岸田政権でも「関東大震災 朝鮮人虐殺はなかった」デマ! 松野官房長官は「記録ない」と大嘘、小池都知事は朝鮮人ヘイト集会許可

8月30日会見する松野官房長官(政府インターネットテレビより)

本日9月1日、関東大震災の発生から100年を迎えた。1923年、大地震の混乱のなかで「朝鮮人が暴動を起こした」「井戸に毒を入れた」などというデマや流言が広がり、多数の朝鮮人や中国人が、日本の警察や軍、自警団によって虐殺されたのは歴然たる事実だ。100年という節目である今年は、森達也監督の初の劇映画『福田村事件』が公開されるなど、朝鮮人虐殺の歴史にあらためて注目が集まっている。

ところが、そんななかで「岸田政権の要」である松野博一官房長官から歴史否認ともとれる発言が飛び出し、SNS上で批判が巻き起こっている。

松野官房長官は8月30日の記者会見で、関東大震災当時の朝鮮人虐殺について、こう述べた。

「調査したかぎり、政府内で事実関係を把握できる記録が見当たらない」

この発言が報じられると、SNS上ではツッコミが殺到。というのも、政府がまとめた報告書において、しっかりと朝鮮人虐殺についての事実関係が精査されているからだ。

それは、内閣府の中央防災会議の「災害教訓の継承に関する専門調査会」が2009年にまとめた「1923 関東大震災報告書【第2編】」だ。同報告書では、〈関東大震災時には、官憲、被災者や周辺住民による殺傷行為が多数発生した〉〈虐殺という表現が妥当する例が多かった。殺傷の対象となったのは、朝鮮人が最も多かったが、中国人、内地人も少なからず被害にあった〉〈自然災害がこれほどの規模で人為的な殺傷行為を誘発した例は日本の災害史上、他に確認できず、大規模災害時に発生した最悪の事態〉と指摘している。この報告書は、いまも内閣府のHPで閲覧することができるものだ。

さらに政府は、朝鮮人虐殺につながる流言に政府がお墨付きを与えていたことを示す文書をも保管している。

今年6月15日におこなわれた参院法務委員会では、社民党の福島瑞穂党首がある文書を提示。それは警察を所管した内務省警保局が1923年9月3日に地方長官に向けて打った電信文で、朝鮮人による放火などの流言を事実とみなし、各地に取り締まりを求める内容だった。これにより各地で自警団がつくられ、虐殺事件につながったと見られる。これは政府が流言を広めたことを明確に示す史料だ。

そして、福島党首は「文書の保管は防衛省がしていることを確認させてほしい」と質問。すると、防衛省の安藤敦史防衛政策局次長は、防衛省の研究機関である防衛研究所の「戦史研究センター史料室」で保管していることを認めたのである。

つまり、松野官房長官は、内閣府や防衛省がこうした報告書や記録を残しているにもかかわらず、「記録が見当たらない」などとすっとぼけ、さらには今後調査をおこなうかどうかについても否定的な見解を述べたのだ。

●安倍政権の歴史修正主義を岸田政権も踏襲! 朝鮮人虐殺も「記録見当たらない」と否定論に加担

本サイトでは繰り返し指摘してきたが、近年、日本では朝鮮人虐殺の史実を葬り去ろうとする動きが加速してきた。1990年代後半から「従軍慰安婦」や南京虐殺など日本の戦前・戦中の犯罪行為をなかったことにしようとする歴史修正主義者の動きが台頭したが、2000年代後半からそれはさらにエスカレートし、明らかな史実である関東大震災の朝鮮人虐殺まで「なかった」と主張する書籍や団体が登場。これがネット上の「朝鮮人虐殺はなかった」デマを爆発的に広めることとなった。

このような朝鮮人虐殺をめぐる明確なデマに対し、本来、政府は積極的に否定すべきだ。ところが、松野官房長官は否定するどころか、「政府内に記録が見当たらない」などと虐殺否定論に手を貸すようなことを発言したのである。批判が巻き起こるのは当然だ。

