家庭に迎えられた後の半年間の保護犬の行動、アメリカでの調査結果

譲渡された保護犬の家庭での行動を調査する意味

レスキューグループや動物保護施設で保護されている犬たちがどのような行動を見せるのかをよく知ることは、施設での犬の福祉の改善や譲渡率の向上のためにとても重要です。

保護犬についての過去の研究では、保護施設での行動については多くの調査研究が行われています。しかし、家庭に引き取られた後の犬の行動を調査した研究はあまり多くありません。

多くの動物保護施設は施設入所時や滞在中の犬の行動評価を行なっていますが、この評価が譲渡された後の犬の行動を予測できるかどうかについても明確な結果が出ていません。

施設での犬の行動評価が正しいのか、譲渡後の犬たちがどのような行動を見せるのかを知ることは、犬が再び施設に返還されることを予防する対策のために必要です。

これらについて、アメリカのオハイオ州立大学獣医学部の研究チームが調査を実施し、その結果が発表されました。

保護施設から犬を迎えた人に引き取り後のアンケート

この調査は、オハイオ州の5つのアニマルシェルターの協力を得て行われました。これらのシェルターのうち1件は公営、4件は非営利団体によって運営されています。

調査への参加者は、犬を譲渡する際にシェルターのスタッフが声をかけて募集されました。調査の内容は犬の譲渡から7日後、30日後、90日後、180日後にeメールでアンケートが送信され、それぞれ7日以内に回答するというものです。

調査を完了した場合には、インセンティブとしてAmazonギフト券を受け取れるという条件も提示されていました。

アンケートは、C-BARQという犬の行動を評価するための標準化された質問票が用いられました。

4回のアンケートのそれぞれの時点での、興奮性、攻撃性(対見知らぬ人、対飼い主、対見知らぬ犬、対身近な犬)、見知らぬ人への恐怖、非社会的恐怖(物体や音など)、他の犬への恐怖、触覚過敏(爪切りやトリミングを嫌がる)、分離不安、愛着や注目への執着、トレーニングの難しさ、追いかけ行動(野生の小動物など)、エネルギーレベルなどを評価するためのものです。

C-BARQとは別に、犬の行動に対する全体的な満足度、譲渡後に家庭で起きた変化(新しいペット、引っ越しなど)、回答の時点で迎えた犬をまだ飼っているかどうか、飼っていない場合はその理由が質問されました。

ほとんどの飼い主は愛犬に対して満足していた

7日目のアンケート回答者は99人、30日目は83人、90日目は75人、180日目は83人で、4回のアンケート全てに回答した人は62人(62.6%)でした。

犬が新しい家庭に迎えられた後の180日間の行動は、譲渡後7日目のアンケートをベースラインとして以下のような変化が見られました。

  • 見知らぬ人への攻撃性は全ての時点で増加していた
  • 興奮性と触覚過敏は90日後と180日後に増加していた
  • 追いかけ行動は全ての時点で増加していた
  • 分離不安は180日後に減少していた
  • 愛着や注目への執着は180日後に減少していた
  • トレーニングの難しさは全ての時点で増加していた
  • 飼い主と犬への攻撃性、全般的な恐怖、エネルギーレベルは180日間で大きな変化なし

調査期間中に犬を保護施設に返還した人は7人でした。

この調査での「攻撃性」とは、噛みつくといった直接的な行動に限定されているのではなく、もう少し広い意味ではありますが、攻撃性は犬が手放される理由で常に上位に来るものですから、これは大きな懸念材料となります。

保護施設で暮らしていた犬は最初に施設での暮らしにストレスを感じ、環境に慣れてシェルターのスタッフに愛着を持ち始めたところで新しい家庭に迎えられ、また適応期間を持たなくてはなりません。新しい環境がより良いものであるとして、環境への適応はストレスを伴います。

ストレスの多い適応期間には、犬の行動には大きな変化が見られます。この調査結果は、保護施設のスタッフは、犬を引き取ろうとする人にこれらを伝えることがとても重要であることを示しています。

見知らぬ人への攻撃行動は、犬が新しい環境を自分のなわばりだと認識したからだとも考えられます。分離不安の減少、愛着や注意を求める行動の減少は、新しい飼い主はどこにも行かないと理解したからだと考えられます。

譲渡からの半年間は犬の適応期間だとあらかじめ知っていれば、飼い主の不安も軽減される可能性があります。

しかし、いくつかのネガティブな行動にも関わらず、180日後の回答では全ての飼い主が「愛犬は新しい家にとてもよく適応した」、または「中程度に適応した」と答えていました。また75%の飼い主は、「愛犬の行動は時間と共に改善された」と答えました。

まとめ

アメリカの動物保護施設から譲渡された犬の飼い主へのアンケートから、譲渡後半年の間に「見知らぬ人への攻撃性」が増加「分離不安」「愛着や注意への執着」は減少という結果が見られたが、ほとんどの飼い主は愛犬に対して満足していたという結果をご紹介しました。

このような調査結果は、保護施設での犬の行動評価の方法に新しい視点をもたらす可能性があり、それらを新しい飼い主と共有することで、犬の適応期間のストレス軽減や返還率の低下につなげられる可能性があります。

《参考URL》
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0289356

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