パリ五輪初採用の「ブレイキン」、21歳のメダル候補SHIGEKIXが語る重圧 今秋、五輪出場懸かる世界選手権とアジア大会へ

演技する半井重幸=2月25日、西日本総合展示場

 来夏のパリ五輪で初採用されるブレイキン(ブレイクダンス)で、男子の半井重幸(ダンサー名・SHIGEKIX)はメダル候補として注目を集める。ストイックに踊りと向き合う21歳の第一人者が感じている重圧や心構え、五輪の出場権獲得が懸かる秋の世界選手権と杭州アジア大会への意気込みを語った。(共同通信=大島優迪)

 ▽想定通りの1年前

 ブレイキン男子は来年8月10日、パリ中心部の観光名所、コンコルド広場で行われる。DJが流す音楽に乗って即興で高速ステップや華麗な回転技を繰り出し、1対1のバトル形式で争う。3年前の2020年12月上旬、五輪の追加競技となった瞬間から、半井は金メダルを獲得することを想像して「カウントダウンして過ごしてきている」と言う。
 「想定通り、1年前を迎えているっていう感覚。五輪に限らず、目標を掲げる際にはできる限り頭の中でイメージを膨らませる。想像なのか過去の記憶なのか、分からなくなるくらい鮮明に頭の中で思い描けるまでイメージを持っていくことを強く大事にしている」

インタビューに答えるブレイキン男子の半井重幸

 物心がついた時から一人で思い巡らせて絵を描くことや、レゴブロックでオリジナルのキャラクターを考えて物語をつくることが好きで「想像する」習慣が染みついている。それがブレイキンとも結びついている。
 「自分のムーブ(動き)やスタイルを磨くという作業一つもそうだし、イメージをして、自分の目標や思い描いている未来をより身近に感じられるものにしていくというのは今も変わらずですね」。8月には他の国内トップ選手とフランスを訪れ、さらにイメージを高めた。

ブレイキン男子の半井重幸=2月19日、代々木第二体育館

 ▽高まる期待

 国際大会に一緒に出場する姉彩弥(AYANE)の影響で7歳から始めた。2018年のユース五輪で銅メダルを獲得し、20年には主要国際大会「レッドブルBC One」を史上最年少で制覇した。昨年の世界選手権でも2位に入り、周囲の期待は高まる。
 今年2月、全日本選手権で3連覇を達成した後に「プレッシャーは365日、感じている」と率直に明かしていた。「もちろん僕も一人の人間。どれだけフィジカルや技術が重要な場面でも、土台にはメンタルが常に存在する。そこ(重圧)を乗り越えて、メンタルを整えないと実力も発揮できない」
 重圧と向き合うには「今の自分と向き合うことしかない」と言い切る。他人、または過去の自分と比較しないことを心がける。「変えられない過去と向き合っても、そこからは何も生まれない。自分の経験が知識として生きることはあるけど、重要なのは今の自分かなと思う」
 バトルで相手と対峙する時の心構えと通じるところがある。「自分との戦いに勝たずして、人との戦いは迎えられない。まず自分との戦いと向き合った上で、バトル当日に自信を持って相手と対峙できる。自分と向き合って成長して、いろいろなことを学んで(試合)当日を迎えられるかが大きな部分だと常に感じている」

全日本ブレイキン選手権・男子で優勝し、笑顔を見せる半井重幸=代々木第二体育館

 ▽365日、練習

 素早い回転技などから音楽に合わせてピタリと動きを止める「フリーズ」を得意とする。幼少期から練習を重ねたストリートでは日によって集まるダンサーが違い、流れる音楽も変わる。知らない音楽に合わせて踊るのが楽しく、自然と自身のスタイルとして確立されていった。
 練習は「基本週7日、365日」と言う。1日2~3時間、ほぼ休憩無く、踊り続ける。多い時は週3日、サーキットトレーニングも取り入れ、肉体を鍛え上げる。短い休みを入れながら全力運動を何度も繰り返す過酷なメニューだ。
 「ブレイキンとは違うしんどさを感じることができる。ブレイキンで追い込む時に『あのトレーニングができているし、大丈夫』という自信につながる。動きは全然違うけど、呼吸の上がり方とか、ブレイキンで感じられないレベルの負荷を体にかけることができるので、それを経験することで、余裕が生まれる」
 睡眠や室温、低脂質な食事に細かくこだわる姿は他競技の一流アスリートと変わらない。体重は「ベースとして一番過ごしやすい」という56~57キロ台をキープする。遠征先にも体重計を持ち込み、1日に数回は確認する。リフレッシュは絵を描くことやジョギングで「自分が心地よくて、過ごしやすいなと思える環境を常に意識するようにしている」と言う。

2月19日、全日本ブレイキン選手権の男子で3連覇を果たした半井重幸の演技=代々木第二体育館

 ▽勝負の秋

 この秋、パリ五輪の出場権が懸かる2大会に挑む。9月の世界選手権(ベルギー)で優勝すれば出場権を得られる。そこで逃した場合でも9月開幕の杭州アジア大会(中国)で金メダルに輝けば、五輪代表に決まる。来年開催の五輪予選シリーズを待たずにパリ行きの切符をつかめる大きなチャンスだ。
 「全員がトップを目指して参戦するので、楽な戦いは一つもないと心づもりしている。だからこそすごく燃えている。トップのメンバーが固まりつつあり、五輪でも戦うことになるというイメージができてきた。よりパリをイメージしやすくなる経験になる。いい踊りができ、今の実力を確かめる経験ができれば、それが大きな糧になって次につながる。そういう意味ではわくわくする」

インタビューに答える半井重幸

 刻一刻と迫るパリ五輪まで、どのように過ごすのか。
 「今、過ごしている1週間、1日、1時間がめちゃくちゃ価値があるし、1秒も無駄にしたくない。目標に向かって全力で進むからこその向かい風もある。何も考えずに過ごしている時より、うれしいことも悔しいことも、悩まされることも増えている。けど、ここ数年、代えがきかない、すごく貴重な時間を過ごせている。これから1年、人生の中でも、より記憶に残る時間になると思うので、楽しみです」

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