しかし、これは安倍政権下からつづいてきたことでもある。じつは2015年以降、朝鮮人虐殺にかんする質問主意書が衆参で複数回提出されてきたが、いずれも「政府内に事実関係を把握できる記録が見当たらない」という回答を寄せている。今回の松野官房長官の回答もこれを踏襲したものだというわけだ。

安倍政権が押し進めた歴史修正主義を岸田政権も引き継ぎ、負の歴史をなかったことにする動きを後押しするような言動に出る──。だが、これは政府だけで起こっている問題ではない。より深刻になっているのが、東京都の小池百合子知事の言動だ。

毎年9月1日には関東大震災で虐殺された朝鮮人犠牲者の追悼式典が墨田区の都立横網町公園でおこなわれているが、小池都知事は2017年から、「都慰霊協会が営む大法要で全ての震災犠牲者を追悼している」として式典への追悼文送付を拒否。本サイトでも繰り返し報じてきたとおり、この式典への追悼文は1974年以降、歴代の都知事たちが寄せてきたもので、数々の差別発言で知られるあのレイシストの石原慎太郎ですら送っていた。それを小池都知事は拒否しつづけているのである。

だが、朝鮮人虐殺から100年となる今年、東京都はさらに信じられない言動を見せている。

というのは、近年、朝鮮人犠牲者追悼式典と同時刻に、近距離にある「大正大震火災石原町遭難者碑」の前でヘイト集会を開催してきたヘイト団体「そよ風」が、今年はあろうことか、朝鮮人犠牲者追悼碑の前で「真実はここにある!関東大震災真実の朝鮮人犠牲者慰霊祭」なる集会を16時30分から開催すると宣言。これに東京都が許可を出した可能性が高まっているのだ。

●朝鮮人虐殺という史実を否定するヘイト団体「そよ風」と小池百合子の関係

「そよ風」はヘイト団体・在特会の関連団体で、「従軍慰安婦」問題や関東大震災朝鮮人虐殺の否定などを主張しており、2013年には大阪・鶴橋で「いつまでも調子にのっとったら、南京大虐殺ではなく『鶴橋大虐殺』を実行しますよ!」などとジェノサイドを扇動したヘイトデモに協力。群馬県の朝鮮人労働者の追悼碑をはじめ、各地の碑や説明板を自治体や政治家に働きかけて撤去させる運動を進めている団体だ。

さらに、「そよ風」は2019年9月1日におこなったヘイト集会において、「犯人は不逞朝鮮人、朝鮮人コリアン」「不逞在日朝鮮人たちによって身内を殺され、家を焼かれ、財物を奪われ、女子供を強かんされた多くの日本人たち」「その中にあって日本政府は、不逞朝鮮人ではない鮮人の保護を」などと発言。東京都は2020年8月、これらの発言を人権尊重条例に基づいてヘイトスピーチであると認定した。

つまり、東京都がヘイトスピーチをおこなったと認定した団体が、よりにもよって今年、朝鮮人犠牲者追悼碑の前で集会をやる、というのである。これには「ヘイトクライムの犠牲者を悼む場でのヘイトスピーチ集会を認めないで」と声があがり、8月29日にはノンフィクション作家の加藤直樹氏と劇作家の坂手洋二氏、小説家の中沢けい氏が呼びかけ人となり、公園の施設管理者である東京都に対し「利用制限」の判断を下してほしいと要望をおこなった。

ところが、東京都はメディアの取材に対して、許可の有無について「個別の状況は回答しない」と返答(毎日新聞8月30日付)。一方、「そよ風」は8月31日にもHPで集会の参加やニコ生でのライブ配信を宣伝している。つまり、東京都は「そよ風」に公園の占用許可を出し、その後も占用許可の取り消しなどをおこなっていないと考えられるのだ。

本サイトでは繰り返し言及してきたが、小池都知事が朝鮮人犠牲者に対する追悼文を取り止めてしまった背景にも、このヘイト団体「そよ風」との関係があると見られている。じつは小池氏は2010年、「そよ風」で講演をおこなっているからだ。

