奈良県警実弾紛失で違法な取り調べ 奈良県に約297万円の賠償命令 奈良地裁判決

判決結果に対し、思いを語る原告側の弁護団=31日、奈良市中筋町の奈良弁護士会館

 奈良西署が実弾5発を紛失したと誤認した問題で、同署の20代男性巡査長が実弾を盗んだと疑われ、奈良県警から違法な取り調べを受けてうつ病を発症したとして、県に対し慰謝料など約820万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が31日、奈良地裁(寺本佳子裁判長)であった。寺本裁判長は県に対し、約297万円の支払いを命じた。県警は控訴するかについては「お答えできない」としている。

 寺本裁判長は判決理由で、「事件性の誤認の原因は、県警本部による実弾配分時の確認不足および奈良西署内におけるずさんな点検体制の継続にある」とし、「原告に対する嫌疑の根拠は薄弱であるのに犯人であると断定し、原告の人格的尊厳を傷つける発言を繰り返して自供を迫った。職務上の法的義務に違反したものというべき。原告は現職の警察官という立場上、取り調べを拒否することは事実上困難であった」と指摘した。一方で「原告は身柄拘束を受けておらず、無実が判明して県警の謝罪を受けた」とした。

 判決後の会見で原告代理人の松田真紀弁護士は「違法な取り調べであるという事実が認められ、自白さえ取れればいいという警察の旧態依然とした捜査手法に警鐘を鳴らした判決と受け止めている」とした一方で、損害賠償の金額については「日本の裁判における慰謝料の基準が低いことを考えると仕方ない部分もあるが、原告の損害を埋められるものではない」と述べた。

 訴状によると、奈良西署は昨年1月に拳銃の実弾5発を紛失したと発表。前日に銃庫の点検をしていた男性巡査長は窃盗を疑われて連日、長時間にわたる取り調べを受けた。「お前しかおらん。うそつくな」などと自白を要求され、精神的苦痛から男性巡査長はうつ病を発症し休職していたが、県警は同年7月、実弾紛失は配分ミスによる誤認だったと発表した。

 県警監察課の奥村直樹首席監察官は「このたびの判決結果を真摯に受け止め、再発防止に努めて参ります」とコメントしている。

© 株式会社奈良新聞社