徳島人のソウルフード!?「金ちゃんヌードル」50周年 焼そば登場の舞台裏

知る人ぞ知る人気カップ麺が、焼そばになった。徳島県人のソウルフードとも言える「金ちゃんヌードル」の焼そばが2023年7月、徳島製粉(本社・徳島市)から発売された。金ちゃんヌードルの発売50周年を機に開発された記念商品だ。エビや椎茸のトッピングはそのままに、「麺にこだわった」という開発の舞台裏を取材した。

一日に何度も試作する日々

「金ちゃんヌードルを、汁のない焼そばとして再現せよ」。開発チーム7人に、こんなミッションが与えられた。

白いカップ容器に油揚げ麺と粉末スープが入り、お湯を注げば出来上がる金ちゃんヌードル。あっさりした醤油味と5種類のトッピング(エビ、卵、豚肉、ねぎ、椎茸)がファンの心をつかんでいる。発売から味を変えていないという同社のロングセラー商品だ。

「金ちゃんヌードル味焼そば」の油揚げ麺を開発した二宮さん(提供)

入社16年目の二宮佳織さんも開発チームに任命され、油揚げ麺を担当した。「開発期間は半年ほどで、一日に何度も試作しました」。味付けの決め手となる粉末ソースの開発は、別の担当者が同時進行で進めた。

最も頭を悩ませたところは、焼そばはスープと一緒に食べられないため、味の出方が計算どおりではなかったところ。まず、麺に金ちゃんヌードル独特のモチモチ感を出すために試行錯誤した。

「長年ファンに愛されている『金ちゃんヌードル』のイメージを崩さないように、焼そばとして忠実に再現しようとしました。でも、麺をすすった時、滑りの良さがないので苦戦しました」

麺とソース、それぞれの開発を進めながら、お互いのバランスを確認する日々。二宮さんは、何パターンもの配合の組み合わせで、麺を作っては試食を繰り返した。「化学と数学の世界ですね」と二宮さん。

「計算上は『これで大丈夫だ』と思っても、実際に食べると食感が違ったりしました。焼そばの粉末ソースを絡めると、味の出方が違ってしまうんです」

そこで、配合のバランスを通常の思考パターンから外して調整してみたら、ある時、思いがけない相乗効果が生まれたという。

「うんうん」がゴーサイン

卵、エビ、椎茸、ネギ、豚肉の5種類のトッピングは「金ちゃんヌードル」と同じだが、焼そば用に配合を調整している(提供)

開発チームの7人は早速、会議室に集まって試食した。同社では営業部門の発言力が大きいといい、営業メンバーが頷かない限り、商品化はされない。

何度もダメ出しを受けた二宮さんだったが、この日はメンバーが「うんうん」と頷きながら食べ進めた。特別なコメントはなかったが、表情が「オッケー」と伝えていた。記念商品として発売が決まった瞬間だった。

「ホッとしたというよりは、逆に気持ちが引き締まる思いでした」と二宮さん。パッケージは金ちゃんヌードルと同じレトロな雰囲気でまとめ、お湯切り用のフタは「お客さまに感謝を伝えるため」(二宮さん)、コストよりも使いやすさを重視して選んだという。

レトロなデザインがかわいい「金ちゃんヌードル味焼そば」のパッケージ(提供)

「一般的な焼そばは麺の歯切れが良いのですが、弾力のある食感に仕上げました。『普通の焼そばじゃないんだよ』ということが、食べた人に伝われば」と二宮さんは話した。

実際に食べたファンからは、「しっかりした味わいで、麺が太めで、気に入っています」「期待通りで大満足」などの声がSNSに届いた。50周年にあたる2023年の限定商品として展開する予定だ。

すだちの追加で爽やかに

焼そばのもとになった「金ちゃんヌードル」は、1973年6月に発売。カップヌードル(日清食品)が1971年9月に日本初のカップ麺として発売されており、カップ麺の歴史でも古参の部類に入る。

もともと製粉業を営んでいた徳島製粉が、小麦粉の消費拡大を狙って即席ラーメンを開発したのが始まりだ。当時は社員5人がリヤカーを引いて、近所の小学校に商品を配布して認知度アップに努めたという。

二宮さんは「私が子どもの頃から、金ちゃんヌードルは身近なところにありました」と振り返った。西日本エリアを中心に「金ちゃんヌードル」の人気は根強い。

二宮さんら開発チームに、「オススメの食べ方」を聞いた。まずオリジナルの味で食べ進め、途中で徳島名産のすだちを絞ってかけると、さっぱりした味わいが楽しめるという。

「徳島の人は何にでもすだちをかけると言われますが」と二宮さんは笑顔。社内では他に、マヨネーズ、キムチ、ネギを追加する食べ方も人気だと教えてくれた。

徳島製粉の本社建物には、「金ちゃんヌードル」の大きな文字が踊っている(提供)

筆者も近所のスーパーで見つけた「金ちゃんヌードル味焼そば」を食べてみた。お湯を注いで3分。麺をすすると、ふわふわした食感で、色とりどりの5種類のトッピングのためか豪華な印象を受けた。「あっさり醤油味」のコピーどおりで濃すぎず、さっぱりと食べられた。

50歳の節目に、カップ麺から焼そばに姿を変えた「金ちゃんヌードル」。同社がヌードルと焼そばの食べ比べイベントを開いたところ、「焼そばが、やや優勢」だったという。皆さんは、どちらに軍配を上げますか。

さぬきクロスケ

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