がん患者の話し相手に、僧侶が病院で傾聴ボランティア 「語り合える場を」

がん患者の傾聴ボランティアに取り組む僧侶グループ代表の佐野泰典さん(久御山町佐山・京都岡本記念病院)

 僧侶のグループが京都府久御山町佐山の京都岡本記念病院で、がん患者とその家族の話し相手になる傾聴ボランティアを続けている。医療機関で定期的にがん患者のケアに取り組む僧侶は全国でも珍しいという。新型コロナウイルス禍の影響で長く中断していたが、6月に再開した。病気に苦しむ人の思いを受け止め、寄り添う存在となるよう心がけている。

 森や林の木陰を意味する「緑蔭(りょくいん)」と名付けた取り組みで、長岡京市に事務局を置く僧侶のグループ「臨床僧の会・サーラ」が携わる。同会は府内の医療機関や福祉施設などで傾聴を行っている。

 京都岡本記念病院では2016年10月に活動を始めた。宗派を超え、京都市や宇治市、彦根市などの僧侶7人が担っている。

 コロナ禍前までは週1回、緩和治療病床に看板を3時間掲示し、患者や家族が好きな時間に訪ねて相談できるようにしていた。多い日で1日8人ほどの利用があったという。コロナの感染拡大防止のため、20年2月から中止を余儀なくされた。短期の再開を挟んで、現在は月2回、外来患者とその家族に対象を限った上で活動している。

 患者たちは治療の痛みや死への恐怖、家族との関係などに悩む人が多いという。グループ代表で法輪寺(京都市上京区)の佐野泰典住職(61)は「すぐに心の内側を話せる人は少ない」と話す。

 自分の意見や答えを示すことはせず、「本人が心を整理し、話すことができるよう、耳を傾けることに徹している」。無言のまま数分間向き合うこともあり、「言葉にならない沈黙を受け止めることも聞くことと同じ」と語る。

 傾聴の場で抹茶をたてるのが特徴だ。仏教には「喫茶去(きっさこ)」という言葉がある。元来は「お茶を飲んで目を覚まして来い」という叱咤(しった)する意味を含んでいたが、緑蔭では「お茶を飲んで心を静めて」との願いを込めている。

 僧侶たちの活動に、病院側は「医師や看護師には言い出せない話を受け止めてもらえる」と評価する。

 ただ、宗教活動だとして敬遠する患者や家族もいるため、同会はほかの医療機関へ活動を広げられていないという。佐野さんは「信仰に関係なく、誰もが安心して語り合える場をつくっていきたい」としている。

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