「家族に仕送りが…」警察官へ暴行 “殺人未遂”でベトナム人逮捕… “犯罪”へと至ったやるせない背景

警察官は全治10日のけがを負った(’90 Bantam / PIXTA)

8月3日、午後6時45分ごろ。大阪市平野区加美北の路上をバイクで警護中だった警察官が視線をそらすなどの行動をとった2名の不審者を発見し、職務質問を行おうとしたところ2名は分かれて逃走した。そして、警察官が逃走した1名をバイクで追送し逃走者を追い込むと、取っ組み合いとなり、右前腕をかみつかれたり、ドライバーのようなもので頭頂部を突き刺すなどの暴行を加えられ、右頭頂部2センチメートルの挫創など全治10日のけがを負った。

警察官への暴行後、容疑者はさらなる逃走を続けていたが、8月28日、北九州市の知人宅にいるところを発見され殺人未遂容疑で逮捕された―。

逃走経路に複数のベトナム人が関与も?

社会部記者が容疑者の素性について説明する。

「逮捕されたのは住居職業不詳のグエン・スアン・バン(24)容疑者です。バンは技能実習生として令和4年4月に来日し、1か月の大阪研修の後、九州で建設作業員として働いていましたが、同年10月に職場の寮から逃亡。行方不明手配がかけられていました。バンは今年4月に在留期限が切れており、今回の殺人未遂事件を起こした時には不法残留状態でした」

警察が周囲の防犯カメラなどのリレー捜査を行うと、逃走後にバンは事件現場から600メートル離れたベトナム人が住む集合住宅に逃げ込んだことが判明。出入りを捜査したところ複数の人物の出入りを確認する。そして、翌4日午後、集合住宅に女性が運転する車が現れ2人の男が車に乗り込んだ。

「迎えに来たのはバンの元交際相手のヴー・ティ・ラン(22)容疑者で車に乗り込んだ男2人のうちの1人がバンでした。その後もバンは車を乗り換えながら大阪市内の複数箇所を経由したあと、5日午前3時頃にランとともに北九州に向けて車で出発。バンは事件現場に携帯電話を落としていましたが、警察が携帯電話を解析すると北九州に住む知人ベトナム人の存在が判明。捜査員を北九州に派遣し、知人ベトナム人が居住していた会社の寮を監視中にバンの出入りを確認し、捜索差し押さえ許可状を得て現場に踏み込み逮捕に至りました」(同前)

8月29日に犯人を隠匿したとして逮捕されたランは、事件後にバンから「北九州で仕事がしたい」との連絡を受け、事件のことは知らずに友人男性に車を出してもらい大阪までバンを迎えに行ったという……。

「ランが事件のことを知ったのは後日ですが事件認知後にバンを自宅に泊めたことから犯人隠匿容疑での逮捕となりました。逃走に使用された車はランの知人男性名義でしたが、知人男性はバンが事件の “容疑者としての認識はなかった”と供述しています」(同前)

警察は今後、ランの知人男性についての捜査も進めていくというが、今回の事件では逃走から隠所に至るまで複数のベトナム人が介在していることが分かる。

「借金」を返済するため犯罪に手を染めるケースも…

出入国在留管理庁の令和4年度の在留外国人数の統計資料によると、長中期、特別永住者を合わせた在留外国人数は約296万人となっており、うちベトナム人は約49万人と約76万人の中国人に次いで2位となっている。それらの事情から近年では在日ベトナム人による犯罪も増加傾向にあり、昨年の来日外国人全体の検挙9548人中ベトナム人は最多の3432人と2006人の中国人の検挙人数を上回っている(警察庁統計)。

こうした背景には「技能実習生などとして入国する際にブローカーに数10万円から100万円を支払い、借金を背負った上で入国しているものも多いことから犯罪に手を染めるケースが見られる」と捜査関係者は分析する。

「借金を抱えたまま入国し、借金を返済するために職場から逃亡して在留許可証(在留資格認定証明書)が切れた状態で犯罪に手を染めるケースは多い。特にベトナム人はコミュニティーや情報の連携がしっかりしていて、入管や警察車両のナンバーの情報も共有しているケースもある。今後もベトナム人による犯罪は増加していく可能性は高いと思われます」

逮捕後にバンは「警察官を殺そうとしてはいない」と容疑を一部否認し、「私が捕まると家族に仕送りができなくなると思い、必死に逃げようとしました」と供述しているという…。

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