<レスリング>【2023年全日本学生選手権・特集】モンゴル・パワーは土俵の上だけじゃない! バトバヤル・ナムバルダグワ(育英大=男子フリースタイル125kg級)が1年生王者へ

 

 今年7月、「モンゴル」「レスリング」「千葉・日体大柏高校」といった言葉が、新聞やテレビをにぎわせた。大相撲名古屋場所で優勝した豊昇龍は、モンゴル出身の関取で、元横綱・朝青龍の甥っ子。

 レスリングの選手として日体大柏高に留学し、国技館で見た相撲に引かれてマットから土俵に転向。優勝杯を手にするまでに成長した。横綱に昇進する可能性も秘めており、このあと、前記の3つの言葉が、何度、紙面をにぎわすことだろうか。

 今年の全日本学生選手権でも、「モンゴル」「レスリング」「千葉・日体大柏高校」の選手が強さを見せ、1年生王者に輝いた。男子フリースタイル125kg級に出場したバトバヤル・ナムバルダグワで、育英大の男子選手として初の学生王者へ。グレコローマンでも、優勝した選手に惜敗しての3位入賞。女子が台頭している同大学に、男子躍進の道をつくりそうな予感を感じさせた。

▲4試合を勝ち抜き、育英大の男子選手初の学生王者に輝いたバトバヤル・ナムバルダグワ=撮影・保高幸子

準決勝の“国際試合”を制して優勝を近づけた

 「練習でやってきたことを出すことができきた。うれしいです」と、1年生にしての学生タイトル奪取を振り返ったナムバルダグワ。決勝の相手は、グレコローマンで昨年のJOCジュニアオリンピックU20優勝、今年の明治杯全日本選抜選手権は3位と力をつけている山田康瑛(山梨学院大)。ナムバルダグワは、テークダウンを奪うと、グレコローマンにはないアンクルホールドで攻撃し、わずか44秒で快勝。優勝を引き寄せた。

 「グレコローマンで実績のある選手でしたし、差しも強いので…(油断はできなかった)」と謙遜するナムバルダグワだが、反対側のブロックで3連覇を目指す出頭海(中大)が途中で敗れた状況で、実質的な決勝は準決勝のアビレイ・ソヴィット(山梨学院大)だったことは否定しなかった。「自分より大きい選手とは、やりづらいという気持ちがありました。実際に闘ってみて、予想通りやりづらかったし、強かった」と言う。

▲準決勝でアビレイ・ソヴィット(青=山梨学院大)に競り勝ったナムバルダグワ

 ソヴィットはカザフスタンからの留学生。日本選手以上のパワーの持ち主とも思えるが、「(日本選手とは)あまり変わらなかった」とのこと。自分より身長があったことがやりづらさの要因だったそうだが、低いタックルに活路を見い出し、うまくポイントを取れたことが勝利につながったと振り返った。

相撲ではなくレスリングを選んだ以上、オリンピックへ

 5月の東日本学生リーグ戦では、日体大の選手を含めて5戦全勝(うち4試合にテクニカルフォール勝ち)。6月の東日本春季学生選手権・新人戦では両スタイルで優勝と、進学後は順調すぎるほどの滑り出し。「大学でも練習をしっかりやっていますから」と話し、練習の方向性が正しいことを強調。チームに125kg級の選手はおらず、自分を除くと一番大きい選手は92kg級の選手だが、「小さい選手が相手でも、工夫次第で強くなれると思います」と、ハンディとは考えていない。

▲チームの男子初の学生王者に君臨したナムバルダグワ。育英大の男子の飛躍のスタートとなるか

 高校時代も全勝だった(全国7大会で優勝)。ここまでで悔やまれることがあるとすれば、今年7月のU20アジア選手権(ヨルダン)決勝でイランの選手に敗れて優勝を逃したこと。今の実力と経験値では、国際舞台ではまだ通じないことを感じており、その思いが飛躍へのエネルギーとなっている。

 豊昇龍の話を出すと、「自分も相撲かレスリングか、迷ったんですよ」とのこと。レスリングを選び、高校から本格的に始めて約3年。「これで(レスリングを)終わりにするのは、どうかな」と思い、もっとやってみようと考えて今があるという。「選んだ以上、モンゴル代表として世界大会、そしてオリンピックを目指したい」と力強く話した。

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