甲子園以外にも 半島で繰り広げられる「真夏の熱闘」

軒先に天日干しされたテングサ=松江市美保関町内

 5月から9月にかけて、島根半島の民家で見られるのが心(ところ)太(てん)作り。写真でよく目にするのは型抜き器から棒で突き出された透明のフォルム。みずみずしく涼感を誘う。

 だが先日、松江市美保関町の生産現場を見学して、恥ずかしながら認識を改めた。夏の甲子園ではないが、真夏の「熱闘」と言うにふさわしい。2、3人入ればいっぱいの作業場で、深鍋をのぞき込みながらテングサをじっくり煮込む。5分ほど傍らで見守ったが、熱気を視覚と体で感じた。

 さらにここ数年の猛暑続きで、大事な工程であるテングサの天日干しも苦労が増す。日光が強烈で、テングサが程よく乾く前に色が変わってしまい、良いあんばいに干すのが難しくなっているという。それでも主人は「陰干しでは…」と話し、太陽光が当たる庭先の一等地に、薄紅色のテングサを広げている。

 何より、地球温暖化に伴う海水温の上昇や、海藻を食べるウニの増加などの影響で、テングサ自体が手に入りにくいのが現状だ。足りない原材料は知り合いなどのつてを頼り、良質のものを取り寄せている。おいしい心太作りは、体力勝負だけでなく情報戦でもある。

 防腐剤が入っていない手作りの心太は、特有のにおいがなく、三杯酢やきな粉などにぴったり合う。つるっと口の中に入れると、甲子園で球児が安打を放った際におなじみの「ヒット・ファンファーレ」が頭の中に鳴り響いた。

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