津山恵子のニューヨーク・リポート Vol.14 「スラムダンク」、収入100万ドル突破 日本映画、多彩なストーリー伝える

7月26日、JSにてスラムダンクのファンたち(Photo: ©Daphne Youree)

アニメ映画「THE FIRST SLAM DUNK」が8月6日、北米で封切られて10日間で興行収入105万ドルを記録し、100万ドルの大台を突破した。上映館が少ないにもかかわらず、最初の週末に11位にランク入り(ボックスオフィス・モジョによる)。7月末からジャパン・ソサエティー(JS)で開かれた北米最大の日本映画祭「JAPAN CUTS~ジャパン・カッツ~」でも、多彩なストーリーで惹きつける映画が多く紹介され、連日満席だった。  

「THE FIRST SLAM DUNK」(原作・脚本・監督 井上雄彦)は7月26日、北米公開に先駆けてJSで初上映。2時間に及ぶ湘北高校VS山王工業高校の手に汗握る高校バスケットボール2回戦に、観客が笑ったり、涙したり、得点が入ると抱き合って喜んだりした。  

ニューヨーク・タイムズは「リアルな試合みたいだ。(中略)選手の過去のフラッシュバックはよく練られているが、バスケの動きの秀逸さが映画の見どころだ」と評した。  

JAPAN CUTSのセンターピース作品「ターコイズの空の下で」(KENTARO監督)は、モンゴル・日本の合作という異作。みずみずしい演技をみせた主演の柳楽優弥さんは、映画祭のCUT ABOVE賞を受賞した。  

言葉がお互いに通じない日本人青年(柳楽)とモンゴル人男性(アムラ・バルジンヤム)のロードムービーで、台詞は極端に少ないが、メッセージは鮮明だ。KENTARO監督は記者会見で、こう語った。

「アイデンティティとは、どういうものなのか。自分の宿命というのはあるのか。それを知るために生きていく、というのがテーマだと思う」「(世界で上映する際に)普遍的にユーモアがある、悲しい、あるいは微妙だと思わせるものがあり、それが何かを探る研究作でもある」  柳楽さんは、「俳優として、次のステップに背中を押してくれる決定的な映画でした」 と話した。  

ニューヨーク・エイジアン・フィルム・フェスティバルで上映された「山女」(福永壮志監督)は、18世紀末の東北の寒村で生まれ育った娘が主人公。狭い村社会で、先代の罪を負って底辺の生活をする一家で唯一の女性だ。さらに父の罪をかばって村にいられず、山奥に入り1人生活を始めるが、そこで「自由」を見出す。  

福永監督は舞台挨拶で、「18世紀末の話だが、村人からの同調圧力や差別など、今の日本にもある社会問題も伝えたかった」と話した。また、「日本がテーマというと侍映画が多いが、侍はごく一部の特権階級で、多くの日本人の祖先は本当に貧しい人たちだったという認識も必要だと思う」と指摘した。

日本映画を見ることで、アメリカ人にとっては、より深く日本の社会を知ることができる時代になった。(津山恵子)

8月4日、記者会見するKENTARO監督(右)と柳楽さん(Photo:Keiko Tsuyama)

津山恵子 プロフィール

ジャーナリスト。ザッカーバーグ・フェイスブックCEOやマララさんに単独インタビューし、アエラなどに執筆。共編著に「現代アメリカ政治とメディア」。長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

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