野菜畑をゴルフ場に SDGsへの挑戦~隨縁CC恵庭コース

発案者でもある大萱生康成支配人

近年、至る所で目にするようになったSDGs、日本語では「持続可能な開発目標」と表現される。平和、平等、経済成長など、テーマは多岐にわたるが、最も話題となるのは環境問題への取り組みだろう。あらゆる個人や団体がそうであるように、ゴルフ場もSDGsを無視することは到底できない。さまざまなアプローチが考えられるなか、隨縁カントリークラブ恵庭コースではレストランで出るくず野菜などを堆肥に変え、敷地内で野菜を栽培するという取り組みを行っている。2年目の収穫を前に発案者でもある大萱生康成支配人に活動を始めたきっかけや苦労話、今後の展望を聞いた。

ジャンボ尾崎設計・監修の豊富な樹木につつまれた、北海道らしい雰囲気のゴルフ場

堂々たる構えのクラブハウスとその周囲のゆったりとした空間は北海道らしい雄大さ感じさせる。コースももちろん、広々と開放的なのだが、尾崎将司設計で攻略は一筋縄ではいかない。隨縁恵庭を教科書通りに短く紹介するなら、こんなところだろう。ゴルファーの目には触れることは少ないカート庫の裏に野菜畑があることはそれほど知れ渡ってはいないはずだ。

連絡ミスが引き起こした想定外の出来事

秋の収穫時期を待つ家庭菜園の域を超えた野菜畑(撮影6月下旬)

ざっと30m×20mほどの広さがあり、家庭菜園と呼ぶには大規模。「畑を始めたいので一部の芝をはがしてほしいとコース課に頼んだのですが、社内のどこで連絡ミスがあったのか、あんなに広くなってしまいました」。大萱生支配人は野菜を育てる前の段階から想定外の出来事があったことを明かした。

恵庭コースは全国に9つある隨縁リゾートのコースのひとつ。ストローを紙製に切り替えるなど、SDGsへの取り組みは本社が中心となって進められている。「恵庭コースが独自にできることはあまりなくて、私自身が出社する際、毎日持ってきていたペットボトルを水筒に切り替えるとか、本当に小さなことから始めました」。水筒を使う輪が2人、3人と広がっていく中で出てきたアイデアが、野菜くずなどで作った堆肥(コンポスト)を使った菜園だった。

ジンギスカンと共に提供されるズッキーニは、珍しい組み合わせとゴルファーに好評だとか

コースがクローズとなる冬の間に正社員だけで準備を進めていたが、春になって季節雇用の従業員がコースに戻ってくると「この規模でやるのは相当大変だよ」と指摘を受けた。「彼らの中には実家が農家という者も数人いて、野菜作りの苦労を知っていました。反対に私は苗を植えれば育つんだろうと簡単に考えていました」。畑に入り込んでくる芝や小石を取り除くのも一苦労。1年目はテストケースと考え、トマト、ピーマン、ズッキーニなど、さまざまな野菜の種や苗を植えたが、成果はまちまちだった。

悪戦苦闘とトライ&エラーの日々

トライ&エラーの繰り返しだが、お客様とのコミュニケーションのキッカケにもなると語る

「うまく育っても一気に収穫時期が来るので、コースのレストランではとても消費し切れないんです。もともと、野菜を販売することは考えていませんでしたし、農家の方が作るような立派な野菜ではないので、そのままでは売り物にはなりません」。ズッキーニはジンギスカンとともに提供し、珍しい組み合わせが好評だったが、それだけでは消費し切れないほどの収穫量。その他では、ししとう、ピーマンが1年目からメニューに組み込まれた。

通常の業務をこなしながら誰が畑仕事をするのも問題だった。「初めは物珍しさもあって、みんなが積極的に参加していたのですが、徐々に減っていき、一部の従業員の負担になっていました」。2年目となる今年は各部署の当番制にして、作業を分担している。コースの目土は以前から従業員全員で行っており、普段はデスクワークやフロント業務を担当するスタッフでも外での作業にそれほど抵抗はないのだという。「ちょっとハードですけど、事務職のスタッフにとってはいい気分転換。コース課など、普段から外で作業しているスタッフの方が余計な仕事が増えたと思っているかもしれません」。

時間がある時は、畑に出て様子を見る日々

2年目の今年は新たに山わさびやアスパラの根を植えた。「種から育てるつもりでいたら、詳しい方たちから『そんなことをやっているのは聞いたことがない』と笑われました。1年でできる野菜とは違い、食べられる大きさにものが収穫できるのは4~5年後だそうです」。クラブハウスに飾ることを考え、花の栽培も始めたが、こちらは野菜以上に難しく、悪戦苦闘している。まだまだトライ&エラーを繰り返していく段階だ。

コミュニケーションが生まれるきっかけに

堂々たる構えのクラブハウスと、その周囲のゆったりとした空間は北海道らしい

「コースのLINEに登録していただいた方には作業風景や収穫の様子をお伝えしているので、徐々にお客様からの反応もいただけるようになりました」。農作業へのアドバイスもあれば、野菜を譲ってほしいという声もある。こうしたコミュニケーションが生まれることはコースにとっても、ゴルファーにとってもプラスの効果といっていいだろう。

従業員全員が楽しみながらSDGsに取り組むというのが、大萱生支配人が思い描く理想の姿。「一番楽しい収穫の時期が、ゴルフ場の繁忙期と重なってしまい、全員でできないというのは誤算でした(笑い)。それでも、できる限り長く、この菜園を続けていきたいと思っています」。大きな野望を抱くのではなく、無理のない範囲でできることを続けていく――。期せずして、隨縁恵庭にジャンボが仕掛けた罠を攻略するためのヒントにもなっているのかもしれない。

隨縁カントリークラブ恵庭コース ゴルフ場詳細

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