リリース5ヶ月で新作アニメ配信本数No.1…「DMM TV」急成長の仕掛け人が語る調達の裏側と今後の展開

DMMは2022年末、新たな総合動画配信サービス「DMM TV」および「DMM TV」を始めとするDMMの様々なエンタメサービスをお得に利用できる新たなサブスクリプションサービス「DMMプレミアム」を始動した。大手ストリーミングサービス各社がしのぎを削るいわば”SVOD戦国時代”とも言える今日に真っ向から挑んだことで大きな話題を集め、リリースから2週間で「DMMプレミアム」の累計登録会員数は30万人を記録、2023年8月には100万人を突破している。

知名度向上を目指していく中で、本年5月にはローンチ半年も満たない内に「春アニメ新作見放題数・先行配信数1位」(※)を獲得したことが明らかとなり、業界内から驚きの声が見られた。今回、そんな「DMM TV」のアニメ調達のキーパーソンである、DMM.comの山田 昇氏へのインタビューを実施。

アニメ業界との深い関わりのある山田氏だからこそ叶った「半年で5000作品」というアニメ作品調達の裏側や、現代のアニメ業界の課題、それらを踏まえた「DMMとアニメ」という将来像について語っていただいた。

【DMM TV】月額550円で独占・オリジナル作品も見放題!

※2023年3月31日から4月にかけて、国内にて提供されている定額制動画配信サービスにおける新期配信開始のアニメ作品が対象。国内定額動画配信サービス内で各社より先行して配信された作品を先行数としてカウント。調査期間2023年4月10日〜4月30日。調査委託先:(株)コミュニケーション科学研究所 調査手法:デスクリサーチ

■⼭⽥ 昇(やまだ のぼる) – 合同会社DMM.com
コンテンツクリエイティブ本部 アニメプロデュース1部 部⻑
DMMプレミアム本部 コンテンツ部 コンテンツ調達グループ マネージャー
2021年1⽉DMM.com⼊社。株式会社東急エージェンシーを経て、前職であるテレビ東京グループのアニメ専⾨チャンネル株式会社エー・ティー・エックスに⼊社。150を超えるアニメ作品に携わる。代表作は、『ぴちぴちピッチ』『しゅごキャラ』『ダイヤのAシリーズ』など。各サービスとアニメーション業界を繋ぎ活躍中。

初期戦略は「アニメといえば、DMM TV」

ーーまずはリリース半年ではありますが、DMM TVの沿革について教えて下さい。

山田 昇氏(以下略):「DMM TV」は、「DMMプレミアム」のフラグシップサービスとしてローンチし、アニメを主軸に、バラエティや2.5次元舞台・ミュージカル、ドラマ、映画など幅広いジャンルのコンテンツを提供しています。現在、アニメ約5,400作品、エンタメを含む17万本以上(2023年7月時点)のコンテンツを配信しており、今後もオリジナル作品を含めて作品を拡充していく予定です。

ーーイメージキャラクターに声優の雨宮天さんを起用したりAnimeJapanへ出展したりと、リリース当初より積極的なPRを行っていたことが印象的でした。反響などはいかがでしたか。

アニメに寄り添ったCMを作らせていただいたこともあったので「この出演者は誰だろう」といったツイートもありましたし、声優さんが好きな人たちにも注目いただいておりまして、DMM TVとの親和性の高い施策だったのかなと思います。

AnimeJapanについても、両日ステージイベントを組ませて頂きました。それこそ、雨宮さんが主演として出演しているアニメ『彼女、お借りします』だったり、(DMM TV内で見ることができる)2つのオリジナルの声優番組「自称声優」と「下下紘輝」に出演しているキャスト4人全員に登壇してもらったイベントを行ったことで、大きな反響がありました。当時のツイートや配信での同時視聴もすごく多かったので、そういう意味ではDMM TVとしてのAnimeJapanでの見せ方はうまく行ったのではないかと思っています。

AnimeJapan 2023でのDMM TVブースの様子(編集部撮影)

半年でアニメ5000作超えを調達、その背景に”期待感”

ーー続いてリリース前に遡ってお伺いできればと思います。山田さんがDMM TVに関わり始めたのはいつ頃でしたか。

新たにDMM TVというサービスの事業を始めるとなり、「初期はアニメを中心にやっていこう」という方針が決まった時からですね。なので、2021年の8月、9月頃でした。それから、(自身が)関わっていた各権利元さんだったりとか、出版社さんに対して「DMMとして今度アニメを中心とした動画配信サービスを始めますので、ご協力お願いします」と、各社さんを回らせていただきました。

