どうする?ドローンショー「飛ばない」とき―ドローンショー・ジャパン山本代表「とても他人事とは思えなかった」

2023年8月8日、プロ野球の試合後に200機のドローンショーを含むイベントが予定されていたが、ドローンが不具合で飛ばずドローンショーが中止となった。

「とても他人事とは思えなかった」と話すのは、ドローンショー・ジャパン代表取締役の山本雄貴氏だ。ドローンショーにおけるトラブルの原因や対応と対策、ドローンショー発展に必要なことなど話を伺った。

とても他人事とは思えなかった

ドローンショー・ジャパンは2020年創業の金沢発スタートアップ。ドローンショー実施回数は国内No.1を誇る(2023年8月7日現在、同社調べ)。最初に、今回のトラブルのニュースを見ての所感を聞いた。

ドローンショー・ジャパン代表取締役の山本雄貴氏

――: 今回のトラブルはどのように知ったのか。また考えられるトラブルの原因は?

ニュースを見たり、実際に見に行った方からお話を聞いたりしました。200機のドローンを使って、星を連想させる演出をする予定だったようです。何らかの無線を使う機器による電波干渉ではないかと考えています。

――: 対応は十分だったのか?

通常は観客とドローンや電波機材は、安全面も考慮して一定の距離が取られているため、スマホなどの電波機器をオフにするように伝えることはしません。

ただ今回のように原因不明の電波障害が起きてしまった場合は、「Bluetoothや、ポケットWi-Fi、テザリングをオフにしてください」と場内アナウンスを流す対応は、僕も正しいと思います。ただ、試合終了後からショー開始までが短く、イベント主催者側のタイムリミットがすぐに来てしまったのが現実なのではないでしょうか?

あとは仮説ですが、撮影機材の影響を受けた可能性も考えています。であれば、電波を発する機器の電波強度と機体との距離において、何らかの対応がもっと必要だったかもしれません。撮影班がどこまで近くに入ってきていたのかにもよりますが。

――:よくあるトラブルなのか?

僕たちの経験では、ワイヤレスで動く音響機材やマイク、あとは最近、ライブ配信が増えているので、配信用の撮影機材などがドローンショーのアクセスポイントに近すぎると、干渉の恐れがあると考えています。

過去に、電波トラブルを経験

ドローンショー・ジャパンも、創業間もない2020年、石川県内の案件で、同様のトラブルを経験したという。参考事例として聞いた。

――: 過去、同様のトラブルはあったのか?

金沢市内の商店街の道の上に20機のドローンを置いて、商店街をバックに上空を飛行させ、その様子を撮影するという案件で、人通りのない深夜の時間帯に、飛行エリア一帯を封鎖して立ち入り管理措置を講じて実施しました。

いま思えば当たり前ですが、商店街には、いろんな建物があって、たくさんの事業所があって、そこからFree Wi-Fiなどの電波が漏れ出ているので、干渉するリスクは大きかったのです。

――: スマホのモバイルインターネットより、他の電波が干渉リスクは大きい?

はい。4G/LTEや5Gなどのモバイルインターネット回線は周波数帯的には干渉しないので、スマホで影響があるとしたらデザリングや、ワイヤレスイヤフォンなどで使われているBluetooth、ポケットWi-Fiなど。むしろ、一般の事業者さんが使っているルーターなどのほうが、僕らの経験上では影響が大きいです。

――: 原因を即時特定できたのか?

そのときは、ハードウェアの不調、熱など、いろいろな可能性を考えて、最終的に電波が一番疑わしいという結論に至りました。

そこで、たまたま交流のあった金沢市内の大手精密機器メーカー、I-O DATAの、電波や無線に詳しい技術者の方にも相談し、原因を特定できました。

――: その時の対応はどうしたのか?

日を改めて、場所も変更して実施しました。その時は観客が居ない案件でその点は助かりましたが、クライアントさんには大変迷惑を掛けてしまったため、良い教訓になっています。

実は、「原因不明だけど、なぜか飛ばない」というトラブルが、創業当時は何回かありました。その苦い経験からここ数年間で、電波については資格取得だけではなく、しっかりと知識を身につけられるよう、エンジニアに限らず全社でナレッジを蓄えてきました。

「2.4GHz帯」縛りの日本に危機感

スペクトラムアナライザーで見る周波帯のチャンネルグラフ、5GHz帯(左)、2.4GHz帯(右)

日本では電波法による規制で、屋外ドローンショーは2.4GHz帯を使う。気象レーダー等への電波干渉の恐れを鑑み、5GHz帯の使用が禁止されているのだ。しかし、さまざまな無線機器が使用する2.4GHz帯域は、電波干渉によるトラブルが起きやすい。日本のドローンショーの実情を、電波の側面から聞いた。

――: ドローンショーの現場で、2.4GHz帯で電波干渉し得る無線機器とは

スマホでは、テザリングや周辺機器とのBluetooth接続、ポケットWi-Fi、そして施設に設置されたWi-Fi機器、それからドローンショーを撮影するための機材などがあります。

――: 対策はどのようにしているのか?

