ゴツプロ! 第8回公演『イノレバカ』開幕 祈り、煩悩、そして悟りと仏様。

下北沢・本多劇場にて、ゴツプロ!第八回公演『イノレバカ』が開幕した。
本作では、劇団ONEOR8の座付き作家・演出家で人間の内面を描き出す会話劇に定評のある田村孝裕が作・演出を担い、出演はゴツプロ!メンバーのほか、映画『火火』や『花筐/HANAGATAMI』等数多くの映像作品に 出演しPARCO PRODUCE 2021「ピサロ」等の舞台でも高い評価を得る窪塚俊介、2022年に第29回読売演劇大賞にて杉村春子賞を受賞した那須凜、劇団モダンスイマーズの劇団員でどうぶつ保護ハウス「さかがみ家」で保護活動にも力を注ぐ古山憲太郎、声優として数々の有名キャラクターの声を担当するほか自ら劇団を主宰し舞台俳優としても精力的に活動する田中真弓ら出演。

物語の舞台は、志雲(田中真弓)が住職を務める寺。出だし、「南無三…」と響く。アコースティックギターの調べ。ある寺、ここの住職である志雲の説法、客席に向かって語る、「誰かを恨んだことはありますか?」と問いかけ、「忘れることのできない、厄介な感情です」と言う。「妬まない、恨まない、裏切らない…難しい」と説く。彼女には4人の弟子がいる。その紹介シーン、お坊さんのいでたち。竜一(塚原大助)は元ヤクザ、功(浜谷康幸)は元営業マン、周平(佐藤正和)は元ミュージシャン、源太(44北川)は元ホームレス。皆、志雲を慕ってここに集まり、出家した。

寺のトレーナー・友野(古山憲太郎)は穏やかな雰囲気。そしてオープニングが…穏やかではない(笑)。このお寺は断食道場をやっている。この道場の人気企画。ここに集まる人々が、何故か、さらに曲者揃い(笑)。ここにやってきたのはイベント会社を経営している男・泉川(窪塚俊介)、夫婦で参加の一郎(福嶋浩康)とさくら(汀紗)。そして派手ないでたちのメロ(那須凜)が逃げ込んでくる。

この寺で繰り広げられる人間模様、ドタバタのすったもんだの大騒ぎ。豪快な大酒飲みのメロ、半グレ集団がやってくるが、絵に描いたような柄の悪さな連中がお寺で大暴れ。疎遠だった志雲の息子・孝志(泉知束)、母親が気にかかる。
もう煩悩の塊のような人々、志雲を慕って出家した面々も悟りを開いているわけではない。彼らもまだ、どこか迷いがあるようで、そういったところが人間的で共感を覚える。ましてや、メロ始め、お寺に訪れた人々は、心迷い、人生に迷い、そして欲望や本能に支配されている。冒頭の志雲の説法がことあるごとに脳内で繰り返される。

欲望や本能、生きとし生けるもの、人間なら誰でも持っている。そんな折に志雲に認知症の疑いが。合間、合間に志雲が登場し、説法をするが、田中真弓演じる志雲が、なんだか本物のお坊さんのように見えてくる。細かい笑いも随所に挟み込む(『ドラゴンボール』ネタが(笑))。元ホームレスの源太のささやかな嘘、銀座の料亭にいたと言い、一緒にいた他の志雲の弟子に突っ込まれるくだりなど、源太の気持ちが伝わる。出家しても嘘をつく、人間らしさ。

登場人物全員に、そんな人としての弱さが見えて、そこがなんともいえず、ほっとする。完璧な人間などいないのだ。「存在は空である」と言う言葉が出てくる。「色即是空」、「般若心経」にある言葉、この世にあるすべてのものは、実体ではなく、空無にほかならないという考え。つまり、この寺に訪れた者たち、いや、この舞台に登場する人々、そして劇場にいる観客全ては、この実体がないものに執着している。だが、それを払拭することはできない。できないから心を見つめる。

さらに「今は時間が経つのが早い」という言葉も出てくる。まさに「光陰矢の如し」、現代は時間の経過のスピードが早く感じられる、そしてじっくりと過去や未来を見つめる時間も余裕もない、はた、と考えさせられる言葉。物語は落ち着くところに行くのだが、コメディ仕立てで深い内容。そして志雲の認知症。そしてタイトルの『イノレバカ』の真意も明らかになっていく。上演時間は休憩なしのおよそ2時間だが、観終わった後に残る気持ち「よかったな」と。笑いながら、そしてふっと身に沁みる、『イノレバカ』。この意味は…劇場で!

コメント
作・演出 田村孝裕より
ゴツプロ!の新境地のようだ。 熱くて男臭い劇団員が僧侶を演じて自制を効かせ、パワフルな窪塚俊介くんと那須凜ちゃんが物語を 引っ張り、古山憲太郎先輩のにじみ出る優しさが芝居全体を包み込む。その中心に座るのがなんとも チャーミングな住職の田中真弓さんである。煩悩の塊のようなゴツプロ!が個性の強い客演陣ととも に禅の世界に挑むのは確かに奇妙で新境地だ。私自身もお釈迦さまの教えに触れ、今までにない作品 になった。我々の新境地をぜひ劇場でご覧いただきたい。

塚原大助(ゴツプロ!主宰)より
笑いの絶えない稽古場だった。
この空気をそのまま本多劇場に持っていきます。 演出の田村さんの言葉は、それこそ高名なお坊さんの説法のように役者を導き、それぞれの個性を引 き出していきました。ゴツプロ!がお送りするお寺エンターテイメント!! 老若男女問わず楽しんで頂ける作品となりました。皆様のご来場を心よりお待ちしております。

イントロダクション
都心からそう遠くはない、知る人ぞ知るお寺。
その境内。 ここの住職の説法が有名で、かつては人で溢れかえり、住職を慕って出家した者たちが今では僧侶となり、この寺で働いている。
元反社、元実業家、元ミュージシャン、元ホームレス…… 皆一度は地獄を見たが、今ではその個性を失うことなく、生き生きと暮らしている。 彼らが企画した修行体験や断食イベントも人気で人に感謝される人生を送っていた。 何もかも住職のおかげだ。
その住職が、ボケてしまった。

概要
ゴツプロ! 第8回公演「イノレバカ」
日程・会場:2023年8月30日(水)~9月10日(日)本多劇場
作・演出:田村孝裕
出演:塚原大助、浜谷康幸、佐藤正和、泉知束、渡邊聡、44北川 / 汀紗、福嶋浩康、大久保雛、高山陽平、尾崎大陸 / 窪塚俊介、那須凜、古山憲太郎 / 田中真弓
協賛:株式会社ニューロードグループ ヘアークリアー 株式会社イベント・レンジャーズ 炭火焼肉ホルモン劇場den 麺屋黒田 PASTA DINER PITANGO 中華とお酒 新花 SHINKA make me me BARBER-BAR
後援: SPC GLOBAL
企画・製作:ゴツプロ合同会社 <主催> ゴツプロ合同会社 WOWOW
問合:52@52pro.info

公式サイト:https://52pro.info/

撮影:渡邉和弘

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