜癖学会からの公開質問状については「回答するかしないかも含め対応を協議中だ」としています。

(香川県教育委員会/淀谷圭三郎 教育長)
「(学習シート作成にあたって)いろんな専門家の監修や助言も受けておりますので、科学的な教育の面でもおかしいのではないかというご主張もあろうかと思いますけども、現時点では『そういう意見もあるのかな』と受け止めさせていただいている」

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