スマホのテザリングなどはオフに、施設内のWi-Fi機器もできる限りオフにするよう、イベント関係者の皆さまには事前にご協力をお願いします。

2.4GHz帯の周波数帯は、日本国内で利用できるチャンネル数が14個ですが、1つのチャンネル幅が規格上22MHzであるため、11b/gで干渉なしで通信できる最大チャンネル数は4個です。

チャンネル設計としては、1ch・6ch・11ch・14chですが、14chに対応しない機器も多く、その場合、チャンネル数は3となります。規格より狭いチャンネル幅で通信し、1ch・5ch・9ch・13chの計4チャンネル同時利用を行える機種もあります。

最も重要なのは、撮影機材も含めて、可能な限り同じ周波数帯の電波を出しうる機器は、ドローンの飛行エリアおよび保安エリアには近づけないことです。あとは電波の強度と機器との距離も重要なので、現在どの電波が飛んでいるかが分かるスペクトラムアナライザーを用いて、常に通信環境をモニタリングしています。

――: 安全に観覧できる保安エリアとは?

航空局さんとは以前からコミュニケーションを取り続け、当社の飛行マニュアルでは、「高度150m未満の飛行であれば、70mの保安距離を確保する」としています。

――: 海外でも、2.4GHz帯でのトラブル事例はあるか

そもそも海外の場合は、2.4GHz帯で運用している国が少ないんですよね。グローバルなドローンショー開発コミュニティで質問を投げても、これという回答も得られていない状況です。

――: やはりグローバルでは、ドローンショーは5GHz帯がスタンダード

そうですね。でも厳密には、5GHz帯だからと安全とは限りません。日本では屋外での5GHz帯一般利用が禁止で、「空いているから安全」というだけのことなんです。5GHz帯が一般に開放されている国では、混雑具合によっては電波干渉リスクはあります。

――: 5GHz帯のメリットとは?

5GHz帯の方が、使えるチャンネル数が多いので、それだけ多くの機器を接続できます。ちょっとマニアックな話ですが、海外の何千台規模のドローンショーは、5GHz帯の5.2、5.6、5.7、5.8も使っているんですよね。

ちなみに最近では、6GHz帯も注目で、今後は屋外にも使用が広がると思っています。

――: 未だ2.4GHz帯縛りの日本が心配

海外の通信機器は2.4GHz以外の新製品がどんどん出てくるし、海外製のほうが優っている部分もあります。そういった最新のパーツを日本でも積極的に使える環境にして、技術をキャッチアップしていかないと、「本当に取り残されてしまう」っていう危機感はありますね。

ドローンショー実施の手順とリスク対策

続いて、ドローンショーの実施手順とリスク対策について聞いた。

――: ドローンショー・ジャパンのドローンショー実施手順は

ご依頼時、大まかな要件を確認してから、最初に現地調査を行います。飛行し得る場所に、技術スタッフが直接伺って、当社保有の専門機器を用いて、電波、GPS、磁場という3つの項目で、問題なく飛行できるかどうかを確認します。

以前は現地でテストフライトをしていましたが、今はノウハウがたまりテストフライトをしなくても現地調査が行えるようになりました。

現地調査が終わったら、アニメーションや音楽などコンテンツの作り込みと、関係省庁への届出を行います。航空局はもちろん、海上であれば海上保安庁、道路上であれば警察署など。続いて、リハーサル、本番、という流れです。

ドローンショー実施マニュアルの一部(提供:ドローンショー・ジャパン)

本番は、飛行開始時刻の約4時間前には現地入りして、現地調査時点から環境に大きな変化がないかを確認しつつ、本番準備を進めます。

――: トラブル時の対応はどうするのか?

