巡査部長「捜査情報」を知人女性に漏らして逮捕…地方公務員“守秘義務違反”の罪とは?

大阪府警は「今後の捜査結果を踏まえ、厳正に対処します」としている(白熊 / PIXTA)

8月17日、大阪府警は知人女性A(30代)に対し、職務上知り得た秘密を漏らしたとして地方公務員法違反容疑で大阪府警西成署・薬物対策係に勤務していた野村孝博(47)巡査部長を逮捕した。

野村容疑者は令和3年12月に別の事件で知り合ったAに好意を抱き、Aやその知人男性らが窃盗事件や薬物事件の捜査対象になっているなどの職務上知り得た秘密をAに漏らしていたという。

「野村は別件で取り扱ったAと昨年11月ごろからプライベートで会う関係になったようです。Aに好意を抱いていた野村はAに生活費などを支援したり、今年2月下旬から3月中旬ごろにかけ、(知人男性が窃盗事件で)“内偵捜査が入っている”“下手したら逮捕される”などと電話で警告したり、A本人や窃盗事件とは別の知人男性が薬物事件の捜査対象になっていることを漏らしていました」(大阪府警担当記者)

逮捕前の任意の取り調べに対し野村はAに「今後かかわりを持つな」「巻き込まれるぞ」などと伝えていたが、「捜査情報は漏らしていない」と容疑を否認。しかし、Aの携帯電話を押収したところ捜査情報に関する野村との会話やAの知人女性との会話が残っていたため、大阪府警が事実関係をAに確認。Aが野村から電話があったことを認めたため逮捕に至った……。

野村の逮捕後大阪府警は「警察に対する信頼を損なう事案であり、府民の皆様に深くお詫びいたします。今後の捜査結果を踏まえ、厳正に対処します」とのコメントを発表した。

地方公務員は「守秘義務」を課されている

本件に限らず、今年5月には福岡県警の男性警部らが報道関係者や知人に対して事件や事故の情報をSNSで漏えいするなどの地方公務員法違反事件が相次いでいる。このように警察官などの地方公務員が情報漏洩漏えいなどによる地方公務違法違反に問われた場合、どのような量刑が想定されるのだろうか。

大阪府警に勤務経験もあり、刑事事件の対応も多い堀田和希弁護士に地方公務違法違反についての見解を聞いた。

「地方公務員は地方公務員法34条により守秘義務を課されています。そして、守秘義務違反があった場合は『一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金』が科されることになります(同法60条2号)。また、住民基本台帳の本人確認情報については、取り扱う職員に別途秘密保持義務が特別に課されています(住民基本台帳法30条の26又は30)。

そのため、上記秘密保持義務に違反した場合は『二年以下の懲役又は百万円以下の罰金』が科されることになり、単なる地方公務員法違反より重い処罰が下されることになります(同法42条)」

そして、導入後にトラブルが相次いでいるマイナンバーに関しては「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(マイナンバー法)で情報保護に関して別途規制がなされています」(同前)という。堀田弁護士が続ける。

「同法では、守秘義務違反のみならず、地方公務員がその職権を濫用して専らその職務の用以外の用に供する目的でマイナンバーの情報を収集した場合でも『二年以下の懲役又は百万円以下の罰金』が科されることになっています(同法52条)」

役職の種別・高さで刑は重くなる?

このように、地方公務員が職権を濫用して職務外の用途に使用することは厳しく制限されているようだが、果たして、地方公務違法違反容疑に問われた場合、その役職(知り得る情報の濃淡)などによって量刑の重さに違いはあるのだろうか?

「違いが生じる可能性が高いです。前述のとおり、法律は住民基本台帳に関する情報を漏えいした者には単なる地方公務員による守秘義務違反よりも重い罰則を予定しています。また、マイナンバーについては、漏えいのみならず情報を収集したことについても処罰を予定しています。そのため、法は情報の内容について情報価値ないし秘匿性の高いものほど法的保護の必要性が高くなることを予定していると考えられます。

となれば、役職の種別及び高さで知り得る情報が濃く(=情報価値・秘匿性が高いものに)なるかと思いますので,当該情報の漏えいについては法的保護の必要性がより高い情報を漏えいしたことになるため通常の職員よりも重い処罰が下される可能性が高いかと思います」(同前)

国民の利益に直結する情報を扱う立場の人間のモラルが問われている。

© 弁護士JP株式会社