当時の小池氏は自民党の国会議員だ。そんな立場にある者がヘイト団体で講演をおこなうこと自体が許されないものだが、小池都知事が朝鮮人犠牲者への追悼文送付を取りやめたのは、この「そよ風」の動きと関係があったとしか考えられない。実際、「そよ風」が横網町公園内でヘイト集会を開きはじめたのは、小池都知事が追悼文送付を取りやめた2017年からだ。

しかも、小池都知事の歴史修正の姿勢は、東京都政にも多大な影響を与えている。それが2022年に起きた東京都総務局人権部による、現代美術作家・飯山由貴氏の作品に対する「検閲・上映禁止事件」だ。

●ヘイト団体の集会を許可する一方、朝鮮人虐殺の事実を認める作品を上映禁止にした東京都

2022年8月から11月まで、都の外郭団体・東京都⼈権啓発センターが運営する「東京都人権プラザ」において、飯山氏の企画展「あなたの本当の家を探しにいく」が開催された。しかし、当初は同企画展で飯山氏の映像作品《In-Mates》の上映会とトークが予定されていたのだが、同年5月、これに都の人権部から上映に待ったがかかった。

《In-Mates》の作中では、在日コリアンの歴史に詳しい外村大・東京大学大学院教授が「日本人の庶民が無実の朝鮮人を相当殺したのは間違いない」と話す場面が出てくるのだが、このシーンをめぐり、人権部の職員がこんなメールを東京都⼈権啓発センターに送ったのだ。

「都ではこの歴史認識について言及をしていません」
(小池都知事が関東大震災朝鮮人犠牲者追悼式典への追悼文の今年も送らなかったという内容の朝日新聞の記事を参照したうえで)「都知事がこうした立場をとっているにも関わらず、朝鮮人虐殺を「事実」と発言する動画を使用する事に懸念があります」

つまり、小池都知事が追悼文送付を拒否していることによって、都の人権部は歴史的事実である朝鮮人虐殺を「事実」と述べているだけのシーンを問題視し、上映禁止にしたのだ。繰り返すが、都の「人権部」が、である。

この東京都の検閲に対し、飯山氏は〈これは明らかに都知事への忖度であり、東京都人権部による《In-Mates》上映禁止の判断は、都政による在日コリアン(在日韓国人・在日朝鮮人)へのレイシズム、民族差別に他なりません。「人権が尊重される社会を実現する」ことを掲げているはずの東京都人権部による差別と検閲は、決してあってはならないことです〉と抗議。上映の実施や人権部からの謝罪などを求めた署名活動をおこない、今年3月1日には3万筆もの署名を人権部に手渡ししている。

しかし、人権部からの謝罪はなく、そればかりか、人権部はいまだに上映中止の理由を書面でも口頭でも飯山氏に一切説明せず。飯山氏らがいくら申し入れをおこなっても暖簾に腕押しで、ついに人権部の職員は「業務に支障が出ている、職員が萎縮する」という理由で飯山氏を都庁内の人権部にさえ入れなくさせてしまったのだ。

小池都知事は追悼文送付をやめた2017年9月1日におこなわれた定例記者会見において朝鮮人虐殺の事実をどう捉えているかを問われた際、「さまざまな見方がある」「歴史家がひもとくものではないか」などと回答した。つまり、歴然たる事実を「あった」と認めることを避けることによって、虐殺否定論にも理があるかのような含みをもたせたのだ。松野官房長官の「政府内で事実関係を把握できる記録が見当たらない」という発言も、これと同じものだろう。

小池都知事の姿勢が、差別を煽るヘイト団体の跋扈を許し、とんでもない検閲がまかり通る状況を都政に生んでしまったことを踏まえれば、松野官房長官の発言も、到底看過できるものではない。

本日9月1日は「《In-Mates》上映禁止事件があらわにしたレイシズムと歴史否認に抗する」ため、都庁前や新宿中央公園水の広場などにおいてデモやダイ・インがおこなわれる予定だ。小池都知事や岸田首相に対しては、朝鮮人虐殺の歴史を否認するような言動に強く批判するとともに、当たり前だがその事実を「あった」ものとしてはっきり発信するよう、要求しなければならないだろう。
(編集部)

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