通信制高校の生徒数が過去最多、大学の通信教育課程に与える影響とは US進学総研

高等教育機関の調査分析などを行うUS進学総合研究所は、2023年8月23日に文部科学省が公表した「学校基本調査 2023年度(令和5年度)速報値」の結果から、過去最多、過去最高の伸び率になった「高等学校(通信制)の生徒数」に注目。大学の通信教育課程に与える影響を考察した。

2023年度の文部科学省「学校基本調査」によると、2023年5月1日時点での高等学校(通信制)の生徒数は26万4,797人で前年比11.1%増で過去最高となった。男女別に見ると特に女子の伸びが顕著で、2022年度より男女逆転した。設置者別(公立・私立)での生徒数推移をみると、2003年小泉内閣が規制緩和策として導入した教育特区により、2004年以降に株式会社の通信教育高校が多く開校したことで私立は伸び続け、公立は減少を続けてきた。しかし、2022年度から公立も前年を上回り、増加に転じている。

通信制高校はコロナ禍の影響で通信制への認知が広がったこともあり、全国で通信制高校の新規開校やキャンパス新設が相次いでいる。また、全日制を設置している高校が通信課程を併設する例も多く、高校進学時に、全日制で毎日通うか、通信制で通う日数を選択するかを選ぶような環境になってきた。通信制高校の中で最も生徒数が多いのは、学校法人角川ドワンゴ学園が設置するN高等学校とS高等学校。在籍者数は、2万5,041人(HP掲載、2023年6月30日時点)と、全国の通信制生徒数の約1/10を占めるまで成長している。

そうした社会状況を背景に、2025年4月に、オンライン大学「ZEN大学(仮称)」を開学する構想がある。株式会社ドワンゴと公益財団法人日本財団が提携して設立するもので、定員は1学年5,000人。発表によると、知能情報社会学部の1学部で「人文・社会」「情報」「数理科学」「デジタル産業」「クリエイティブ」の関連科目が用意され、文理ともにある程度の学び分野が網羅されている。

通信制高校2022年3月卒業者は7万993人。うち大学進学者は1万2,722人で大学進学率は17.9%。全体の大学進学率は56.6%なので、通信制高校の大学進学率とは大きな差がある。だが、通信制高校で通信に慣れた生徒は大学についても通信制を選択する可能性がある。また、コロナ禍を経てオンライン授業にも慣れた全日制高校からも通信制大学を選択することも十分に考えられる。ZEN大学の1学年5,000人という入学定員の大きさを考えると、2025年度は、通学課程の大学にも大きな影響があるではないかと予測される。

現在、学部で通信教育課程を学生募集している大学は43大学。うち通信課程のみ設置は6大学(放送大学、東京通信大学、ビジネス・ブレークスルー大学、星槎大学、八洲学園大学、サイバー大学)で、その他37大学は通学と通信課程を両方設置している。両方設置している大学の通信教育課程では、通学課程に比べて学べる学部学科は限られるほか、社会人をメインの対象としている場合もある。

今後は大学進学においても、高校生が通学か通信かを選択する時代に入ってくると考えられる。大学は、通学課程の中にオンライン講義を取込んでいくことはもちろん、オンライン大学のZEN大学の開学をきっかけとして「通信教育課程」のことを本格的に考え、見直していく必要がありそうだ。

参考:【US進学総研】通信制高校生徒数の大幅増加から、大学の通信教育課程について考えてみる

【文部科学省】令和5年度学校基本調査(速報値)について公表します(PDF)

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