なぜ齊藤未月への重大なファウルは見逃されたのか? 揺れるカメラ、ハンドの可能性、ゴールポスト…JFA審判委員会が説明

VARルームと主審の交信の模様公開、「担架! 担架!」と叫ぶ声も。

日本サッカー協会(JFA)審判委員会は8月28日、レフェリーブリーフィングを開き、ヴィッセル神戸の齊藤未月が8月19日の柏レイソル戦で全治約1年の重傷を負ったシーンについて、齊藤の左ヒザへスパイクの足裏でタックルしていたジエゴに対するレッドカードが妥当だったと見解を示した。

ただし試合中は「『重大な事象の見逃し』はなかった」として、VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)のチェックは入ったものの、主審にビデオチェックするOFR(オン・フィールド・レビュー)を推奨することはなかった。

なぜ、齊藤への重大なファウルは見逃されたのか? JFA審判委員会は当日の経緯などとともに説明した。

このシーンが起きた時の主審とVARルームの交信の模様も公開された。VARルームでは、1本目のシュートのハンドの確認、別の選手の足裏タックルによるファウルの確認などをチェック。そうしたなか、齊藤の状態を受けて、主審が「担架! 担架!」と叫ぶ生々しい声も飛んでいた。

このシーンでは、齊藤がまず右足で1本目のシュートを放っている。VARルームはそこでハンドの可能性があったことを重視し、まず詳しく様々な角度からチェックしていた。

さらに直後、左足で放った問題となった2本目のシュートシーンでは、最も近くにあったカメラが最初のシュートを追っていたこともあり、カメラも揺れていて、接触をほとんど捉え切れていなかった。一方、柏が守るゴール裏からの映像は、ちょうどゴールポストが重なっていて、齊藤と柏の選手たちのコンタクトが隠れる形に。

そして反対側の神戸ゴール裏からのカメラでは、柏2選手と齊藤の接触は捉えていた。が、こちらもカメラがブレていて、ファウルと断定することはできない。もう1選手による齊藤へのファウルの可能性もあり、そのチェックも進められた。

そうしたなか、メインスタンドに設置されたVAR用のカメラでは、ジエゴのスパイクの足裏が齊藤の左ヒザを直撃しているのがほぼ分かった。ただし、それでもやはり”明らか(重大な見逃し)”とは言えない。そのため主審の判断が推奨され、VARは介入しなかった(できなかった)。

ただし扇谷委員長は、現地の主審は齊藤の足が「曲がってしまっている」状況を見ていて、そうした「外的な根拠」も考慮すべき一因であったと説明した。

決して”大ケガをさせたからファウルだ”ということではないとも強調。ジエゴが足を振り上げて相手へ向かっていると見られる映像があり、その接触により齊藤は負傷している。なぜ、そのような負傷が起きたのか。複数の『事実(ファクト)』を組み合わせれば、「重大なファウル」と認定できたはずだということだ。

とはいえ現場では、ハンドの可能性、映像の不明瞭さ、もう1選手によるファウルの可能性……様々な事象を瞬時に一つひとつ判断することが求められていた。こうして問題がより可視化されたことで重大さも明白になったが、試合の最中では、そうした複合的な要因により、結果的に「ファウルの見逃し」につながったということだ。

神戸から意見書を受け取っていたJFA審判委員会は、クラブに対し、こうした状況を説明したという。担当した主審は当面、研修期間に入るそうだ。

また一方、メディアからはこの席で、審判や判定のみの問題ではなく、選手側にも問題があるのではないかと指摘も出た。柏の選手は相手を考えない捨て身な守り方をしていた、それを「故意ではない」と言えるのか。選手の”バレなければファウルしてもいい”というプレーの延長戦上にこうした悲劇も起きたのでは――。どうしても主審や審判に批判が向かいがちだが、Jリーグでは激しいプレーが推奨されるなか、選手サイドの問題・課題を問う声も出ていた。

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神戸の発表では、齊藤の負傷は、左ヒザ関節脱臼、左ヒザ複合靱帯損傷(前十字靭帯断裂、外側側副靭帯断裂、大腿二頭筋腱付着部断裂、膝窩筋腱損傷、内側側副靭帯損傷、後十字靭帯損傷)、内外側半月板損傷。全治約1年と発表されている。

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