悩む子ども標的 グルーミング被害続出 SNSで甘言、家出誘う

犯罪被害を受けた子どもの立ち直りを支援する県警少年サポートセンター(写真はイメージ)=水戸市柵町の県水戸合同庁舎

交流サイト(SNS)で悩みを抱える子どもたちに近づき、性的行為に及ぶ「オンライングルーミング」の被害が目立っている。茨城県警が今年7月末までに未成年者誘拐容疑で立件した4件は全てSNSが絡む。「相談に乗るよ」など優しい言葉で巧みに近づくため、子どもが事件後も被害と気付かないケースもあり、専門家は、明るみに出た事件は「氷山の一角」と警戒を呼びかける。

■狙われる少女たち

今年5月中旬、県央地域に住む1人の女子中学生が、電車を乗り継いで静岡県を訪れた。向かった先は同県河津町に住む30代男の自宅。中学生には家出願望があったという。

「泊まるところは決まっていますか」「6、7月にお手伝いさんが来ますが、それまでは泊めてあげられる」。男はX(旧ツイッター)でメッセージを送って中学生を自宅に誘い出し性交。中学生はその後、1人で神奈川県内にいるところを保護された。

男は、営利目的等誘拐(わいせつ誘拐)などの容疑で逮捕、起訴。捜査関係者によると、調べに「最初からわいせつ目的で、家出願望のある女性を探していた」という趣旨の供述をしているという。

インターネットやSNSの発達で、子どもを狙った大人との「出会いの場」はオンライン空間に広がった。

各種交流サイトには「#家出中」「#誰か泊めて」「#死にたい」など、未成年からとみられる投稿が相次ぐ。一方、そうした投稿を受け止める「困っている女の子いたらDM(ダイレクトメッセージ)を」「体目的じゃないから安心して」などの投稿も飛び交う。

■面会要求罪を新設

SNSで子どもたちに寄り添う姿勢を見せながら、裸の写真を送らせたり、家出先として自宅に来るよう仕向けたりする手口は、動物の毛繕いになぞらえて「オンライングルーミング」と呼ばれている。

県警によると、SNSをきっかけに犯罪被害に遭った18歳未満の子どもは18人(7月末現在)で、前年同期比8人増。大半は中高生だった。被害者数はこれまで減少傾向が続いていたが、2022年は前年比12人増の35人と増加に転じた。

子どもの立ち直りを支援する県警少年サポートセンターには近年、保護者から「援助交際のような投稿がある」「ブランド品を持っている」などの相談が寄せられるという。

同センターの酒井克子さんによると、子どもたちがSNSで知り合った大人と会う理由は「家出したかった。そのためなら何でもする」「性関係で自分は進んでいると周りに自慢したい」などさまざまだ。

子どもたちの相次ぐ被害を受け、7月に施行された改正刑法では、16歳未満にSNSを通して近づき、面会や性的な写真などを要求する「面会要求等の罪」を新設。違反者は1年以下の懲役か50万円以下の罰金が科せられることになった。

■表面化阻む「信頼」

オンライングルーミングによる性被害は表面化しにくいのも特徴。背景には、加害者と被害者の間に構築された「信頼」がある。

筑波大の原田隆之教授(犯罪心理学)は「被害後も相手がいい人だと思い続け、被害を受けたと認識しにくい」と指摘。中には、自分が会いに行ったことが原因で相手が逮捕されたと悩むこともあるという。

しかし、インターネットに流れた画像を全て消すのは難しく、受けた被害は心的外傷(トラウマ)になりかねない。

原田教授は「相手は何枚も上。子どもたちがSNSとの付き合い方を学べる機会を増やさなければ、被害は止まらない」と強調した。

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