フジロック“無数のスマホ”にモヤモヤ…ステージ「撮影」行為は“違法”じゃない?

2023年7月28日~30日に開催されたフジロック(撮影:VALUE WORKS)

新型コロナの行動制限などもなくなり、以前のような日常が戻った2023年の夏。音楽好きの方にとって、最高の夏だったのではないだろうか。FUJI ROCK FESTIVALやSUMMER SONICなどの大型フェスが開催され、海外の大物アーティストも大勢来日し、コロナ禍前のような“にぎわい”が戻ってきた。

しかし、待ち焦がれたフェス参戦で”大きな違和感”を覚えた人も多いのではないだろうか。それは、アーティストが有名曲やレア曲を演奏し始めると同時に、ステージに向かって掲げられるスマホの数の多さ。その光景に興ざめしてしまうのは筆者だけではないはず。

そして、X(旧Twitter)やInstagram、YouTubeを見れば、撮影された動画が数多く投稿・拡散されているではないか。YouTubeではヘッドライナーのアーティストのライブがフル尺で公開されている。フェスに参加できなかったファンにはうれしいことかもしれないが、非公式な映像であることは間違いない…。

ちなみにFUJI ROCK FESTIVALの公式HPの規約では、「会場内にカメラ・ビデオカメラ等の持ち込みは可能ですが、出演アーティストの撮影は禁止です。又、録音機器の場内への持ち込みは一切禁止です。セルフィースティックのご使用は他のお客様の迷惑になりますので、ステージ前方・及び混雑時・移動しながらのご使用はおやめ下さい」と書かれている。NG・禁止行為であることは明らかだ。

フェスやライブの撮影行為とSNS拡散は、罪に問われないのだろうか。ベリーベスト法律事務所 船橋オフィスの藤澤周平弁護士に聞いた。

アーティストの演奏を録画しても「個人で楽しむだけ」なら罪にならない

「アーティストの演奏をスマホで撮影する行為は、楽曲がスマホの中に複製されることになるので、著作物の“複製”に当たります。そして、著作物の“私的利用のための”複製は、一部の例外を除き違法とはなりません(著作権法30条)。つまり、個人的に楽しむだけなら、撮影しても犯罪にはなりません(著作権法119条)」(藤澤弁護士)

SNS投稿などで「不特定多数が閲覧可能になった場合」は、違法になる可能性も

個人で楽しむだけの“私的利用”だけであれば犯罪にはならないが、私的利用の範囲を超えた場合は犯罪となる可能性もあると、藤澤弁護士は語る。

「家族、ごく親しい友人間のようなグループ内で視聴するだけの場合は、私的利用となるでしょう。しかし、SNSへの投稿は、公衆送信権の侵害となりますし、拡散できる点で私的利用でもないので、それ自体違法になる可能性が高いでしょう」(藤澤弁護士)

アーティスト演奏の動画を拡散したら「1000万円」の損害賠償請求も!?

では、これまでに動画を撮影・拡散したことで、罰則を受けた事例はあるのだろうか? 藤澤弁護士に聞いてみた。

「撮影禁止のライブをSNSに拡散して、たたかれたインフルエンサーのニュースは聞いたことがありますが、それで逮捕された等のニュースは聞いたことがありません。しかしながら、総合格闘技の試合を撮影・編集して無断でアップロードした人が、1000万円の損害賠償請求が認められた例はあります」(藤澤弁護士)

主催者が撮影禁止としている場合は「スタッフからの注意を無視」したら犯罪になり得る

「FUJI ROCK FESTIVALのように、フェスの主催者やアーティストが、利用規約等で撮影禁止としている場合があります。その場合、すでに説明した通り、撮影自体が犯罪となることはありませんが、撮影をすればスタッフから注意されるでしょうし、注意を受けてもやめなければ“不退去罪”という犯罪にもなり得ます。(刑法130条後段)」(藤澤弁護士)

SNSやYouTubeで投稿された違法動画を「閲覧」しただけでも犯罪に?

明らかに非公式で違法にアップロードされた動画を見た際に、何らかの罰則を受けるかどうかも聞いてみた。

「結論としては、罰則を受ける可能性はほとんどありません。まず、ネット上の動画をストリーミング再生する場合、一時的に端末のハードディスクにキャッシュが保存されます。そうしないとスムーズに視聴することができないからです。

一見すると、このキャッシュデータの保存は、著作物の複製に当たり、著作権違反になるようにも思えます。しかし、キャッシュデータの保存は一時的であり、スムーズに視聴するためだけの行為ですので、『著作物の電子計算機における利用を円滑又は効率的に行うために当該電子計算機における利用に付随する利用に供することを目的とする場合』(著作権法47条の4第1項柱書)として、基本的には違法となりません。

ただし、このキャッシュデータを別のフォルダに移して保存することは当然違法です。著作権関係の法律は毎年のように厳罰化しているため、気が付かないうちに犯罪となっている場合もありますので、視聴が良くないことだと感じているようでしたら視聴しないことをおすすめします」(藤澤弁護士)

【まとめ】撮影禁止のライブでは、スマホを出さない・撮影しない・拡散しない

今回のまとめになるが、アーティストのライブを撮影して個人で楽しむだけであれば、罪にならない。しかし、撮影したものを拡散したら違法になる可能性があるので控えるべきである。そして、撮影禁止のライブでは絶対に撮影を行わない、ということである。

大好きなアーティストが目の前にいてテンションが上がる気持ちは分かるが、撮影データとしてスマホの中に記録するのではなく、アーティストの生の演奏・声・臨場感など、今しか体験できない瞬間を楽しみ、自身の記憶や心の中に残しておいてもらいたいものである。

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