わずかでも足を止めて立候補者を見てほしい 首長選挑戦者に聞いた「落選した今だからこそ伝えられること、伝えたいこと」

下がる投票率、広がる無投票……日本の選挙が危機的状況にある一因には、投票や立候補が市民にとって遠い存在である点があるのではないかーーそこで、選挙ドットコム編集部は今回、2023年統一地方選挙で執行された東京都・北区長選に立候補したこまざき美紀(こまざき・みき)氏と、板橋区長選に立候補した南雲由子(なぐも・ゆうこ)氏にお話を伺いました。お二人とも地元の区議会議員の経験から区長選への挑戦を決断されましたが、涙をのみました。選挙から4カ月が経ちましたが、お2人に今だからこそ世の中に伝えられる・伝えたい選挙にかけた想いを伺いました。(インタビュー日:6月15日)

逆境と分かっていても後悔はしたくなかった

選挙ドットコム編集部(以下、編集部):

南雲さん、こまざきさんともに区議会議員を務められた後に、その自治体の区長選挙に臨まれました。首長を目指そうと考えるようになった経緯をお聞かせください。

南雲由子氏(以下、南雲氏):

大きかったのは新型コロナウィルス感染症の流行です。区議会議員として子育てや仕事に関する悩みをたくさん伺う中で、価値観や相談の内容が変わったと実感しました。

次の10年、20年先を生きる子どもたちのことを考えると現状維持のままでいいのか、新しい流れを起こすための世代交代が必要ではないかと考えるようになりました。

こまざき美紀氏(以下、こまざき氏):

私は、15年間の行政経験を元に、区議会議員として任期中4年間で850件以上の区民相談に対応してきました。その度に「こんなに吸い上げられない声があるのか」と気付かされ、今の区政は変わらなくてはならないと考えていました。

当時の区政は大きな声を聞いて政策を実現してきた。大切なことですが、それでは拾えない声も多かったのです。また、首長の選挙は政党の推薦した候補が争う政党選挙になりがちです。首長という立場上、政党の所属関係なく、あらゆる区民のお声を分け隔てなく聴くために政党の公認や推薦はお受けしない、いわゆる「完全無所属」で、自分が立候補する意義は大きかったと考えています。

南雲氏:

何より、区民から「何とかしてほしい」と言われたのは大きな後押しになりました。

区議選に立候補した時は自分の想いが先行していましたが、首長選は私にとって人生最大の挑戦で、出馬表明までに家族や友人など100人くらいに相談して決断しました。

自分自身が今の政治のままじゃ駄目だ、とモヤモヤした気持ちを抱えている時に、周囲とも問題意識が一致して、「コップの水があふれた」という感覚でした。

こまざき氏:

私も周りから推してもらえたことはとても大きかったです。

また一方で、政策勉強会等で切磋琢磨してきた森澤恭子さん(元東京都議で、2022年12月の品川区長選に初当選)や白井亨さん(元小金井市議で、2022年11月の小金井市長選挙に初当選)が議員から首長選に立候補して当選されたことも、気持ちの面では後押しになりました。

編集部:

首長選挙における現職の再選率は全国で90%を超えています。こう言っては大変失礼ですが、首長選は大変厳しい戦いになる可能性が濃厚で、区議選の方が勝ちやすい選挙だったのではないでしょうか。それでも、お二人を区長選に駆り立てたものはなんだったのでしょうか。

南雲氏:

以前から区長を狙っていたとか、初の女性区長になりたかったということでもありません。

自分自身が今の政治のままじゃ駄目だってモヤモヤした気持ちを抱えている時に、周囲とも問題意識が一致して、「コップの水があふれた」という感覚です。

こまざき氏:

私もいろんな人に相談しましたが、最後の決め手となったのは自分が後悔しない選択をしようという一念です。

落選するリスクを考えたとしても、ここで諦めれば自分は後悔することが容易に想像できた。そうであれば、挑戦してみようと。

2人の子どもの母としても、後悔しない、挑戦する姿を見せようと思いました。

落選後の忘れえぬ風景

こまざき氏のTwitterより

編集部:

強い想いがあり、周りからの後押しがある中で立候補されたことが伝わりました。

少しお伺いしにくいことですが、落選した時のお話を聞かせていただけますか。

こまざき氏:

投票日には、子どもたちが自宅で深夜時間帯までテレビに張り付いて結果を見守ってくれていました。その姿を思い出すと、今でも胸が締め付けられます。当確が出た後に、事務所に着いてからはすぐに取材対応でした。まぶしいスポットライトに照らされながらも毅然として対応するよう努めました。

落選した方々それぞれ想いや考え方が異なると思いますが、私の場合は申し訳ない気持ちが強くて……手作りの選挙戦で300名以上のボランティアの方が関わり、たくさんご支援いただいたのに、惜しくも結果を出せなかった。選挙から数カ月経った今でも残念な気持ちは拭いきれません。 

南雲氏:

よく「私の力不足で……」という定型文がありますが、一言で表せるようなシンプルな気持ちではありませんでした。当選に届かず落胆した一方で、区長選に挑戦したことに後悔はしていませんでしたし、陣営一丸となって戦い抜けたという実感がありました。

自分の気持ちにすぐに名前をつけないようにして、ただ、最終的な得票数を見届けてから支持してくださった皆様への気持ちを伝えたいと考えました。

応援してくれたチームの仲間と開票を見守りながら、事務所から開票開始時、当確が出た直後、最終の得票数の結果が出てからの3回、インスタライブを実施しました。

南雲氏が投票日当日に行ったインスタライブ

地元の政治家3人フォロー、まずは政治に触れてみてほしい

編集部:

南雲さんとこまざきさんは区議会議員選挙での当選、そして首長選での落選と、当落両方のご経験があります。その視点から、選挙制度についてもお話ししたいです。

まず、子育て中の選挙活動で心がけてきたことや感じたことを教えてください。

南雲氏:

私が区議選の時に心がけ、また私の思いを引き継いで区議に立候補したママ区議候補にも伝えてきたのは「ママとして無理をする選挙活動はしない」ことです。

子どもと一緒に過ごす朝や夜ではなく、夕方に買い物に行くスーパーの前でチラシを配ったり、SNSでの発信を丁寧にやったり、できることをやる。

選挙といえばこうあるべきというセオリーをある意味で壊していくことが、いろんな人が参加できるようになるために必要だと思います。

今回の区長選挙でも、選挙に関わるのが初めての、子育て中や現役世代の友人たちが100人以上チームに関わってくれて、手応えを感じました。

こまざき氏:

今回の区長選は選挙のスケールが大きくて、出陣式に子どもたちがお友達を連れてきたり、ファミリー層がたくさん来てくれたりしました。また、「今日はここでしゃべってる(街頭演説)よ」みたいに、子どもたちの日常会話に選挙の話題が出てきていました。

幅広い世代が街頭演説を聞きにきて、政治に関わっていくのは新しい風景だと感じました。公選法では18歳未満の選挙運動を禁止していますが、世代にかかわらず政治が身近にあることは、本来あるべき姿なんじゃないかなとも考えました。

編集部:

他の選挙に立候補された新人候補の方々にお話を聞くと「知名度が上がりきらなかった(のが敗因)」とよく聞きます。実質的に投票を呼び掛けられる「選挙期間」が短すぎると感じることはありますか。

こまざき氏:

私はそうは考えていないです。というのも、(区議・区長選の場合は)1週間の選挙期間でも、最終日あたりはフラフラで手すりにつかまりながらマイクを握るほど、体力の消耗が激しいです。

選挙期間が長くなれば、生活スタイルを崩さなくてはならない、体力が強い人が勝つ「マッチョな選挙戦」の傾向が強まってしまう恐れもあります。ママでも、障害のある方でも政治家を目指せる環境づくりも必要ですよね。

南雲氏:

今の日本の選挙は、選挙カーや街頭演説など有権者にとってはうるさい、早く選挙が終わってほしい、と思われていると感じています。

一方、海外の選挙の場合は、もっと期間が長い反面、選挙カーはありません。

名前を連呼して、選挙カーを回して、朝から晩まで活動しなければ勝てない、という選挙のスタイルのままで、期間を伸ばすっていうのはしなくていいと思います。

編集部:

今だからこそ、有権者に伝えたいことはありますか。

こまざき氏:

街頭演説やチラシを配っている人がいたら、ちょっとだけでも足を止めて見てほしいです。また、投票した人には、その後の政治活動もウォッチしてほしい。

今回の区長選挙で心残りがあると言えば、投票率が上がっていない点です。まだ、政治は自分たちと遠いことだと考えている人が多いのかなと感じます。

でも、立候補している人は、人生を懸けて、地域や暮らしを良くするために働きたいと考えている人がほとんどです。そして、政治や政策は皆さんの生活に直結していることなので、政治家は決して「遠い人」ではありません。 

南雲氏:

私がよくおススメしているのは、自分の住んでいる自治体議員や立候補予定者のSNSを、まず3人分フォローすることです。普段から発信している情報に触れることで、選挙の見え方が変わるんじゃないかなと思います。フォローするだけなら後援会に勧誘されたりはしないし、3人フォローなら今すぐできますし!

あとは、いきなり、「みんな立候補しよう!」というにはハードルが高いと思いますので、まずは、いろんな人が選挙に出ることを妄想してもらえたらうれしいです。立候補することへの共感が広がったらいいなと思います。

編集部:

最後に、今の想い、そして今後の活動予定などがあれば教えてください。

南雲氏:

心境の変化としては、選挙直後はスッキリ後悔がない、という気持ちでしたが、選挙後も毎日、子どもの送り迎えをする道や近くのコンビニなどでも、「応援しています」「次も必ず頑張ってください」とお声かけを頂きました。

選挙後1ヶ月くらい経った頃に、いろんな方からの応援や期待がかえって苦しく感じる時期もありました。

3ヶ月経った今は、自分の気持ちは落ち着いていますが、区議時代と変わらず、週に2、3件のご相談を頂いています。

一方で、「コップの水が溢れて立候補した」と言いましたが、4月の選挙は自分にとって人生最大の挑戦で、想いを使い切って、今はコップの水が空っぽ、という感覚です。

また政治の世界に立候補したいと思った時には、自分にブレーキをかけずに挑戦しようという気持ちは持っていますが、今はゆっくり民間での仕事や子育てなど自分の人生を歩いて行きたいと思います。

南雲氏のInstagramより

こまざき氏:

私はこれからも、地域のため、そこに住む皆さんのための活動を続けたいと思っています。

今回、自分に不足している点について熟慮の末、高齢者の皆さんに対する理解を深めるため、更なる一歩を踏み出しました。

現在、介護の資格取得に向けスクーリングを受けており、また高齢者福祉施設で非常勤ですが勤務し、現場に身を置きながら学んでいます。

こまざき氏のTwitterより

もう議員ではなくなってしまいましたが、未だに日々、激励のお言葉や区民相談もいただいており、ありがたいなと思っています。

行政・議員経験をもとに、時には現役区議と連携して対応に当たっていますが、これまでとは立場が異なるので、もどかしいことも多くて……。

私は、やはり人の役に立ちたい。

早く仕事がしたいですね。

編集部:

本日は貴重なお話をありがとうございました。

【編集後記】

選挙界隈には、「選挙落ちればタダの人」という言葉が広まり、選挙後に私たちに届く声や姿は「当選した側」の人たちのものがほとんどです。しかし、選挙では必ず当選者と落選者が出ます。たとえ政治家ではなくなっても人生は続きます。立候補者全員が当選するのは「無投票当選」くらいですが、こちらは選挙自体が行われない、有権者に選択肢すら示されない状態です。落選者の存在は民主主義が健全に機能している証左ともいえます。これまで語られざる落選後の話を知ってもらうことで、読者の皆さんが選挙についてリアルに考え、政治家をみかけたら「ちょっとでも見て・聞いて」みていただければ幸いです。

最後に、今回インタビューを受けていただいたこまざきさんと南雲さんは、議員のような「公人」ではなく、「私人」です。インタビュー取材を受けない選択肢もあった中、選挙を通じて感じた想いや考えた意見をこうして読者に届けていただいたことに深く敬意を表します。(聞き手:選挙ドットコム編集部 伊藤由佳莉)

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