ーー各社に掛け合ったということですが、調達において長い準備期間を要したのでしょうか。

いえ、準備期間はめちゃくちゃ短かったですし、アニメの調達部門は2,3人体制でした。版権元さん含め、アニメ作品の配信窓口を持っている会社さんはほぼ全部自分がご挨拶にお伺いした感じですね。

ーー短かったのは意外でした。短期間に5,000作品を取り揃え、新作アニメ見放題数・先行配信数No.1を獲得するのはかなりの苦労があったと思います。

5,000作品ということはエピソード数としては6〜10万本と凄い数じゃないですか。それら全部のメタデータの提供はもちろん、本編データの提供やエンコードもしないといけないので、そこのところで言うと、版元さんや配信会社など先方のほうが自分たちより本当に大変だったと思います。その部分も含め、先方には感謝しかないですね。

ーー短期間の中、素早い調達が行えたということは、やはりサービスに対する期待感などもあったのでしょうか。

多分、DMMが「国内最後になるかもしれない大規模なサブスクリプション動画配信サービスを始める」というような期待感が、アニメ業界の中でもすごく大きかったと思っています。

初のオリジナルアニメーション映画公開を控えるも、独占配信は「作品次第」

ーーDMMとアニメの関係として、2016年に設立した自社のアニメーションレーベル「DMM pictures」が挙げられますが、作品調達において貢献はしたのでしょうか。

DMM picturesもまだ始めて6年くらいの事業なので、DMM picturesがあったからDMM TVの作品調達がうまくいった、というふうには思っていないです。自分はアニメ事業を25年以上やってきており、そういう意味ではアニメ業界各社に仲間がいっぱいいるので、その仲間たちが協力してくれたというようなことのほうが大きいのかなと。

なので、DMM picturesが直接寄与したというより、DMM TVに対するアニメーション業界の期待感の方が大きかったのではないかと思います。DMM picturesとしては、今後DMM TVの単独配信アニメ作品の製作などの方に可能性があるのではないでしょうか。

ーー近年のDMMといえば、オリジナルアニメ作品の製作も印象的に思っています。今後、オリジナル作品の拡充は重要事項と捉えていますか。

(DMM TVではなく)DMM picturesのオリジナル作品でいいますと、今年11月にレーベル初のオリジナル長編アニメーション映画『駒田蒸留所へようこそ』の公開を控えており、こちらはP.A.WORKSさんが制作、DMMが製作出資100%で作っている作品です。この前の6月にも「アヌシー国際アニメーション映画祭」のコントレシャン部門に正式出品されまして、監督に登壇してもらいました。来年以降も年数本ペースでやっていければと思っています。

©2023 KOMA復活を願う会/DMM.com

ーーでは、それらのオリジナル作品をDMM TVにて独占配信として展開する…といった展開もあり得る感じですかね。

そこに関しては、自分がDMM picturesの事業部長 兼 DMM TVのアニメに関する調達責任者という2つの立場があるので、その作品をDMM TVで独占することが作品にとっていいのか、それともフラットな感じで他プラットフォームと条件交渉した方がいいのかを逐次考える必要があると思います。つまり、作品次第ですね。
なのでDMM TVに必ず自分のところで作ったものを出します、というようなコミットはもちろんしていませんし、それは出版社さんともいろいろな話をしていく中で、様々な可能性があるかなという風に思っております。

『スキップとローファー』ヒットから見る「国内から海外へ」展開する大切さ

ーーアニメ業界全体では「日本アニメ人気」の急増もあり、海外売上の比重が年々高まりつつあります。その点について、山田さんとしてはどのように捉えていますか。

DMM picturesでは現在、海外の売上が約55%ぐらいの比率を占めている状況です。今が円安情勢であることも加味すると、輸出産業としてのアニメ業界の状況は良いという風に思っています。
ただ円安が円高に振れたりとか、(表現等の)色々な規制だったりといった可能性も勿論あるため、「国内でしっかり人気が出る作品を作り、その結果海外でも売れ、色々な国の人々にも楽しんでもらう」というような作品作りのほうがいいのではないか、昔からのアニメーションビジネスに立ち返る時期なんじゃないかなと思っています。

その点からすると、DMM picturesとしてはもう一度「昔ながらのアニメーションビジネス」という原点に立ち返ろうと考えています。こうした取り組みのひとつとして、『スキップとローファー』(※)という作品のヒットが挙げられるのではないかと思っています。

