歴史ある銭湯の中に喫茶店?若き店長が手掛ける「喫茶深海」(十条)でいただく、深海のクリームソーダ

東京都北区、駅でいうと十条、または東十条。新宿などの都心部からは約15分程度で行ける町。下町風情があり、物価は驚くほど安い街で、そこで出会えるお惣菜屋さんは名店ばかり。商店街は人でいつも大賑わい。商店街を少し外れると、今回の取材地である十條湯が見えてきます。

十条で古き良き銭湯として多くの人の憩いの場として、創業70年以上の銭湯である「十條湯」は、銭湯内に喫茶店が併設されている珍しい設計。2021年には内装も一新し、リニューアルオープンしました。

入った瞬間広がる「喫茶深海」の世界

中にはいると、懐かしの靴箱が。そして右側に入口には、コインランドリールームがあります。十條湯は、15時から23時までと営業時間も長めなのも嬉しいところ(金曜日が定休日)。

中へ入ると、番頭がいる定番の受付。所狭しと並べられたシャンプーや髭剃りがより一層レトロ感を演出します。そしてこの番台の横に広がるのは、「喫茶深海」の喫茶室。

リニューアル前と比べて、大きく変わった喫茶室は「深海」をイメージ。目を引く紺色の模様が映える壁紙、そしてドレープの曲線が美しいカーテン、そしてレトロな椅子たちが、ノスタルジックな世界感を生み出しています。この空間をプロデュースし、作り上げたのが店長の広瀬礼奈さん。

広瀬さんが作り上げる究極のレトロ空間とクリームソーダ

店内のところどころに散りばめられた雑貨は、広瀬さんのこだわりが。お店の一部は経年で劣化した部分をあえて活かすことで、古き良きニュアンスを残した「喫茶深海」へと生まれ変わりました。店名は女湯のタイル壁画「深海」を由来としたものなんだとか。

メニュー表もすべて広瀬さんの手作り。喫茶店の手書きのメニューが好きだった広瀬さん。それに憧れて“絶対手書きでやろう”と思ったんだとか。そしてメニュー表でも目立つ、クリームソーダはこのお店の看板商品です。

このお店の元からあったメニューとして「元祖クリームソーダ」があるほか、看板商品として人気なのが広瀬さんが考案した『十條湯クリームソーダ(ブルー)』(750円)。

金魚鉢を思わせる、グラスの中は不透明な色合い。ケミカルなブルーとは異なる、淡い色合いは深海をイメージしているんだとか。クリームソーダが大好きで、色々なお店をまわって研究したという広瀬さん。すっきりしている甘さ、そして相性のいいバニラアイス、組み合わせもレシピも何通りも試して誕生したんだとか。

同じく広瀬さんが深海をイメージして作り上げたのが、この「深海ゼリー」中には数種類のフルーツなどが入っていて、まるで熱帯魚がゼリーの中を泳いでいるよう。ぷるんとした口あたり。メニューを考案した広瀬さんは、飲食経験がなかったそう。

このゼリーは、店名の「喫茶深海」にちなみ、海の底にあるキラッとしたような”深海鉱石の輝き”をイメージして作ったそう。肝心なゼリーのフォルムや味は、老若男女問わず来店いただきたいという願いから、”大人にとってはどこか懐かしい・逆に若者にとっては新しい”ものになるよう意識したそうです。

そのほか、お菓子のアイデアは90年代のデザートの本など、そういった懐かしいものからインスピレーションも得ているんだとか。

続いてご紹介するプリンは「女将のプリン」。“女将の”とつくメニューはすべてこの十條湯を経営する店主の奥様、女将の昔ながらのレシピで作られているんだとか。もともとお菓子作りが大好きだったという女将、懐かしい固めのプリンの上にはホイップが。

コロナ禍により十條湯存続の危機とクラウドファンディング

先述の通り、2021年にリニューアルしたこちら。そのきっかけは、クラウドファンディングにありました。

広瀬さん「主にコロナ禍により経営危機に晒された十條湯。深海の前身となる喫茶室は平成元年より今の場所にあるものの、スタッフの高齢化により喫茶業務にまで手が回らずほとんど機能していない状態になっていました。しかし、”銭湯に併設した喫茶店”という珍しさや銭湯と喫茶店との”親和性”に着目し、十條湯の集客を確実にアップするには、喫茶店に力を注ぐことが要となると思い、”十條湯の存続危機を救う為の併設喫茶の全面リニューアル”を目的としたクラウドファンディング『「十條湯の存続を守るために!!」併設喫茶を活かす”再生”プロジェクト』を実施しました。

私自身、元から”銭湯の中で喫茶店をやりたい”という明確な夢があり、紹介され訪れたのが十條湯でした。(喫茶室としてほとんど機能していない時期) “これは勿体ない、この場所で喫茶店ができたら”という淡い夢を抱いたわずか数カ月後に、銭湯継業活動をする十條湯の現店長・湊研雄氏にスカウトされ、十條湯再建プロジェクトのメンバーとして合流することになったんです。

銭湯も喫茶店も、今でこそ”レトロブーム”というくくりに入っていますが、私の場合は”人々が集まる温かい場所”として長年機能しているところに惹かれ、大好きになりました。ずっと昔から町に・人々の生活に溶け込み、なくてはならないものとして在り続けている、守らなければならない尊い存在であると認識しています。」

広瀬さん「クリームソーダの絵は、親交のあった憧れの画家 小磯竜也氏にお願いしクラウドファンディングの返礼品用としてデザインしていただいたもので、その原画を飾っています。”深海”の象徴となるようなデザインでオーダーしました。看板メニューであるクリームソーダのグラスの底に深海の世界が広がっているところがポイントです。」

十條湯を通じて伝えたい想い

銭湯の中は、昔のままの姿がしっかりと残されています。銭湯としては珍しいオリジナルTシャツやグッズ、そしてカフェ好きインスタグラマーの心をくすぐる、先述のスイーツの数々。

それも全部、広瀬さんの十條湯を通して、銭湯と喫茶店両方の魅力を伝えたいという想いが込められています。

広瀬さん「十條湯を通して、銭湯と喫茶店両方の魅力をより多くの方に届けられたらいいなというのが当初からの1番の願いです。2つが併設していることで、銭湯目的で来た方が喫茶店にも興味を持ってくれたり、その逆もあったり。銭湯と喫茶を連動させた企画などを実施することにより、どちらも利用する方の割合がかなり増えてきたことが嬉しいです。」

About Shop
喫茶深海
東京都北区十条仲原1丁目14−2
営業時間:湯・15〜23:00 / 喫茶・15〜21:00(L.O 食べ物〜20:30 / 飲み物〜20:45)
日曜日のみ 朝湯 8〜12:00 /モーニング 8:30〜12:00(L.O 食べ物〜12:30 / 飲み物〜12:45)
※モーニングは売り切れ次第終了
定休日:十條湯 (金) ・ 喫茶深海(月・金)

Photo&Writing/Cream Taro

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