屋外ドローンショーは、天候リスクもあるので、本番で飛行できなかった場合のキャンセルポリシーを、契約の段階で決めておきます。例えば予備日の設定など。予備日が設定できるのは花火大会とは違うドローンショーのメリットの一つでもあります。予備日が設定出来ない大規模なイベントであれば、予め保険にご加入いただくこともあります。

立ちはだかる「航空法」

また、日本のドローンショーの実情を、航空法の側面からも聞いた。

――: 航空法で苦心する部分とは

1つは、自動操縦について触れられていないことです。現行の航空法は、基本的にプロポ(コントローラー)を持った操縦者がドローンを飛ばすという、マニュアル操縦前提のルールになっています。

自動操縦ではエンジニアや自動飛行の設定者がキーパーソンですが、現行法では最終的に飛行開始ボタンを押した人が操縦者となり、安全運航のためパソコンのモニターを見続けていると、ドローン自体を見ていないからという理由で目視外飛行になってしまいます。

あと、操縦者は飛行時間を記録しますが、飛行開始ボタンを押しただけの人が、1回のドローンショーで10分間、1,000台のドローンを飛行したら、その人が10,000分って報告すればいいのかな、とか…。

催し物上空という定義も曖昧です。夏祭りの空撮などとは違い、ドローンショーは観客の上空は飛ばしません。保安エリアを確保して飛行するので、僕は催し物上空には該当しないという説明も可能だと思っていますが、まだ航空局の見解が分かれています。

――: 機体登録に関しても中々煩雑

超大変です。1機ごとのフォーム入力や登録料支払いのほか、ドローンショーの機体って見た目には全部同じなので、写真の登録も大変で、少し角度を変えるなど、機体ごとに変化を付けた写真を提出しています。

――: 法制度がアンマッチな気がするが

電波法も航空法も、最新の技術に法制度が追いついていないと感じます。法律の改定は、いろんな調整が必要で何年もかかりますが、技術は数カ月単位で革新が起こってくるので、ギャップがどんどん広がっています。

ドローンショー・ジャパンの「次の打ち手」

こうした現状を踏まえて、ドローンショー・ジャパンがどのような打ち手を講じているのか、直近の動きを聞いた。

――: ドローンショー・ジャパンの打ち手は

最近、ドローンショー分野では国内初となる、無線LAN規格における5GHz帯の屋外実験局免許を取得し、当社に限って5GHz帯を使ったドローンショーの提供が可能になりました。8月には都内で、5GHz帯の実験局を運用した900台のドローンショーに成功しました。

当社では、2.4GHzでは安全面を考慮し500台以上のドローンショーを実施しないようにしていたため、免許取得により1000台規模のドローンショーの実施が可能になりました。

また、国産機体の内製化も進めています。海外企業でのOEMだとフライトログを確認するのに制約があるため、トラブル時の原因究明がしっかりできないという課題がありました。自社開発なら、機体の構造や部品の仕様なども全て把握できる上に、パーツ単位で世界最先端を取り入れたモデルチェンジが容易になるので、例えば機体同士の間隔をグローバルスタンダードの1.5mより詰めていくなど、攻めにも転じられると考えています。

さらに、ドローン安全推進協議会様と連携協定を締結しました。これから、当社製品を購入してドローンショーを運営する事業者さんも増えてくるので、皆さんが安心して運用できるように、協議会さんや関係省庁とも連携しながら、エンタメ分野におけるドローンの運用に関するガイドラインを策定していきます。

ドローンショー専用国産ドローン「unika(ユニカ)」

ドローンショー業界、さらなる発展に向けて

最後に、ドローンショー業界に対する熱意や想い、さらなる発展に向けて必要なことを聞いた。

――: ドローンショーへのいまの想いは?

ドローンショーのいろんな現場に入って、お客様の感想や表情に直に触れて、「間違いなく喜びと感動を与えている」と確信しています。

ですので、一人でも多くの方に見ていただきたいですし、そのためには安全運航の徹底や、ルールの改正についても、関係各所と協力して、健全に業界が発展できるよう進めていきたいです。

そうすることで、どんどん感動が広がって、競合ももっと増えていって、切磋琢磨しながらさらに新しい次元のエンターテインメントショーに発展できると思っています。

――: 改めて、ドローンショーのさらなる発展に何が必要か?

ドローンショー運営事業者は、安全面には最大限配慮して、万が一の時にも事故にはつながらないよう、十分ケアしながら取り組んでいます。

今回のトラブルのように、飛ばすことが出来なかったのは同業者としても大変残念ではありますし、主催者さまには大変なご負担になっていることも分かります。

ですが、まだまだ発展途上の新しいエンターテインメントではありますので、「新しいことに挑戦しているのだから、大きな事故や怪我につながらなくてよかった」と、トラブル時も少し寛大に見ていただけると、日本の若者のさらなる挑戦や、マーケット拡大の後押しになるのではないかと思います。

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