※『スキップとローファー』…「月刊アフタヌーン」(講談社刊)原作の高松美咲氏が描くいつのまにかハッピーなスクールライフ・コメディ。2023年春クールからは同作を原作とするTVアニメが放送され、日本ではストリーミング配信サービスのDMM TVにて単独先行配信が行われ、中国の動画共有サイト「ビリビリ動画」にて2023年4月クールアニメランキングにおいて1位を獲得するなど海外でも話題沸騰。

ーー『スキップとローファー』は私も拝見しましたが、日本らしさが印象的でした。東京や石川の解像感の高い演出を前面に押し出すことで、国内の期待感も上がって、それが海外に伝わる…という面もありますよね。

©高松美咲・講談社/「スキップとローファー」製作委員会

そうですね。なので、「やっぱり海外で売れるからこれを作りましょう」とか「海外で売れそうだからこれを作りましょう」というよりは、国内でしっかり人気が出るものを作って、海外に輸出していく。それが基本なのかなという風に思っています。

現代のアニメーションビジネスは、海外販売と国内配信の2つが非常に大きく、国内配信という分野においてDMM TVのようなプラットフォームが生まれたことで、プラスのお金も生まれる可能性もありますし、海外依存度が若干減っていくこともあるかもしれません。そういう意味で、やはりDMM TVに対する期待感は業界でも大きいのではないかと思っています。

DMMがアニメ制作会社を新設、その狙いとは

ーー少し余談になるかもしれませんが一点。DMMは3月に新たなアニメ制作会社「CUE」の設立を発表していたことが記憶に新しいですが、設立の狙いについて教えて下さい。

現在、アニメーション制作費がどんどん上がっています。そのほとんどは人件費です。その高騰した制作費をいかに回収するかがビジネスとしての課題です。
しかも現在制作が先々まで決まっている会社も多く、2026年とか2027年の作品の話をしている状況です。

加えて今、原作元やそれこそ原作者から「この作品はどこの制作会社で作ってくれますか」「監督は誰にやってもらえますか」と言われるケースも多々あります。そんな中で、自分たちがクリエイティブに強い制作会社を擁することでこうした課題を解決したいことが一点。

もう一つ、日本のアニメづくりの環境において思っていることがあります。日本は「もの作り」の国です。アニメーション業界もこれからはプロダクト側である制作会社がもっともっと強い時代になっていかなきゃならないと思っています。その中で自分たちもアニメ業界で「強いコンテンツを作れる強い制作会社を一つ立ち上げたい」という思いがありました。

「新作は全部揃えます」”アニメファンに寄り添うサービス”目指す

ーー最後に、DMMの事業全体で推進している「ワンコンテンツマルチユース(※)」について、アニメ分野での取り組みを教えて下さい。

※アニメ作品をはじめとする1つのコンテンツ資源を、電子書籍やグッズなどの関連事業で横断して展開する取り組み

アニメ業界は作品を作ったら絶対に(商品化等の)2次利用がある世界です。DMMとしては自社内でそれらを完結させることで「DMMのプラットフォームに行けばいろんな遊び方ができるよね」というようなアニメファンに寄り添ったサービスになればいいなと考えています。

自分たちでアニメーションを作ってDMM TVで配信するだけでなく、DMM TVで楽しんでくれたその作品の配信ページの中で、この作品の原作はこれだよ、という情報を出すことで、同じアプリ内で関連する電子書籍を読むこともできます。その他にも、オンラインくじの「DMMスクラッチ」や「DMM通販」などで関連グッズが買えたりもします。アニメという一つのコンテンツをDMMのプラットフォームの中で、あらゆる側面から深く楽しんでほしいと思います。

ーーやっぱりファンとしても1つのプラットフォームで完結するのはありがたいですよね。その点からしてもやはりDMM TVを中核とした映像コンテンツの”量”は大切だと思います。

そうですね。DMM TVとしては今後もアニメの新作タイトルは他社独占タイトル以外全部揃えるという基本方針でやっており、DMM TVをご覧になって「新作が無いな」っていうことはほぼない状況を作っていきたいと考えています。
その点からも、ユーザーにも、そしてアニメ業界に対しても期待を裏切らないようなサービスづくりを続けていきたいですね。

ーー舞台裏から今後の展開までお聞かせ頂きありがとうございました。ますますアニメファンに寄り添うサービスになることに期待しています。

【DMM TV】月額550円で独占・オリジナル作品も見放題!

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