妊娠中でも夫は飲み会に…「私だって行きたいのに」妻が恨みを募らせた卑怯な“決まり文句”とは

妻は妊娠中、飲み会を“我慢”。つわりで体調不良も起こるが夫は…(hirost / PIXTA)

「旦那デスノート」という言葉を知っていますか? 夫の生活態度に不満を持つ妻たちが、この言葉をハッシュタグとして用いSNS上に日々の愚痴を投稿しています。夫の死を願う直接的な言葉にたじろぐ人もいるのではないでしょうか。「そんなものを書くくらいなら、さっさと離婚したらいいのに」と冷笑する人もいるかもしれません。

しかし、それぞれに離婚したくても踏み切れない事情もあります。「そんな中で『夫が死んでくれれば問題が解決する』と思う人がいることは、決して特別レアなケースではない」と説明するのは、働く女性などへの取材を続けるジャーナリストの小林美希さんです。

この記事では、七瀬美幸さん(仮名、38歳)を通して、妻の目線から夫婦関係を見ていきます。第3回目は、妊娠中の美幸さんと夫の様子が語られます。(連載第1回はこちら/#4につづく)

※この記事は小林未希さんの書籍『夫に死んでほしい妻たち』(朝日新聞出版)より一部抜粋・構成しています。

妊娠中でも夫は平然と飲み会に

妊娠が分かってすぐ、美幸さんは飲み会を次々にキャンセル。取引先との食事も極力、避けた。行かなければならない時もあったが、妊娠初期の頃は、相手によっては妊娠していることなどプライベートなことを言えない場合もあるため、「風邪気味で」とお酒を断った。

世のおじ様たちやアルコール大好きの相手は、美幸さんの妊娠に気づくわけもなく「飲めばアルコール消毒だ」とお決まりのセリフとなって、そこを断るのがまた不自然で苦労した。

胎児のためにお酒好きでも我慢してソフトドリンクを注文する(yukiotoko / PIXTA)

それまで、豪快にお酒を愉しんでいた美幸さんにとって我慢は辛かったが、胎児のためだ、仕方ない。仕事では短めのスカートにハイヒール姿だったが、「冷えは良くないだろう」と、パンツスーツとローヒールに変えた。

そんなコツコツとした努力をしているそばで、夫は平然と飲み会に行き続け、帰りは午前様だ。プチプチとした怒りを感じると、急にはらわたの煮えくり返る思いがした。

「私だって行きたいのに、あんただけ、普通に飲み会に行ってるんじゃねえよ!」

美幸さんが苛立って喧嘩になると、夫の決まり文句が帰ってくる。

「同じ会社にいるんだから分かるだろ。仕事なんだから仕方ないじゃん。飲み会行かないで左遷されてもいいわけ?」

子どもが生まれるのにそれは困る。心の中で「卑怯者」と繰り返すしかなく、ますます恨みが募った。

「いっそ事実婚にしよう」

妊婦健診も完全に幸せを感じる時間にはならなかった。

健康保険証は戸籍の名前のため、夫の姓となっている。名前を呼ばれるたびに「私の名前じゃない」と感じて暗い気分になった。美幸さんの旧姓と同じ人が呼ばれると、思わず自分のことだと思って間違って診察室に入るくらいだった。

夫に「いっそ事実婚にしよう」と切り出すと、「そんなことしたら、非嫡出子になっちゃうから子どもが可哀そう」と、もっともらしく返された。

「今に見てろ。産んだら仕返ししてやる。離婚だ、離婚」と、腹をくくった。

日本の場合、「子どもをもつ=結婚」という意識が高く、実際、「でき婚」も増加している。その一方で、事実婚も社会的に認知されているため、夫婦別姓を貫きたい、婚姻届を出す意味を感じないなどの理由で事実婚にし、自治体に「未届の夫・妻」として登録することで、夫婦と同じように扱われるケースも増えている。

この場合、税制以外の社会保険や年金制度が法律婚と同等に扱われる。事実婚で生まれた子どもは非嫡出子となってしまうが、2013年に最高裁は、嫡出でない子の相続分を嫡出子の2分の1に定めた民法の規定は違憲であるとして、2013年9月5日以降の相続について、非嫡出子も嫡出子と同じ相続分となった。

そうしたことを知らなかった美幸さんは、夫の言うイメージに負けてしまい、事実婚への変更を強行できなくなってしまった。

夫だけ外食「私もお腹空いたんだけど…」

悪阻(つわり)がひどくて何も食べられないでいた時、夫は「代わってあげられなくてごめんね」と口では言うものの、すぐ隣でバクバクと食事をしている。そこにもイラっとする。

せめて、どこか外で食べてきてよ……。

外食したらしたで、美幸さんには弁当の1つも買ってはこなかった。美幸さんが「私もお腹空いたんだけど」とぼそっと言っても、夫は「だって食べられないと思って」。それはそうかもしれない。でも、何かいるか聞いてくれても良いのではないか。美幸さんは「食べ物の恨みは怖いよ」と睨みをきかせると、夫は慌てて買い出しに走った。

妊娠後期になり、お腹の大きさが目立ってくると、夫は出産への期待が高まり、暇さえあればお腹の中の赤ちゃんに話しかけるようになった。前述したように、身重の美幸さんが転びはしないか常に気遣ってもくれる。

2人の姿はまるで絵に描いたような幸せな夫婦で、美幸さんは「これなら幸せな家庭が築けるかも」と、感じるようになっていた。

しかし、その期待はすぐに裏切られていく。

(つづく)

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